介護態様の変更

前記のように将来介護費は平均余命まで認められるのが通常であるが、
症状固定時の介護体制がそのまま被害者の平均余命まで維持されるとは限らない。
そのため、将来介護費を正確に算出するには、現状の介護体制を踏まえ、
将来の介護体制がどのように変化していくのかを見極める必要がある。

以下、①施設介護から在宅介護への変更、②近親者介護から職業介護人に
よる変更について検討する。

①施設介護から在宅介護への変更
現状として施設介護が行われているにもかかわらず、在宅介護を前提とした
費用を請求する場合には、施設介護から在宅介護へ移行する蓋然性
(以下「在宅介護の蓋然性」という。)が認められる必要がある。
裁判例上、在宅介護の蓋然性は以下のような事情を考慮して判断されている。

○ 施設退所の時期・蓋然性、施設の性格
入所中の施設等が短期の入所しかできないような場所であれば、在宅介護を
肯定する方向につながる。

裁判例には、療護センターについて、終生療護施設ではなく社会復帰もしくは
在宅介護が可能となるように援助し、早期退院を目指す施設であるとして
在宅介護の蓋然性を肯定した例もある(千葉地判平成17年7月20日
自保ジャーナル1610号、東京高判平成14年8月8日自保ジャーナル
1473号、東京高判平成8年10月22日自保ジャーナル1187号)。
現在、療護センターの入所可能期間は最長5年程度(平均3年半)と
されていることから、近い将来に退所することを前提とせざるを得ないと
考えられる(赤本2008年下巻132頁)。

○ 在宅介護の可否に関する入所中の施設又は医師の判断
障害者の病状に対してそもそも在宅介護が可能であるかどうか、障害者の状況を
具体的に把握している入所中の施設又は医師の判断は信用性が高く、
在宅介護の蓋然性判断の重要な要素となる(福岡地判平成17年3月25日
自保ジャーナル1593号、さいたま地判平成17年2月28日
自保ジャーナル1586号)。

この点、療護センターに入所中の被害者については、裁判上、療護センターの
医師の意見書が証拠として提出されることが多く、この意見書には
「在宅介護の可否に関する意見」のほか、「療護センター入所中の被害者の
状態、退所後の在宅介護への移行に向けた計画の内容」、
「リハビリテーションの計画・内容」、「一時帰宅等の在宅介護の実績」、
「同様の障害者についての在宅介護に移行した者の割合、退所後の
在宅介護の状況」等が記載されているものがあり、このような意見書の
証拠価値は高いものと考えられる(赤本2008年下巻・138頁)。

○ 被害者の状況・意向
障害者であってもその本人の自己決定権を尊重すべきであるし、また、
本人の気持ちを尊重することがその病状の改善につながることも
考えられるため、障害者自身に自宅へ戻りたいという意向があるのか
どうかは重要な判断要素となる(千葉地判平成17年7月20日
自保ジャーナル1610号、横浜地判平成19年1月17日自保ジャーナル
1680号、札幌地判平成6年4月15日判タ868-227)。

○ 在宅介護に向けた準備状況
在宅介護に向けて、既に何日か在宅介護を試していれば、その実績から
在宅介護を肯定する方向へつながる。また、在宅介護に際して自宅改造が
必要な場合に、自賠責からすでに数百万円を受け取り、現実に自宅改造に
着手しているようなときには在宅介護を肯定する方向へつながる
(横浜地判平成19年1月17日自保ジャーナル1680号、
千葉地判平成17年7月20日自保ジャーナル1610号)。

逆に、「近い将来に施設からの退所が見込まれるにもかかわらず、
近親者による入所中の施設に対する在宅介護の申し出がなされていないこと」、
「自賠責保険金等を受け取っていながら、特段自宅改造に着手しない理由が
ないのに着手していないこと」、「長期間にわたって在宅介護の実績が
ほとんどないこと」などは、在宅介護を否定する方向の事情となる
(赤本2008年下巻・138頁)。

この点、在宅介護の蓋然性については、「将来的な介護計画」のほか、
自宅改造の着手の有無」、「自宅改造の計画の有無・内容(見積書、
図面等があればその証拠提出)」、「過去における在宅介護の実績」、
「他施設の入所申込の有無」等について、具体的に主張立証する必要がある
(赤本2008年下巻・138頁)。

○ 近親者の意向
被害者を自宅で介護しながら生活させてあげたいという近親者の意向は
在宅介護を肯定する方向に働く事情となる(京都地判平成14年2月7日
自保ジャーナル1443号、大阪地判平成18年6月26日自保ジャーナル
1656号、東京高判平成17年8月9日自保ジャーナル1621号、
さいたま地裁平成17年2月28日自保ジャーナル1586号)。

○ 被害者を受け入れる家庭の状況
介護に当たる近親者に平日は仕事があり介護ができない事情があっても、
職業介護人に依頼することで解決可能である場合には、その事情を
重視して在宅介護を否定すべきではない(赤本2008年下巻・139頁)。
裁判例においても同様の考えがとられていると思われる(横浜地判
平成19年1月17日自保ジャーナル1680号、
東京高判平成14年8月8日自保ジャーナル1473号)。

○ 施設介護と在宅介護の比較
在宅介護の方が施設介護よりも症状改善や認知症防止に効果が
あるという理由で在宅介護を基本とすべきとする裁判例(横浜地判
平成19年1月17日自保ジャーナル1680号)や、施設介護では
不特定多数の者から院内感染の危険があるという点を、在宅介護肯定の
事情とする裁判例(福岡地判平成17年3月25日自保ジャーナル
1593号)がある。

②近親者介護から職業人介護への変更
近親者介護から職業人介護への変更についても、職業介護人による介護が
行われる蓋然性が認められればそれを前提とした将来介護費が認定される。

名古屋高判平成18年6月8日(自保ジャーナル1681号)は、
介護にあたる被害者の母親が事故をきっかけに退職していたが復職を
希望している事案で、「本来、当然に(将来も含めて)家族のみの介護が
可能であるとはいえない」とし、母親が67歳まで、年240日の日中
について職業介護の必要性を認めた。このように、介護に当たっている
近親者が事故前に有職で、将来復職する意思があり、仕事内容等から復職が
実現する可能性がある場合には、職業介護人による介護への変更の蓋然性が
認められやすいと思われる。

なお、職業人介護への変更の蓋然性の立証の程度については、これを厳格に
求めると、近親者介護の介護費が職業人介護のそれよりも低額になりがちな
現在の実務においては、事実上、一旦開始した近親者介護を将来にわたって
強制することになりかねない。したがって、この蓋然性立証を厳格に
要求することは妥当でないと思われる。

この点、元東京地裁民事27部の湯川浩昭裁判官は「基本的な考え方としては、
施設からの退所が見込まれるところ、在宅介護を前提とした将来的な介護計画等
につき一応の主張・立証がなされた場合には、在宅介護の蓋然性が
否定される事情が存在しない以上、在宅介護の蓋然性を認めることが
相当であると考えます。

在宅介護の蓋然性が否定される事情が存在しない場合には、在宅介護を
希望する近親者の心情に対する配慮や患者自身の生活の質の確保といった
観点から、在宅介護の蓋然性を否定することは困難であると
考えられるからです。」とし(赤本2008年下巻・137頁)、
在宅介護の蓋然性の立証を厳格には求めない考え方を明らかにしている。




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