介護主体

介護主体としては、近親者と職業介護人とが考えられ、それぞれの介護の
メリット、デメリットは以下のように考えられる。

近親者メリット
・障害者本人の精神的安定が図られる

近親者デメリット
・慣れない作業による精神的・肉体的負担
・近親者が仕事を辞めなければならないこともある

職業介護人メリット
・専門的な介護を期待できる

職業介護人デメリット
・介護費用が高額化する

近親者介護と職業人介護とで介護費用の傾向について裁判例をみると
「1日あたりの介護費は、近親者は2000円から8000円程度の
幅にあり、4000円前後となるケースが多く見られた。また、職業付添人は
8000円から2万5000円程度の範囲で認められており、平均しても
1万5000円程度であり、この金額まで認められるケースが
多くなってきている。

① この点、職業介護人の費用については、必ずしもその実費相当額が
裁判上認められているわけではない。裁判例においては、「今後介護サービスの
充実により、現在よりも廉価で広範な介護サービスが受けられるようになる
可能性を否定できない」(大阪地平19・6・20自保ジャーナル第1705号)、
「今後の介護保険制度の動向やかなり遠い将来の介護費の額を現時点に
おいて的確に予測することは困難である」(東京地平16・6・29日自保
ジャーナル第1551号)、「現在の介護保険制度を前提とした介護報酬が
見直されないとは考え難いこと、今後はより廉価な介護施設や介護サービスが
充実する可能性もあること、介護産業が発展し、介護の内容、程度による
料金体系の細分化や合理化も予想できることからすれば、時間当たりの
単価を基礎として見積もられた高額な将来介護費用を損害額算定の基礎と
することはできない」(大阪高判平成16年6月10日自保ジャーナル
1550号)などとして、実費相当額よりも低額に抑えられがちである。

② また、近親者介護が職業人介護の場合よりも低額である点については、
「介護のプロとして専門的サービスを供給する職業的介護との質的な違いが
あることは否定でき」ないことや(高取・337頁)、職業介護人の
費用には利益が含まれていること(新次元・126頁)などを理由に
やむを得ないものと考えられている。そのため、職業介護人による介護の
場合の介護費の方が高額になる傾向にある。

近時の裁判例には以下のものがある。

○日額2万4000円を超える認定をした裁判例
・福岡地判平成17年7月12日自保ジャーナル1612号
→日額2万9392円
(※近親者介護4000円と職業人介護2万5392円の合計)
・広島地福山支判平成16年5月26日自保ジャーナル1550号
→日額2万6666円
・さいたま地判平成18年10月18日自保ジャーナル1675号
→日額2万7875円
・長野地判平成18年11月15日自保ジャーナル1675号
→日額2万5160円

○日額2万円程度を認める裁判例
・大阪地判平成17年3月25日自保ジャーナル1602号
・東京地判平成16年6月29日自保ジャーナル1551号
・東京地判平成17年2月24日自保ジャーナル1593号
・大阪地判平成18年4月5日

○日額1万8000円程度を認める裁判例
・東京地判平成16年5月31日自保ジャーナル1550号
・千葉地判平成17年7月20日自保ジャーナル1610号
・横浜地判平成19年1月17年自保ジャーナル1680号

③ そして、近親者介護人の年齢については、67歳までと考える裁判例が多い。
つまり、近親者介護人が67歳に達するまではその近親者が介護にあたり、
それ以降は職業介護人が介護にあたるという考え方である。裁判例としては
以下のようなものがある。

・名古屋地判平成14年11月11日自保ジャーナル1480号
・名古屋地判平成14年1月28日交通民集35巻1号144頁
・大阪地判平成13年10月11日交通民集34巻5号1372号
・福岡地判平成13年7月16日自保ジャーナル1432号
・仙台地判平成13年6月14日自保ジャーナル1432号
・広島地判平成12年3月10日自保ジャーナル1351号
・大阪地判平成12年2月29日交通民集33巻1号400頁
・横浜地判平成12年1月21日自保ジャーナル1344号
・大阪地判平成13年10月11日交通民集34巻5号1372頁
・東京地判平成15年8月28日交通民集36巻4号1091頁
・東京地判平成16年3月22日交通民集37巻2号390頁
・大阪地判平成17年3月25日交通民集38巻2号433頁
・大阪地判平成17年8月24日
・名古屋地判平成18年8月29日
・名古屋高判平成19年2月16日自保ジャーナル1688号3頁)。

もっとも、67歳を分岐点とせず、介護の負担に配慮して60歳という年齢を
分岐点とするケース(大阪地判平成19年4月10日自保ジャーナル
1688号13頁)もある。

また、70歳まで近親者が介護にあたることを前提とするケース
(東京地判平成15年1月14日)や、69歳の近親者が21年間、
実に90歳に達するまで介護にあたることを前提とするケース
(東京地判平成15年3月26日交通民集36巻2号395頁)や、
75歳の被害者の妻(相応の年齢と思われる)が10年間介護にあたることを
前提とするケース(大阪地判平成16年1月22日)もある。しかし、
介護の肉体的・精神的負担の大きさを考えると、67歳を超える者の介護を
前提とする算定は、介護の負担が極めて小さいなどの例外的な場面に
限定されるべきである。

④ 以上のように、現在の裁判実務においては、将来介護費を算定する際、
まず介護主体に着目し、近親者介護の方が職業人介護の場合よりも低額とされ、
さらに具体的な介護内容に着目して算定するという方法がとられることが多い。

もっとも、「近親者介護と職業人介護とで金銭的な差を設けるべきではない」
「介護主体が誰であれ職業介護人の費用を基本にすべきである」と述べる
見解がある。藤村和夫教授の以下のような見解である。

「なるほど、近親者による介護と職業付添人によるそれとでは質的な差が
存するであろうことは否めなかろう。しかし、その差の存在ゆえに、両者の
金銭的評価においても差が生じて然るべきであるとするのは早計の謗りを
免れまい。近親者は、本来、職業付添人が介護に当たって然るべきところ、
その職業付添人に代替して、介護に当たっているとみるべきものである。
それ故にこそ、介護に当たる近親者は、職業付添人による介護との間にある
介護内容の質的な差を放置しようとせず、その差を埋めるべき不断の努力を
重ね、それが、更なる肉体的・精神的負担を招くことに連なるのである。
結果的に、両者の間の質的な差が残存することになったからといって、それを、
そのまま金銭的評価に反映させるのは、およそ適切ではない。むしろ、
金銭的評価の場面においては、近親者の肉体的・精神的負担に思いを馳せ、
両者は同質のものとして捉えられるべきであろう。」

さらに、教授は、現実に職業介護人による介護を実施していないことを理由に
職業介護人による介護を前提とする介護費用算定を否定する裁判例を批判する。

すなわち、現実に職業介護人に依頼していないとしても、その理由は
依頼したくとも「経済的な理由から依頼できない」「適切な職業介護人が
見つからない」等の理由がある場合が多いと思われるから、職業介護人に
介護を依頼していないとか、職業介護を実施していないということをもって
職業介護を前提とする介護費用算定を否定すべきではないとする。

そして、「真に、職業付添人による介護を必要とすると認められる場合には、
現実に、職業付添人が介護に当たったか、近親者が介護に当たったかを問わず、
すなわち、介護主体が誰であれ、職業付添人の費用を基本に捉えるべき」と
述べている(新次元・151頁)。

この点、近親者介護から職業人介護に替わる可能性が常に存在する
ことからしても、上記藤村和夫教授の見解は興味深い見解である。




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