介護保険と将来介護費との関係

交通事故の被害者は以上のような介護保険給付を受けられる可能性があるため、
将来介護費を算定するにあたり将来受けられる可能性のある介護保険給付分を
控除すべきことになるのか。

まず、介護保険法には以下の規定がある。
21条1項 市町村は、給付事由が第三者の行為によって生じた
場合において、保険給付を行ったときは、その給付の価額の限度において、
被保険者が第三者に対して有する損害賠償の請求権を取得する。

同条2項 前項に規定する場合において、保険給付を受けるべき者が
第三者から同一の事由について損害賠償を受けたときは、市町村は、
その価額の限度において、保険給付を行う責めを免れる。

同条3項 市町村は、第1項の規定により取得した請求権に係る
損害賠償金の徴収又は収納の事務を国民健康保険法第45条第5項に規定する
国民健康保険団体連合会であって厚生労働省令で定めるものに委託することが
できる。

これら介護保険法の規定から明らかなように、すでに給付された介護保険給付に
ついては損益相殺の対象となる。

すなわち、被害者が取得する損害賠償額が減額され、市町村や特別区が給付に
応じて加害者に対する求償権を取得することになる。他方、被害者が加害者から
損害賠償を受けたときは市町村や特別区はその価額の限度で介護保険給付を
行わないことになる。

では、将来介護費と介護保険給付との関係はどうなるか。将来介護費の
算定にあたって、介護保険給付を差し引いた分のみを損害と考えるべきなのか。

この点は以下のとおり、裁判実務上は介護保険給付を控除しないケースが
ほとんどである。

まず、最高裁大法廷平成5年3月24日判決(民集47巻3039号)は、
介護保険ではなく「遺族年金」を将来介護費から控除することの可否が
問題となった事案であるが、次のように判示してこれを否定した。

「不法行為と同一の原因によって被害者又はその相続人が第三者に対する
債権を取得した場合には、当該債権を取得したということだけから右の
損益相殺的な調整をすることは、原則として許されないものといわなければ
ならない。けだし、債権には、程度の差こそあれ、履行の不確実性を伴うことが
避けられず、現実に履行されることが常に確実であるということはできない上、
特に当該債権が将来にわたって継続的に履行されることを内容とするもので、
その存続自体についても不確実性を伴うものであるような場合には、当該債権を
取得したということだけでは、これによって被害者に生じた損害が現実に
補てんされたものということができないからである。したがって、被害者又は
その相続人が取得した債権につき、損益相殺的な調整を図ることが許されるのは、
当該債権が現実に履行された場合又はこれと同視し得る程度にその存続及び
履行が確実であるということができる場合に限られるものというべきである。」

そして、「介護保険給付」の場合も、
①介護保険は6カ月ごとに要介護認定を受け、実際にサービスを受けた後
給付を申請してから給付を受けるという制度であること、

②介護保険制度においても将来も現在と同様の給付内容、水準が維持されるか
どうかは不確実であること

に鑑みると、遺族年金給付の場合と同様、「当該債権が現実に履行された場合
又はこれと同視し得る程度にその存続及び履行が確実であるということが
できる場合」にあたらないため(高取・336頁)、介護保険給付を控除せずに
将来介護費を算定する裁判例が多いものと思われる。

この点、参考になる裁判例としては、札幌地判平成13年8月23日
(自保ジャーナル第1432号)がある。これは、脊髄損傷の事案ではなく、
事故時49歳女子が遷延性意識障害による1級3号後遺障害を残した事案で
あるが、介護保険と将来介護費の関係について判断した裁判例として参考になる。

この裁判例における被告の主張は、原告が65歳となった時点以降の介護費の
算定については介護保険法の適用を受ける蓋然性が高い以上、同法の適用を
考慮すべきというものであった。

これに対し、裁判所は「不法行為と同一の原因によって被害者が第三者に
対して損害と同質性を有する利益を内容とする債権を取得した場合、
当該債権が現実に履行されたとき又はこれと同視し得る程度にその存続及び
履行が確実であるときに限り、これを加害者の賠償すべき損害額から
控除すべきところ(最高裁平成5年3月24日大法廷判決・
民集47巻4号3039頁)」として前記最高裁判決を引用した上で、
「給付が履行されるのは10年以上も先のことであり、どのような給付が
されるかも未確定であるから、本件においては、当該債権が現実に
履行されたのと同視し得る程度にその存続及び履行が確実であるとは
到底いえない。したがって、本件においては、介護保険法による給付を
前提として、被告の賠償額を定めるのは相当ではないから(その結果、
介護保険法による給付との調整は、同法21条2項により、被告が
損害賠償をした価額の限度で市町村が保険給付を行う責めを免れる
方法により、されるべきことになる)、被告の上記主張は採用できない。」
として控除を否定した。

その他の裁判例は以下のとおりのものがある。
介護費用給付分を控除する裁判例としては裁判例①があるものの、他の多くの
裁判例では、将来介護費を算定するにあたり将来の介護保険給付分を
控除していない(裁判例②ないし⑦)。




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