慰謝料増額があるのに、増額されなかった事例

裁判例1      東京地裁平成7年12月26日判決
当時の慰謝料の基準 2000万円
認定慰謝料額    2000万円(±0)
  
どのような事故だったか?
被害者は、26歳の独身男性の会社員です。
信号機により交通整理の行われている交差点において、被害者が歩行者用信号が
赤であるにもかかわらず横断歩道上を横断した際に、加害者が運転する普通貨物自動車が
被害者に衝突し、被害者が死亡したという事故です。

本件事故後に加害者が自賠責保険の支払いにつき非協力的であり、誓約書の内容を
履行しない、遺族がショックのあまり現在も投薬を続けているなどの事情が
存在するという事案です。

裁判所が慰謝料を増額しなかった理由のポイント

①加害者側の事情が慰謝料増額と判断すべき程度に至っていないこと。

解 説
本件事故において裁判所は、

①加害者が自賠責保険の支払いに非協力的であった、
②誓約書の内容を履行していない、
③遺族はショックのあまり現在も投薬を続けている

などという事情を勘案し、遺族固有の慰謝料も含めて慰謝料額を2000万円と
判示しています。

しかしながら、2000万円という慰謝料額は、当時の死亡慰謝料の基準と
同等であり、特段増額したと認められません。

それでは、なぜ本件事故では慰謝料の増額がなされなかったのでしょうか。

死亡事故によって、遺族が深く悲しむことは当然のことであり、この精神的苦痛を
含めて死亡慰謝料の基準額は算定されています。

そのため、遺族がショックのあまり現在も投薬を続けているという事情は、
特段慰謝料を増額する事由とはなりえません。

また、本件事故では、加害者が自賠責保険の支払いに非協力であった、
誓約書の内容を履行していないなどの事情が見受けられますが、交通事故において
被害者と加害者との間で感情的な衝突が生じることは一般的なことといえます。

本件事故における被害者側と加害者側の自賠責保険や誓約書に関する事情も、
一般的な慰謝料の枠組みを逸脱していないと裁判所が判断したため、
本件では慰謝料の増額がなされなかったものと考えられます。

このように、交通事故被害者と加害者との間で通常起こりうる感情の衝突については、
基準とされている慰謝料額に加味されているとして、慰謝料増額がなされないことに
なります。

裁判例2        東京地裁昭和61年5月30日判決
当時の慰謝料の基準           1600万円
認定慰謝料額              1550万円

どのような事故だったか?
事故は深夜の幹線道路で起きました。
事故当時は雨が降っており、夜間であることもあり、視界良好とはいえない状況でした。

被害者は、割烹料理店に仲居として勤務していた45才の有職の主婦です。

幹線道路の横断歩道を横断中に、時速80km(指定最高速度は時速50km)で
走行してきた乗用車にはねられ、脳挫傷等により事故から間もなくして死亡しました。

乗用車を運転していた加害者は、事故後被害者の救護措置をとることもなく逃走し、
自首もしませんでした。

事故当時の信号は、歩行者側が赤、乗用車側が青でした。つまり、被害者に信号無視と
いう過失のあった事案です。

事故後の刑事2審判決の直前、加害者側は、遺族に対し、示談金として5000万円を
提示しましたが、遺族は、さらに200万円の葬儀費用を上積みするよう求め、
そのために示談が決裂したという事情があります。

慰謝料が増額されなかったポイント

①被害者の過失が大きいこと
②示談金5000万円の提示に対し、被害者側が200万円の上積みを要求して示談を
断ったこと

解説
本件の場合、加害者側に、スピードオーバーと救護義務違反(逃走)という悪質事情が
あります。

これらは一般に慰謝料の増額事由として考えられており、基準よりも増額認定した
裁判例も多くあります。

本件当時、主婦の死亡事故の慰謝料基準は1600万円ですから、本件の場合も、
前記の増額事由を考慮して、1700万~1800万円くらいは慰謝料が
認められてもよいように思います。

しかし、本判決が認めたのは1550万円、基準よりも50万低くなっています。

判示によれば、救護措置をとらなかったこと等の事情も十分に斟酌して1550万円の
慰謝料としたとのことですから、加害者の悪質事情を考慮に入れていないという
ことではありません。

ではなぜ、増額にならなかったのでしょうか。

判決ははっきりと言っているわけではありませんが、おそらくは、被害者に
赤信号無視の横断という落ち度があったことや(この点について判決は、
被害者に55%の過失を認めています)、加害者側が5000万円という示談金を
提示したこと(加害者側の誠意)を考慮してのことではないかと考えられます。

しかし過失は、損害の総額が決まった後の過失割合で考慮すればよいことであって、
慰謝料額の認定それ自体には持ち込むべきではないと考えます。

裁判例3           大阪地裁平成4年2月24日判決
当時の慰謝料の基準      2400万円
判決認定の慰謝料額      2200万円

どのような事故だったか?
被害者は、48才男性でアスファルト材料等を運搬する工務店を経営していました。

家族は妻と子2名です。事故が起きたのは午前2時をまわった深夜でした。

被害者は、ダンプカーで建設現場にアスファルト材料を運搬した帰り、
右側後輪のパンク確認のため、片側3車線の一番左側の車線にダンプカーを止め
下車し、右側後輪付近に立っていました。ダンプを止めていた場所は、駐車禁止の
規制がなされていました。

そこに、真ん中の車線を走ってきた加害車両が時速60kmで衝突し、
はねとばされた被害者は脳挫傷等により事故直後に死亡しました。

加害者は、運転前に酒を飲んでいたため正常な判断力・注意力が減退していました。

そのため、衝突したのが人間だとは気づかず積み荷のようなものと考えて、
飲酒運転発覚をおそれ、その場から逃走しました。

加害者が人をはねたことを知ったのは、帰宅後に警察の訪問を受けてのことでした。

慰謝料が増額されなかったポイント
被害者が、夜間に駐車禁止の区域でダンプを止め、他車と衝突の危険のある
ダンプ右側に立っていたこと
  
解説
本件も、飲酒運転に逃走と、加害者側に明確な悪質事情があり、基準よりも慰謝料が
増額されてもよいところです。

当時の基準が2400万円ですから、2500万~2600万は認められても
よいのではないでしょうか。

しかし、判決では、逆に基準よりも200万円低い2200万円となってしまいました。

判決にあらわれた事情を見ると、慰謝料を減額させる要素としては、被害者にも、
前記のとおり、他車と衝突の危険のあるダンプ右側に立っていたという過失が
あるということくらいしか見当たりません。判決は、この点について、
被害者の過失は小さくはないと指摘しています。

判決ははっきりとは指摘していませんが、この点が、基準よりも低い慰謝料の認定に
影響を与えたと推測されます。

もっとも、判決は、飲酒で逃走という加害者の過失があまりに大きいとして、
過失割合については被害者1:加害者9としています。

すなわち、被害者に過失があるにしても、相対的な割合は小さいといえます。

ならば、被害者の過失の点は慰謝料算定に持ち込むべきではなく、加害者の
悪質事情のみを考慮し、基準よりも増額すべきであったと思います。

裁判例4        大阪地裁平成5年9月27日判決
当時の慰謝料の基準 2400万円
慰謝料額2400万円

どのような事故だったか
被害者は、29歳の男性会社員で、家族には、妻、子2人、両親がいました。
深夜、オートバイで青信号に従って交差点に進入した時に、加害者が対抗から右折して
被害車両に衝突し、被害者は即死しました。

このとき、加害者は無免許でしかも飲酒運転をしており、事故後その場から逃走しました。

解説
本事案では、加害者側に無免許運転、飲酒運転、轢き逃げという慰謝料が増額しそうな
事情が複数あるにもかかわらず、実際には増額していません。

これだけの事情があれば、被害者や遺族の苦しみ、悲しみはより大きいものと
なるはずであるのに、なぜ慰謝料は増額しなかったのでしょうか。

このうち、無免許運転については、加害者は無免許状態で時々自動車を運転しており、
自動車運転技術を人並みにもっていたという事情があります。

しかし、この事情は、無免許運転を正当化する理由にはならないでしょう。

また、加害者は、事故の2時間前ころから1時間前ころにかけてビール中ジョッキを
2杯以上飲んでいたとのことですが、事故後逃走しているために事故時の正確な
アルコール濃度は明らかになっておらず、酩酊の度合いが大きかったとかは
明らかにできない状況にあります。

逆に、本事案では、被害者も事故時飲酒運転をしており、事故の2時間くらい前から
20分前くらいまでビールを約1.2リットル飲んでおり、アルコール濃度は
血中1.29ミリグラムと認定されています。

本事案では、被害者の飲酒運転が、事故について3割の過失を認定されており、
被害者としても加害者の飲酒を一方的に非難しにくいという事情があるといえます。

さらに、加害者は事故後逃走していますが、事故から約5~6時間後に、警察署に
自首しています。轢き逃げは絶対に許されませんが、そのまま事故の責任を
とらずに逃げ続けるのでなく、夜が明けてから警察署に自首し、事故を自ら明らかに
していったという事情があります。

このように、本事案では一見すると慰謝料が増額されるべき要素が複数あるとも
いえそうですが、被害者側の飲酒運転や、加害者の自首、反省といった事情が
影響して慰謝料が増額しなかったといえそうです。




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