裁判例①京都地判平成17年12月15日

裁判例①京都地判平成17年12月15日
(自保ジャーナル第1632号)
年齢: 43歳(事故時)
性別 :男子
職業: 嘱託勤務
傷害内容: 左頭頂骨骨折、脳挫傷、急性硬膜下血腫、外傷性クモ膜下出血、
急性硬膜外血腫、
外傷性てんかん、頚椎椎間板ヘルニア、聴力障害
自賠責等級: 高次脳機能障害5級2号、嗅覚障害12級相当、
味覚障害12級相当(併合4級)
比較基準喪失率: 79%(5級)
本判例等級: 同上
本判例認定喪失率: 85%
概要: 高次脳機能障害等併合4級後遺障害を残す原告の逸失利益算定に
おいて、勤務会社は、

人格変化に困惑していたが、デザイン能力を評価し解雇しなかった等の
事情もあるため

就労不能とはいえず、嗅覚・味覚障害は労働能力に影響しないとして、
労働能力喪失率は85%と認定した。

a 上記認定に至った理由
原告は、後遺障害の認定等級の程度については争わなかったが、
労働能力喪失割合は
自賠責基準を機械的に当てはめるのではなく実質的に検討すべきで
あると主張し、

①高次脳機能障害により生じた遂行機能障害・人格障害のため、様々な
職場トラブルを犯し、突然キレて一切の私物をまとめそのまま退社した事実上の
退社以降、自室に閉じこもり、社会との接触をほとんど完全に断つなど、
就労の意思・意欲が皆無であること

②前頭葉の損傷の予後は極めて悪く将来改善されると医学的に説明することは
できないこと

③精神障害者の就労には厳しい社会的現実があるため、将来就労できること

を前提にして労働能力喪失率を判断すべきではないとして、100%の
労働能力喪失率を主張した。

他方、被告は、カルテ等の医証によれば、高次脳機能障害が5級2号に該当
するとの自賠責認定は疑問であり、後遺障害としては9級10号に該当すると
主張した。

裁判所は、

①高次脳機能障害の症状である記憶障害・記銘力障害、地誌的障害、遂行機能障害、
注意障害、情動・人格障害等のために、本件事故後会社での勤務において、
記憶力や持続性の低下が認められ、協調性にも問題があるため、他の社員らと
トラブルが発生し退職した事実が認められるが、原告のデザイン能力は
本件事故後も低下しておらず、会社もその能力を高く評価していたのであるから、
退職はあくまで自主的になしたものであること

②高次脳機能障害者もリハビリによりその能力が一部でも回復する可能性を
否定し去ることはできず、勤務先や家族の理解・協力を得ることができれば、
作業内容及びその程度に限定はあっても就職して継続的に勤務していくことが
不可能とはいえないとし、

「原告が完全に就労不能であるとまで評価することはできないのであり、
前記後遺障害認定等級を参考にして労働能力喪失割合を判断するのが相当である。」
とし、

「嗅覚障害及び味覚障害については、これによって直ちに労働能力割合に影響を
与えるものではないことも考慮して」、原告の労働能力喪失率は85%と
評価するのが相当と判示した。

本裁判例は、12級相当の嗅覚障害・味覚障害は労働能力に影響しないと
判断しているため、自賠責基準を機械的に当てはめると(併合4級の
92%ではなく)5級の79%の労働能力喪失率となるべきところ、
それを上回る85%の喪失率を認めた点に特徴がある。

裁判所は、原告が自ら会社を退職したこと、及び、作業内容及びその程度に
限定はあっても就職して継続的に勤務していくことが不可能とはいえないこと
という労働の可能性を伺わせる事情を認定しているが、これは喪失率を
100%とする原告の主張を意識したものと思われる。

100%の労働能力喪失率が認められるのは「記憶や注意力、新しいことを
学習する能力、障害の自己認識、円滑な対人関係維持能力などに著しい障害が
あって、一般就労が全くできないか、困難なもの」(3級3号)以上の場合で
あるため、自賠責認定5級、かつ、事故後現実に稼動したことのある事案に
おいて、100%の喪失率を認めさせるのは一般的に困難といえるだろう。

b 分析
本裁判例は、12級相当の嗅覚障害・味覚障害は労働能力に影響しないと
判断しているため、自賠責基準を機械的に当てはめると(併合4級の
92%ではなく)5級の79%の労働能力喪失率となるべきところ、
それを上回る85%の喪失率を認めた点に特徴がある。

裁判所は、原告が自ら会社を退職したこと、及び、作業内容及びその程度に
限定はあっても就職して継続的に勤務していくことが不可能とはいえないこと
という労働の可能性を伺わせる事情を認定しているが、これは喪失率を
100%とする原告の主張を意識したものと思われる。100%の
労働能力喪失率が認められるのは「記憶や注意力、新しいことを学習する能力、
障害の自己認識、円滑な対人関係維持能力などに著しい障害があって、
一般就労が全くできないか、困難なもの」(3級3号)以上の場合であるため、
自賠責認定5級、かつ、事故後現実に稼動したことのある事案において、
100%の喪失率を認めさせるのは一般的に困難といえるだろう。




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