裁判例⑫大阪地裁平成17年4月13日(自保ジャーナル第1594号)

裁判例⑫大阪地裁平成17年4月13日(自保ジャーナル第1594号)
年齢: 38歳(事故時)
性別: 男子
職業: 設計担当会社員(事故時)
傷害内容: 頭蓋骨骨折、くも膜下出血等
自賠責等級: 高次脳機能障害3級3号
比較基準喪失率: 100%
本判例等級: 同上
本判例認定喪失率: 88%
概要: 38歳男性について、相当の援助があれば単純な繰り返し作業が
できること等を総合考慮して、3級相当の100%と5級相当の79%の
中間にある88%を認定した。

a 上記認定に至った理由
裁判所は、原告の現状について、①「作業動作の側面を見ると、絵を描いたり、
日曜大工程度の木工をするといった作業、その準備や掃除、道具を探したり
扱ったりという作業は、ときに指示を得れば可能であるものの、作業そのもの
への意欲やその意味を把握できていないという根本的な問題がある」、
②「言語性知能は、全体IQが大卒の割には低く、意味の把握や暗喩・
比喩などが理解できなかったり、抽象的思考力は最終検査でも低下傾向があり、
会話も困難な場面がしばしばあり、文字もひらがなが書けなくなることも
みられる」、③「日常生活面では、自宅周辺は自転車で外出・移動可能であり、
電車の移動はできることが多く、子供の送迎や簡単な家事などはできるが、
他方、連続作業や並行作業等の複雑高度な作業、金や時間の計算、身だしなみ
など少しでも高度な要素を帯びる作業ができないのはもとより、時折、
電車移動の際、目的地がわからなくなったり、待ち合わせができなかったり、
スーパーの試食品を食べ続けたり、極端に怒鳴り散らす等の異常な行動が
あることがあり、8割方自立していて、生命維持に必要な身辺動作は概ね
可能なものの、いつ何をするかわからないという問題点が残存する」、
④「ビデオ撮影されていた原告は、妻との会話は最低限であるとされながらも、
子供と遊ぶことができるし、挨拶ができないとされながらも、他人に
会釈する姿が撮影されて」いる、といった事実を認定した。

また、就労能力については、①(2人の医師の意見をもとにすると)
「単純軽作業を行うについては、意味内容や見通しなどについて相当の援助を
得れば、可能であると考える余地は残されている。但し、原告の障害は極めて
複雑で、時折、できていた作業ができなくなったり、他人とトラブルを
引き起こすような場面があることがあるようであるから、日常においても、
介助を要する場面がないとはいえないと考えられる。」②原告は「自分が
以前は設計士であって、相当に誇りを持って仕事をしていたことは自体は
自覚していて、元の業務に戻りたいという抽象的な願望は有している
ようであるが、そのためのリハビリ等については全く意味の把握も意欲も
なく、好きなことは行うが、その余のことにはむしろ拒否的・閉鎖的態度を
取っており(このような拒否的な態度は複数の医師が看取している。)、
結局、現時点でも就労するに至っていない。」③「そうすると、
就労可能性があるかどうかは、各業務遂行能力を多面的に検討して
判断せざるを得ない。」と判断し、以下のように、労災の認定基準である
4能力(意思疎通能力、問題解決能力、作業負荷に対する持続力・集中力、
社会行動能力)の側面からの検討を加えた。

すなわち、①意思疎通能力は、困難であるが援助があればできるレベル
(CとDの中間レベル)、②問題解決能力は、困難はあるが多少の援助が
あればできるレベル(Cレベル)、③作業負荷に対する持続力・集中力は、
援助を得た上で持続できても半日程度が可能かどうかというところで、
それ以上は困難というレベル(EとFの中間レベル)、④社会行動能力は、
障害に起因する非常に不適切な行動がしばしば認められ、作業に支障が
生じることがあるというレベル(EとFの中間レベル)であると判断した。

本裁判例は以上検討した上で、「4能力については、概ねCからFレベルと
ばらつきがあり、単純繰り返し作業などに限定すれば、一般就労(但し、
その業種も限定されたものとなる可能性がある。)も可能と解する余地を
否定できないが、但し、環境変化や作業の流れなどに対する予測能力や
理解能力の不足、ないしは持続力の不足や意思疎通能力の不足のため、
一般人に比較して作業能力が著しく制限されている上、時折の異常行動等に
見られる社会行動能力の欠如により、賃金を具体的に得るという意味での
一般就労の維持には(隠れた障害としての高次脳機能障害についての)
職場の相当深い理解及び寛容、援助を欠かすことができないと考えられる。
これらを総合するときには、後遺障害3級(100%)と認定することにも、
同5級(79%)と認定することにも躊躇を覚え、後記のとおり、
大卒就労能力を前提とするときには、なお、その能力の88%
(残存能力1割強)を喪失したものと認めるのが相当である。」と判示した。

b 分析
 裁判例は、高次脳機能障害の等級を自賠責認定と同様の3級3号
(喪失率100%)としながら、その後独自に喪失率を検討し、
自賠責の等級認定を下回る88%の喪失率を認定した点に特徴がある。
低い喪失率を認定したのは、単純繰り返し作業であれば就労可能で
あることを重視したためであろう。

本裁判例は、「就労能力」について、具体的な作業療法の状況、言語・
記銘力等のテスト、及び2名の医師の意見等の検討に加えて、労災の
認定基準である前記4能力を検討するという順序で判断している点が
特徴的であり、「就労能力」の認定方法を知る上で参考になろう。




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