裁判例(札幌高判平18・5・26)

「〔2〕の要素(一定期間の意識障害が継続したこと)に関しては、
意識障害を伴わない軽微な外傷でも高次脳機能障害が起きるかどうかに
ついては見解が分かれており、これを短期間の意識消失でもより軽い
軸索損傷は起こるとする文献があり、本件記録に表れた専門家の意見が
記載された文献では、むしろ後者の見解の方が多く、〔2〕の要素を重要な
目安としているのは、法律家が作成した上記の高次脳機能障害相談マニュアルと
裁判例だけである。そして、外傷性による高次脳機能障害は、近時において
ようやく社会的認識が定着しつつあるものであり、今後もその解明が期待される
分野であることからすれば、〔2〕の一定期間の意識障害が継続したことの
要素は、厳格に解する必要がないものといえる。」

「高次脳機能障害の場合、上記のとおり、損傷を受けた軸索の数が少ない
ようなときには、慢性期に至っても外見上の所見では確認できないが、
脳機能障害をもたらすびまん性軸索損傷が発生することもあるとされ、
このような場合は、神経心理学的な検査による評価に、PETによる
脳循環代謝等の測定結果を併せて、びまん性軸索損傷の有無を判定していく
必要がある。」

「控訴人の事例が、高次脳機能障害の要素を充足しているかについては、
医学的見地から十分な判断ができない状況にある。」

「当裁判所の判断は、司法上の判断であり、医学上の厳密な意味での
科学的判断ではなく、本件事故直後の控訴人の症状と日常生活における行動をも
検討し(被控訴人の主張によっても、本件事故直後から、控訴人が、
本件事故に殊更有利となるような行動をし、供述をしていたということはなく、
本件事故直後の控訴人の言動に作為は認められない。)、なおかつ、
外傷性による高次脳機能障害は、近時においてようやく社会的認識が
定着しつつあるものであり、今後もその解明が期待される分野であるため、
現在の臨床現場等では、脳機能障害と認識されにくい場合があり、また、
昏睡や外見上の所見を伴わない場合は、その診断が極めて困難となる場合が
ありうるため、真に高次脳機能障害に該当する者に対する保護にかける場合が
あることをも考慮し、当裁判所は、控訴人が本件事故により高次脳機能障害を
負ったと判断する。」

前記各要件のいずれかもしくは全てが欠ける場合であっても、現在の
医療技術等の限界から直ちに脳外傷による高次脳機能障害を否定することは
妥当ではなく、高次脳機能障害と思われる症状が現実に現れている以上、
あくまでもその判断に十分な慎重さを求めるにとどめるべきといえる。

上記裁判例は、高次脳機能障害の判断における技術的な限界を考慮した上で、
その限界を被害者保護の見地から補充したものと考えられる。




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