裁判例⑦(脊髄障害)

裁判例⑦ 東京地判平成18年10月26日(交民集39巻5号1472頁)
年齢 60歳(症状固定時)
性別 女子

原告の主張する傷害内容  頸椎捻挫、第5・第6頸椎間椎間板ヘルニア
自賠責等級 3級3号
裁判所認定等級
右上肢7級4号と右下肢12級との併合6級
喪失率67パーセント 喪失期間:14年間(平均余命の2分の1)

原告が主張する後遺障害の内容
頸髄不全損傷によって、右上下肢に痺れが生じた。日常生活では常時車椅子を
使用し、夫の介助を受けている。
身体障害者等級1級

被告の主張 原告の本件事故による後遺障害は重く見ても9級相当程度
であり、介護を要するものではない。

【認定の理由】
裁判所は、鑑定結果をもとに、以下のように事実を認定し判断した。
第1に、症状経過と画像所見について、一般に損傷された頚髄においては
損傷された部位に通常の脊髄の信号強度より高信号の領域が認められるところ、
原告にはそれが全く認められないこと。

また、受傷ないしは発症後数年経過した時点で撮影されたMRIでは、
損傷された部位より頭側や尾側の脊髄が正常の脊髄形状を示さず、面積も著しく
小さくなってしまうものであるが、原告の受傷後6年経過した時点でのMRIでは、
上位及び下位頚椎部も脊髄の形状や大きさは全く正常であり、変形や萎縮と
いえるような所見は全く認められていないこと。

そして、こうした所見が認められないことからは、当初軽微な頚髄損傷を受傷し、
その後、頚髄に対する圧迫要因として動的要因が関与して症状が悪化していった
ということも考えられないこと。
第2に、症状経過と画像所見からみた頸髄損傷の診断の妥当性について、
頚髄損傷は一般的に、①受傷後早期に最も強い麻痺症状、②その後は全く改善する
ことなく経過又は改善傾向を示すかのいずれか、③慢性期になると病状は日によって
変動することもあるといった経過を辿ること。

また、原告のような非骨傷頚髄損傷の特徴は、
①高齢者などの加齢性変化による脊柱管狭窄状態が素因として存在する患者に認められる、
②頚部の過度の後屈が強制されて受傷しやすく顔面の挫傷を伴うことが多い、
③麻痺としては当初四肢麻痺のこともあるが、麻痺は上肢中心に認められた特に
手指などの上肢遠位に強く、下肢の機能は、急速に回復することが多く、
最終的には上肢優位の麻痺が遺残することが多いことを特徴とする中心性頚髄損傷の
麻痺型を呈することが多いこと。

しかし、原告は、経過中に明らかに麻痺症状が悪化しているし、原告には
脊柱管狭窄状態がほとんど認められない上、仮に本件事故によって原告に頚髄損傷が
起こるとすれば、画像所見上、第5・第6頚椎間だけであり、その場合は、
上肢の痺れは3ないし5指と前腕の尺側のみで、肩や肘関節に関係する筋力は障害
されず正常であるところ、原告の上肢の症状はそのように限定されていないこと。

これら第1第2の事実を認定した上で、原告には頸髄損傷は生じていないと判断した。

もっとも、原告は、本件事故直後から右上肢の痺れ感などの症状を強く訴えており、
当初からその機能も低下していたこと及び右下肢の痺れ感等も事故後早期に訴えて
いることからすると、原告春子の右上肢の麻痺と右下肢の痺れについては本件事故と
因果関係があるとして、右上肢について7級4号、右下肢について12級12号を認定し、
併合6級と判断した。

【本裁判例の検討】
本裁判例は、脊髄損傷で生じるとされる症状(中心性頸髄損傷の場合の症状も含めて)
と原告の症状を詳細に検討した上で、脊髄損傷の存在については否定したものの、
原告に生じている症状の一部の存在、および当該症状と本件事故との因果関係は認めた上で、
当該症状について後遺障害併合6級を認めているところに特徴がある。




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