裁判例⑦(高次機能障害)

裁判例⑦大阪地裁堺支部判決平成18年4月14日
(自保ジャーナル第1662号)
年齢 25歳(事故時)
性別 男子
職業 電車車掌
傷害内容 全身打撲、脳挫傷、急性硬膜下血腫、意識障害、左大腿骨骨折
自賠責等級 高次脳機能障害2級3号
比較基準
喪失率 100%
本判例等級 高次脳機能障害5級2号
本判例認定喪失率 79%

概要
25歳男子電車車掌が、自賠責認定高次脳機能障害2級3号後遺障害を残し、
配転復職している事案につき、脳の器質的障害で高次脳機能障害を残すが、
ADLは自立、単身通勤できる等の事情から、労働能力喪失率を79%と認定した

ア 認定の理由
原告は、原告の後遺障害が、自賠責保険から2級3号に認定されており、加えて、
①現在では復職しているものの、復職は会社の福祉的配慮等にすぎないこと、
②原告が、現在の仕事も十分にこなすことができず、仕事を辞めたいと口にしており、
いつまで就業できるかわからず、一度退職すれば外に就職できる可能性は
ほとんどないこと、③原告の障害が回復する見込みがないことから、原告の
労働能力喪失率が100%であると主張した。

これに対して被告は、①原告は一人で電車に乗って職場に通勤し、週5日午前9時から
午後5時まで働いているのであるから「生命維持に必要な身の回り処理の動作について
随時介護を要するもの」に該当しないことが明らかであること、②知能検査の成績に
よれば、非言語性の思考力や構成能力、判断力などの知的能力が高く、単純肉体労働で
障害者支援の福祉的な労働環境においてようやく就労が可能なレベルにとまるとは
考えられないこと、③標準失語症検査の成績からは、原告の会話能力の障害は
それほど重度ではないことから、後遺障害等級が5級よりも重いことはありえないとし、
労働能力喪失率は72%よりも制限的に認めるべきと主張した。

裁判所は、
①買い物だけでなく預金解約やカードローンなどの手続を一人でしているのみならず、
職場において上司らと「もう少し頑張ってみてはどうか」などという就業継続に
ついての会話をしていることから意思疎通能力が全て失われたとはいえないが、
仕事のやり方を教えてもできなかったことや、家族との会話においても話が複雑になると
途中でやめてしまうことからして、職場における職務遂行のための会話が十分に
できているとは認められず、意思疎通能力は半分以上失われていると認められること、

②職場において通常予定されている職務につき、教えられた手順どおりに仕事を
進められなかったこと、日常生活においてもバイクに乗りたいと言ったり、
短絡的に買い物をするなど、状況を見通した判断、行動が取れていないことから、
問題解決能力はその半分以上が失われていると認められること、

③職場において与えられた簡易な仕事についてはこれを遂行できものと推認されるが、
日常生活の金銭管理においては短絡的な消費に走っていることから、作業負荷に対する
持続力・持久力は幾分か減弱していると認められること、

④社会行動能力については、ほとんど勤務先に出勤していること、深夜とはいえ、
帰宅するのに夜行バスやタクシーを利用するなど社会的に適応した行動をとっていること、
家族に対して言い出したら聞かなくなることはあっても、感情を爆発させることは
ないため、社会行動能力はほとんど失われていないと認められること、

⑤配転復職後に実際に遂行しているのは、極めて簡易な作業にすぎず、通常の業務を
支障なく遂行するには他人の頻繁な指示により誤りを訂正しなければならない状況にあること、

⑥日常生活上の食事・入浴・用便・更衣など身の回りのことは自分でできており、
一人で通勤し就業後は遊興して帰宅するという生活を送っていることから介護が
随時必要とはいえないこと

から、原告は高次脳機能障害のため、極めて簡易な労務のほか服することが
できないものと解されるから5級2号に該当し、労働能力喪失率を79%と判示した。

イ 本裁判例の検討
本裁判例では、原告の後遺障害が2級3号に該当するという自賠責保険による
認定について、原告が当時神経・心理学的検査も出来ない状態であったこと、
家族との会話がどうにか通じるが他人との会話は通じないことが前提となって
いるところ、その後裁判中に原告の神経心理学検査を行うことができており、
他人との会話も成立していることが認定できることから、自賠責保険の認定結果を
そのまま踏襲することはできないとして、上記のとおり、原告の具体的な症状、
就労上、日常生活上の不都合を詳細に検討した上で独自に労働能力喪失率を認定している。

そして、その中で意思疎通能力、問題解決能力が半分以上失われており、
作業負荷に対する持続力、持久力が幾分低下していることを捉えて、上記喪失率を認定した。




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