裁判例⑤(高次機能障害)

裁判例⑤仙台地判平成20年3月26日(自保ジャーナル第1734号)

年齢 55歳(事故時)
性別 男子
職業
事故時は無職。事故の約半年前に早期退職し、再就職のためにマンション管理士試験等の
準備をしていた。再就職までのつなぎとして事故の約3ヶ月後から市の外郭団体である
センターに勤務。
傷害内容 左頭骨骨折、左硬膜外血腫、右硬膜下血腫、右側頭葉部脳挫傷、左鎖骨骨折
自賠責等級 高次脳機能障害7級4号、左鎖骨の変形障害12級5号、左耳難聴
・耳鳴り12級(併合6級)
比較基準
喪失率 67%
本判例等級 併合6級(高次脳機能障害については7級)
本判例認定喪失率 73%
概要
55歳男子について、精神・神経症状等を考慮して実際に就労することには非常な
困難を伴うだろうことは容易に想像できるとし、67%(6級相当)と79%(5級相当)
の中間値である73%を認定した。

ア 認定の理由
原告は、自賠責の判断は事故後2年3ヶ月後に脳室の拡大・脳萎縮などの画像所見は
認められなかったなどという画像上の異常所見を重視したものであり、その後に
自賠責保険における高次脳機能障害認定システム検討委員会が発表した「高次脳機能障害の
程度を判断するにあたって社会的行動障害の有無・程度を重視するべき」との最新の
医学的知見に反しているとして、原告の高次脳機能障害が5級2号に該当し、
左鎖骨の変形障害、左耳難聴・耳鳴り嗅覚障害を併せれば併合4級に該当するから、
少なくとも労働能力の90%が失われていると主張していた。

これに対して、被告は、事故の2、3ヶ月後に1人体制で、受付、電話応対、
館内巡視などの業務に従事しており、自ら自動車を運転して職場へ通勤していることを
指摘し、原告の高次脳機能障害は自賠責保険における認定通り7級4号に該当し、
労働能力の喪失率は67%(その他の後遺障害と併せて併合6級相当)を上回らないと主張した。

裁判所は、原告の高次脳機能障害の程度について、意思疎通能力、問題解決能力、
作業負荷に対する持続力・持久力、社会行動能力のどれか1つの能力が大部分喪失したとか、
2つ以上の能力が相当程度喪失したとみるまではできないとし、自賠責の認定どおりに
7級4号と判断した。

本裁判例では、以下のような事実が認定されている。
すなわち、原告には、
①事故以前は温厚な人柄であり、健康状態や精神状態に問題があった様子は窺われないが、
社会適応性の障害により友達付き合いが困難になったということ、
②言葉をはっきり言わなかったり、話しの内容がころころ変わったり、流れと脈絡の
ないことを突然話し出すため、職員、センター利用者、家族との会話が成り立たない
ことがあること、
③職員からの引き継ぎ事項をすぐに忘れること、
④「2000-1550=450」程度の暗算ができず電卓を使っていること、
⑤以前はできたブラインドタッチができず、パソコンへの入力に時間がかかること、
⑥ホワイトボードへの書き忘れ、誤記、鍵の閉め忘れといった単純ミスを繰り返すこと、
⑦利用者におこされるまで居眠りをし、いつも眠そうでいること、
⑧職員の言うことを聞き入れないということがあること、
⑨感情の起伏が激しく、突然家族や職員に対して攻撃的な態度をとることがあること(他の職員との衝突をさけるため、他の職員とは必要なこと以外は話さないようにしている)
⑩それまで振るったことがなかった暴力を家族に振るう、
⑪兄妹との付き合い、町内会との活動を拒み、自宅に引きこもっている、
といった事実が認定されている。

本裁判例はこのような事実を認定した上で、労働能力喪失率について、
「精神・神経症状を考慮すると、実際に就労することには非常な困難を伴う
だろうことは容易に想像できる。現在の勤務を続けられているのは、…家族の援助と、
使用者が市の外郭団体であり、原告の状況に配慮をしているところがあろうことも
容易に想像できる。このことを考慮すると、実務上、後遺障害等級6級の
労働能力喪失割合は67%とされているが、本件では、通常は後遺障害等級5級の
労働能力喪失割合とされる79%の中間値である73%を労働能力喪失割合
とするのが相当である」と判示した。

イ 裁判例の検討
本裁判例では、自賠責保険における等級認定を原告が争ったが、裁判所は高次脳機能障害の
認定システムに沿って行われており、等級自体は自賠責の認定を支持している。

しかし、労働能力喪失率については、上記のとおり、自賠責認定等級を参考にした上で、
原告の高次脳機能障害による、就労上、日常生活上の不具合を詳細に検討した上で、
さらに一つ上の等級との中間値を採るという柔軟な認定を行っている。




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