①裁判例:東京地判平成20年5月8日自保ジャーナル1748号

事故時年齢 29歳
性別 男性
職業 運送会社ドライバー
傷病名 胸髄損傷(第3,4胸椎破裂骨折),右上腕骨及び肩甲骨骨折
自賠責認定等級 別表第1の1級1号
本判決認定喪失率 100%
事案の概要
本事案では,原告は,上半身のうち胸より下が完全に麻痺した状態にある上,
腹筋も使えないため,両手を離した状態で位置を保つことができず,
絶えず一方の手か肘をどこか固定したところに置き,身体を支えて
いなければならないことから,できることは一方の手で軽量のものを持つ,
1字を書く程度のことのみとして喪失率を100%と主張した。

これに対して,被告は,上半身についてはほとんど障害が認められず,
また,車いすを利用した自力移動が可能であることに照らせば,
少なくとも健常人の2割程度の収入を得ることができる蓋然性があるといえ,
喪失率については80%を基準とすべきと主張した。

これらを受けて裁判所は,「胸より上の部分は動かすことができるため,
デスクワーク等の上半身の動作のみを要する軽度の事務に限定した労働に
就業することが全く考えられないわけではないとしても,姿勢の保持などの
観点から,継続して就労するのに著しい困難を伴うことは想像に難くなく,
仮に原告太郎の意欲的な取り組みにより何らかの業務に従事することが
できるとしても,それは原告太郎の著しい努力によるものであるか,
又は周囲の者による通常の域を超えた深い理解と強い援助の結果に
よるものである可能性が極めて高い。」として,喪失率を自賠責に
よって認定された等級相当の100%と認定した。

分析
本事案では,被告から,①原告が胸から上の部分については動かす
ことができ,②車いすによる自力移動が可能との主張がされているが,
①については,単に動かすことができるというだけではなく,実際の
就労に際し,何らかの作業を行うことが現実的かどうか(本事案では,
原告が何らかの作業を行う際に身体を支える必要があることが考慮
されている。)という観点を要し,②については,坂道や段差,
建物入り口の自動ドア前等での転倒の危険から,車いすによる自力移動が
可能ということをもって直ちに労働能力喪失率を減ずることはない
旨示されている。

なお,原告は,改造した自動車に乗れば,独力で運転して外出することも
可能であったが,運転席に乗る際に車いすを折り畳んだり,自動車から
降りるために車いすを組み立てる作業を独力で行うことは困難であるとして,
労働能力喪失率を減じる事情としては考慮していない。

このように,単独で何らかの動作をすることが可能であったとしても,
果たして就労等における一動作として現実に独力で行うことが可能か
どうかという点が重視されていると思われる。




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