まとめ

以上のように、裁判例を検討すると、脊髄損傷の存否が争われた事案は、
診断書上脊髄不全損傷とされているものや脊髄損傷と診断されていても
実際には不全損傷であったりすることが多いと思われる。

そのため、脊髄損傷事案に臨む際には、脊髄損傷か不全損傷かといった
傷病名だけでなく、脊髄損傷の原因や症状を詳細に確認することが
重要であるといえる。

そこで、上記裁判例を踏まえ、前述した各要素を、脊髄損傷の存否との
関係でどのように考慮すべきかを検討する。

第1に、要素①事故態様については、事故態様が軽微な場合に、
脊髄損傷が生じるような外傷が加わったのかどうかが争いになることがあるが、
脊髄がデリケートな部分であり、事故の状況によっては、わずかな衝突でも
損傷することがあるので、どのような状況下で事故が生じ、どのような
方向から衝撃が加わったのか、衝撃が加わる際被害者がどのような体勢
だったのか、被害者以外の負傷者の有無及び負傷者がいる場合には
その怪我の程度といったことを詳細に検討することが重要であるといえる
(裁判例3,8,12,13,21)。
この点、東京地判平成14年3月29日判決(自保ジャーナル第1446号)
では、「身体に及んだ衝撃、影響を把握するためには」、被害者の
「衝突時の座席位置、姿勢、身体や顔の向き、衝突後の身体の動き、
車内における内壁等との二次衝突の有無やその態様、衝撃の程度等を基礎に
総合的に検討することが不可欠」としており、上記判断基準が参考に
なるといえよう。

第2に、要素②脊髄損傷から通常生じるとされる症状が被害者に生じて
いない場合には、前述のように脊髄不全損傷の場合には完全損傷とは異なる
症状が生じることもあり得るのであるから、脊髄損傷の内容を検討し、
完全損傷か不全損傷か、どこをどのように損傷したのかを解明することが
重要であるといえる。また、受傷後、麻痺等の症状の発生までの間にズレが
生じた場合、その期間が短い場合には、脊髄不全損傷を検討し、長期間の
場合には脊髄空洞症の可能性を検討することが重要であるといえる
(裁判例6,17)。

そして、脊髄損傷の症状と整合性が取れている部分の確認、頸椎捻挫等他の
傷病で説明がつくのか(裁判例3,9),ズレが生じている部分及びその
原因の検討を行うことが重要であるといえる。

第3に、要素③既往症の存在については、特に高齢者の場合、まず診断書から
既往症の有無を確認することが重要であるといえる。

もっとも、既往症と相俟って脊髄損傷が生じたとして脊髄損傷が認められた
場合であっても、公平の観点から素因減額として、損害額からの減額が
なされることが多いことに注意が必要である(裁判例1,2,3)。

なお、素因減額の詳細については、第2章6素因減額を参照されたい。

第4に、完全な脊髄損傷では症状の説明がつかない場合には、不全損傷の
可能性を検討する必要がある。裁判上も不全損傷であることを理由に脊髄損傷が
認められることは珍しくない(裁判例3,5,7,8)。

しかし,当然のことながら不全損傷であればどのような症状でも認められる
というわけではないことには注意が必要である。

まず、不全損傷であっても画像に出ることはあるから、画像検査が重要で
あることには変わりがない。また例えば、下肢よりも上肢の痺れが強い場合には
中心性脊髄損傷の可能性が、片側の上下肢麻痺ならば、ブラウン・セカール症候群
の可能性が生じるというように、その損傷態様及び傷病名によって
麻痺の範囲・程度がある程度定まることから、麻痺の程度や範囲等について
医学的に合理的な説明ができるのかを検討する必要がある。

いずれにせよ、不全損傷であっても、不全損傷の存否を明らかにする
必要があり、不全損傷でも説明のつかないような麻痺の症状が生じた場合には、
脊髄損傷の存在は医学的に説明がつかないとして、否定されることが多いと
言えよう(裁判例10,11,19)。

もっとも,結果的に脊髄損傷が否定されたとしても,事故によって
脊髄損傷以外の傷害が生じ,その傷害によって後遺障害が生じている場合には,
後遺障害と事故との因果関係は認められるのであるから(裁判例14),
常に多角的な視点で後遺障害の原因を検討する必要があろう。




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