裁判例3 大阪地判平成7年3月30日(交民集28巻2号559頁)

裁判例3 大阪地判平成7年3月30日(交民集28巻2号559頁)
年齢 42歳(固定時)
性別 男子
事故日 昭和61年11月30日
事故状況
被告甲運転車両は、助手席と左後部座席に同乗者を乗せて交差点を
右折するべく時速5ないし6キロメートルで発進したが、時速50キロ
メートルで交差点を直進してきた被告乙運転車両と衝突した。

被告乙運転車両には、助手席と右後部座席に同乗者がいた。
原告は、被告乙運転車両の右後部座席に前屈みの姿勢で前方を見ながら
同乗していたが、右折車との衝突直前、危険を感じて両手で側頭部を
保護した。

原告以外の両車の運転者・同乗者に傷害はなかった。また、原告同乗の
被告乙車の損壊状況は、前部バンパー・ボンネット凹損、右前照灯破損
により46万3900円程度の修理費を要する中破であった。

原告の主張する傷害内容  中心性頸髄損傷、頚部捻挫等。
自賠責等級  12級12号 
裁判所認定等級等 神経症状9級10号、喪失率35パーセント、
喪失期間67歳までの25年間

原告が主張する後遺障害の内容
受傷直後に四肢麻痺が生じ、その後下肢麻痺は回復したものの、上肢の障害、
特に手指の巧緻運動障害及び知覚障害が残った。

被告の主張
①原告が本件事故によって受けた衝撃が軽微である。
②原告の症状には、頸髄損傷の代表的症状である脊髄ショック、
膀胱直腸障害が認められないのであるから頸髄損傷は生じていない。

【裁判所の判断】
まず、裁判所は、急制動以前の直進車の速度及び本件事故による損壊状況等の
上記事故状況に照らせば、原告が衝突直前に両腕で側頭部を保護した
ことや原告以外に負傷者がいないことを考慮しても、原告の受けた衝撃の
程度は必ずしも軽微とは認められないとした。さらに、頸髄損傷は相当軽微な
衝撃によっても発生する場合があることが認められるとも認定した。

次に、頸髄損傷との診断は、頸髄が損傷を受けたことを意味するにとどまり、
特に頸髄不全損傷においては、損傷の部位、態様、程度により、代表的と
される各種症状の有無、程度には極めて広範囲な差異があるから、
代表的症状の全部又は一部を明確に具備することが頸髄損傷の診断に不可欠な
要件ではなく、症例毎に全症状・経過を総合的に考察し、かつ、他病因の
可能性をも検討した上、頸髄損傷の有無を判断すべきとした上で、
被告主張のように、原告には脊髄ショック、膀胱直腸障害等がみられなかった
ものの、受傷当初に四肢麻痺が存在し、下肢麻痺は早期に回復したとはいえ、
上肢障害特に手指の巧緻運動障害及び知覚障害が明確に残存し、しかも、
このような症状・経過は、障害の発生が上肢に限定される頸椎捻挫をはじめ
他の疾患では医学的に説明し難いので、中心性頸髄損傷に近い頸髄不全損傷との
診断は妥当であるとした。

そして、上記事実の総合考慮によって、原告は、本件事故時の衝撃により頸椎の
後屈を強く強制され、頸椎の軟部組織に損傷を受けるとともに、中心性頸髄損傷
に近い頸髄不全損傷の傷害を負ったと判断した。

【本裁判例の分析】
 本裁判例は、まず、事故の態様の点について、事故態様や、原告の動作、
原告以外に負傷者がいないことという客観的状況を考慮した上で、原告の受けた
衝撃が軽微とはいえないとした。また、頸髄損傷は軽微な衝撃によっても
生じうる場合があるとした(要素①)。

次に、不全損傷の特殊性に考慮した上で、原告の具体的な症状及び経過に
照らして、頸椎捻挫等では説明がつかないとして、不全損傷を認定した。

このように、本裁判例は、事故態様から脊髄損傷が生じても不合理な点は
ないとした上で、生じた脊髄損傷は不全損傷であって脊髄の完全損傷により
通常生じうる症状と差異があっても矛盾しないとして(要素②)、
脊髄損傷を認めた点に特徴がある。




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