未必的故意

裁判例1          大阪地裁平成9年3月18日判決

当時の慰謝料の基準     2600万円
増額慰謝料額        2700万円(100万円アップ!)

どのような事故だったか?

本項で紹介するのは、加害者に「未必の故意」が認められたケースです。

未必の故意とは、「相手が死んでもかまわない」と思っている状態をいいます。

つまり、積極的ではないにせよ殺意が認められる場合です。

本件の被害者は57才男性で、個人タクシーをしながらメガネ店でもアルバイトを
していました。

死亡事故のきっかけは、その直前に起きた物損事故でした。

被害者運転のタクシーの左後部ドア部分に、加害者運転の普通貨物自動車が
接触したのです。

通常ならば、ここで2人とも車を降り、警察を呼び、お互いの連絡先や保険関係を
教えあうところでしょう。

ところが、この加害者は酒を飲んでいたために、飲酒運転の発覚をおそれて、
車を降りずにその場から逃走したのです。

もちろん被害者もだまっていません。
タクシーで追跡し、加害者の車が信号待ちで止まったところに追いつきました。

ここで被害者はタクシーを降り、加害車両の前方に立ちふさがりました。

通常なら、加害者もここであきらめて、車を脇に寄せるなどして止めて、話合いに応じることでしょう。

しかし、加害者は驚くべき行動に出ました。
被害者が立ちふさがっていることが分かっていたのに、車を発進させたのです。
被害者は、振り落とされまいと車の前面にしがみついていました。
それでも加害者は、車をとめませんでした。
そのまま走行し、結果、被害者を落下転倒させて、轢過した上、1360mも
被害者をひきずったのです。

これにより、被害者は、内蔵挫滅で失血死しました。

裁判所が慰謝料を増額した理由のポイント

加害者に被害者殺害の未必の故意があったこと
    
解説

多くの交通事故は、死亡事故でも傷害事故でも、いわゆる「過失」による事故です。

人を傷つけよう、死なせようとして事故を起こしたのではなく、あくまで信号無視や
脇見運転などの過失があったために起きた事故です。

そのため、刑法上も、業務上過失致死傷罪や危険運転致死傷罪という過失の罪で
裁かれます(もっとも、危険運転致死傷罪は、故意犯に近いでしょう)。

しかし本件では、加害者に、被害者殺害の未必の故意があると認定されました。

刑法なら殺人罪です(もっとも、刑事と民事では全く別の結論が出ることもあり、
刑事事件でどのような認定がされているかは分かりません)。

未必の故意認定のポイントは3つです。

 第1に、加害者は、被害者が立ちふさがっているのに車を発進させたこと、
 第2に、被害者が車前部にしがみついているのを分かっていて走行を続けたこと、
 第3に、被害者落下後に車のハンドルが右にとられたり進みにくくなっていたのに
気付きながら走行を続けたことです。

これらを根拠に判決は未必の故意ありと認定しました。
そして、このような事故態様からすれば、慰謝料としては2700万円が相当であると、
基準よりも100万円増額させました。

過失であろうが故意であろうが、大事な家族を事故で亡くしたご遺族の悲しみや怒りに
優劣はつけられないでしょう。

しかし、裁判実務では、故意か過失かという問題は、慰謝料(刑事なら量刑)算定に
影響を与えます。
  
本判決も、未必の故意という加害者の悪質さを慰謝料増額事由としたものです。

しかし、事故態様の悪質さから考え、わずか100万円の増額というのは少ないと
言えるでしょう。
もっと大幅に増額しても良いように思います。

裁判例2          東京地裁平成5年3月26日判決

当時の慰謝料の基準     1800万円
増額慰謝料額        3000万円(1200万円アップ!)

どのような事故だったか?

本件事故の被害者(47才男性)と加害者は、同じ土木会社H社に勤める同僚です。
その日はH社の忘年会で、加害者も被害者もこれに参加していましたが、
二次会に向かう途中で同僚らと加害者が口論になり、加害者が同僚のS氏から
殴る蹴るの暴行を受けるというトラブルが起きました。

もっとも被害者は、この喧嘩には全く関与していません。

加害者は、喧嘩の現場から逃げ出しましたが、怒りを募らせ、S氏らに報復をしようと、
H社駐車場にあったダンプカーに乗り込み、S氏らを探しまわります。

そして、事故現場交差点付近の横断歩道にS氏と被害者が立っているのを見つけました。

加害者は、殴られた屈辱感を思い出してさらに怒りを募らせ、ダンプカーでS氏を
ひき殺そうと決意します。

近くに被害者も立っており、S氏をひき殺そうとすれば被害者も巻き添えになる
可能性がありましたが、それでも加害者は、時速30kmで交差点を左折し、
さらに加速させて、ハンドルを左に切り、ダンプカー左前部をS氏だけでなく
被害者にも衝突させました。

S氏は、加療3週間の軽傷で済みましたが、被害者は、左前輪でひかれるなどしたため、
脳挫傷等で死亡しました。

裁判所が慰謝料を増額した理由のポイント

①未必的殺意をもってダンプカーを衝突させるという極めて凶悪な行為であること
②被害者は喧嘩には無関係であり巻き添えにあったものであること
  
解説

判決は、慰謝料を3000万円と算定しました。

被害者は独身男性で、当時の基準ならば、慰謝料は1800万円というところでが、
1200万円を増額しています。

裁判例1と比べると、かなりの増額です。

判決が、慰謝料算定あたりもっとも重視したのは、被害者に対し、未必的とはいえ
殺意をもってダンプカーを衝突させたというその悪質さです。

加害者がひき殺そうと狙っていたのはS氏ですから、S氏に対する殺意が
認められるのは当然ですが、この加害者は被害者を巻き添えにしてもかまわないと
考えていたために、未必の殺意ありと認定されました。

本件は基準よりも1200万円とかなりの増額ですが、これには、
未必の殺意だけでなく、被害者が事件の発端となった加害者とS氏との喧
嘩と全く無関係であり巻き添えにあったことも考慮されていると考えられます。




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