裁判例⑤

神戸地判平成13年8月8日
(交通民集34巻4号1019頁)
年齢: 81歳(事故時)
性別: 男子
職業: 無職と思われる
事故日: 平成7年9月29日
傷害内容: 外傷性硬膜性血腫、骨折(部位不明)
後遺障害等級: 精神神経障害1級3号、右肩関節機能障害、併合1級
後遺症の概要:
事故前に認知症は全くなかった。平成9年2月28日に症状固定した。
事故後、長期の入院加療の中で、アルツハイマー型認知症を発症し、
平成11年5月15日(事故から約3年7ヶ月後、症状固定から約2年3ヶ月後)
に肺炎で死亡した。

素因(既往症)の内容: 高齢(事故時81歳)であること。交通事故により
アルツハイマー型認知症を発症するとは限らないこと。

素因(既往症)の寄与割合: 20%

ア 本裁判例の内容
本裁判例は、「事故とアルツハイマー型認知症との直接的な因果関係はないが、
長期の入院加療により二次的に引き起こされたことが考えられる」とし、
「死亡時までの」損害を認めた。
他方で、
①被害者が事故時81歳という高齢であったこと、
②交通事故によりアルツハイマー型認知症を発症するとは限らないこと

等を考慮して、損害の公平な分担の見地から、被害者に生じた全損害のうち
8割を加害者負担とした。

具体的な当事者の主張、裁判所の判断は概ね以下のとおりであった。
まず、被告は、

①書面尋問に対する池内医師(この医師が被告側提出の診断書も作成している)
の回答書によれば、結局、被害者はアルツハイマー型認知症を発症しているから、
これと交通事故は無関係である、

②平成7年の阪神淡路大震災を機にかつての1人暮らしから長女との同居を
するようになったという事情があり、環境の激変と地震のショックで認知症が
起こる可能性は十分にある、

③死亡したのは、事故から3年半以上経過し、症状固定からも2年以上
経過したころであり、死因も肺炎であるから死亡と事故との因果関係はない、

④ただ、池内医師は交通事故も2次的に関与していると述べているから、
仮に因果関係があるとしてもせいぜい2割から3割である

などと主張した。
他方、原告は、
①「本件交通事故に遭う前は元気で認知症などは全くなかった」、
②「入院直後より自用足ない状態となり家族が話しかけても相手が誰なのか
分からない状況になった」とし、そのような病状が継続し、長期に及んで
認知症状態が発生、進行していったと主張した。

裁判所は、
①書面尋問に対する池内医師の回答書や同医師の診断書を根拠に、

a.被害者の認知症は脳血管性認知症とアルツハイマー型認知症の
合併であった、

b.「事故→外傷性硬膜性血腫あるいは器質性脳障害→脳血管性認知症」の
因果関係は認められる、

c.アルツハイマー型認知症の発症には、しばしば長期の臥床のような
刺激の乏しい環境に置かれたことが転機になるから
「事故→外傷性硬膜性血腫や骨折→長期の臥床→アルツハイマー型認知症」
の因果関係が認められるとした。

さらに、②原告の陳述書を根拠に、本件事故により受傷して入院するまでは
被害者につき特段認知症の症状が出ていなかったとした。

その上で(①②の事情を総合して)、被害者の認知症については、
本件事故が大きく寄与していると言わざるを得ないと判断した。

もっとも、裁判所は前記のとおり、被害者が本件事故当時81歳と高齢で
あったこと、交通事故によりアルツハイマー型認知症を発症するとは
限らないであろうことなどを考慮し、損害の公平な分担の見地から被害者に
生じた全損害のうち8割を被告に負担させることとした。

イ 本裁判例の分析
本裁判例は、
①被害者の認知症が脳血管性認知症とアルツハイマー型認知症の合併で
あるところ、

②事故と脳血管性認知症との因果関係や、事故とアルツハイマー型認知症との
因果関係がそれぞれ認められるとして、事故と認知症との因果関係を
分析的に検討している点

が特徴的である。その根拠として医師の意見を重要視している点も
ポイントである。

(なお、原告の陳述書により、事故前に認知症の症状が全くなかったことを
認定している点も見逃せない。)
全損害の8割に限定する理由としては、

①「高齢」
②「交通事故によりアルツハイマー型認知症を発症するとは限らない」
③「損害の公平な分担の見地」などと簡単に触れているだけである点も
特徴的である。




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