裁判例④

さいたま地判平成18年8月4日
(自保ジャーナル第1682号)
年齢 :59歳(事故時)
性別: 女子
職業 :家事従事者
事故日: 平成13年10月15日
傷害内容
びまん性軸索脳損傷、左大腿骨頸部内側骨折、右恥骨骨折、右腸骨骨折、
右第8肋骨骨折、
脳挫傷後異所性仮骨、頭部顔面外傷、下顎骨折等
後遺障害等級: 1級3号
後遺症の概要
受傷後2日間程度意識障害があった。意識障害は一時的に改善がみられたが、
年齢、名前及び場所などが正確に言えないなど見当識に障害がある状態は
継続した。

その後、言語障害及び見当識障害の症状が徐々に悪化するとともに、
うつ病が発現・悪化、平成14年9月5日に症状固定となった。

素因(既往症)の内容
平成6年4月に多発性の脳梗塞と診断され、その後軽快。しかし、
平成11年6月に脳梗塞を再発(構語障害、歩行機能の障害が発現)し入院。

リハビリの結果、平成12年1月ころには、歩行機能の障害を除き、脳梗塞の
症状は相当程度改善され、掃除や洗濯などの家事や買い物などもある程度
一人で行なえるようになっていた。

素因(既往症)の寄与割合: 30%

ア 本裁判例の内容
本事案において、被告は、

①原告が本件交通事故以前に脳梗塞を発症しており、その既存障害の程度は
7級5号(喪失率56%)に相当していたのであるから100%の喪失率は
認められない、

②本件交通事故以前に存在していた多発性脳梗塞による脳血管障害が原因で
脳の中枢神経系がかなりもろい状態にあったところに、本件交通事故で軽度の
びまん性軸索損傷を受けたことによって、多発性脳梗塞による知能低下、
記銘力障害及び見当識障害等の症状が顕在化し1級3号の後遺障害が
残ることとなった

のであるから、既往症が後遺障害に寄与した割合は50%を下らないと
主張した。
他方、原告は、

①事故以前に脳梗塞により後遺障害等級12級に相当する障害が存在したので、
1級の喪失率100%と12級の喪失率14%の差である86%が
本件交通事故による後遺障害の喪失率となる、

②本件交通事故以前に生じていた脳梗塞が悪化したり、新たに出現している
画像上の所見はないので、脳梗塞と交通事故によるびまん性軸索損傷が
競合して脳梗塞の症状を悪化させたことを認める医学上の根拠はなく
寄与度減額は認められない(仮に認められるとしても20%を超える
ことはない)

と主張した。

裁判所は、既存障害について、平成12年の1月ころまでには、歩行機能の
障害を除き、原告の脳梗塞の症状が相当程度改善され、家事や買い物なども
一人でかなり行なえるようになっていたことから、3回にわたって脳梗塞に
よる入院治療を受けていたとしても、本件交通事故直前の時点における
脳梗塞による原告の障害の程度が7級5号に相当するとはいえないとした
うえで、同じミスを繰り返したり、興奮したり、家族や周囲の者との間で
トラブルを起こすことがあったことを指摘し、原告の既存障害の程度は
9級10号(喪失率35%)に相当するとして、65%の喪失率を認めた。

寄与度減額の点については、

①原告の多発性脳梗塞による血管障害の程度はCTスキャンの画像上では
かなり進行していたが、臨床症状の面では、脳血管障害の影響による行動障害、
認知障害及び異常な感情反応などの症状が進行していたわけではないことを
理由に、本件交通事故後に生じた原告の記銘力の低下、知能の低下及び
見当識の低下並びに感情失禁等の症状が、本件交通事故による頭部外傷と
関係なく、多発性脳梗塞の症状の進行によって引き起こされたとまでは
認められないとしたうえで、

②意識障害等の症状が発現した原因は、本件交通事故により頭部に
びまん性軸索損傷の障害を受けたためであると認定した。

そのうえで、

①一般的に、CTスキャンやMRIの画像上の所見がない外傷性の
びまん性軸索損傷は予後が良いにもかかわらず、原告は症状が改善せず
かえって悪化していること、

②一般的に、脳梗塞を罹患している患者が頭部に外傷を受けた場合には、
脳に障害のない者に比べて、脳外傷による症状が重くなること、

③本件交通事故前にはある程度改善していた知能面の低下等の脳梗塞の症状が、
本件交通事故後による入院が長期化したことによって悪化した可能性が
あることなどを考慮し、原告が罹患していた多発性脳梗塞が本件交通事故の
外傷性のびまん性軸索損傷による症状の増幅に寄与したことは
否定できないとし、「多発性脳梗塞による血管障害の程度はCTスキャンの
画像上ではかなり進行していたが、本件交通事故直前には脳梗塞による症状は
かなり改善していたことを考慮すると、原告の既存の多発性脳梗塞が現在の
症状に寄与した割合は30%と認めるのが相当である」と判示した。

イ 本裁判例の分析
本裁判例は、事故以前に存在していた既存障害(多発性脳梗塞)が
後遺障害に与える影響について、①労働能力喪失率と②寄与度減額の
2つの段階で考慮している点に特徴がある。




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