【裁判例⑤】

東京高判平成15年7月29日(判例時報1838号69頁)
48歳女子が植物状態の1級3号後遺障害を残した事案

裁判所の判断
「控訴人は、将来介護費用の損害賠償について、被害者保護を確保することを
当然の前提として、損害の衡平な分配という不法行為法の理念を失わずに
賠償義務を加害者に負わせる方法として定期金賠償の方法によるべきであると
主張する。

確かに、介護費用はもともと定期的に支弁しなければならない費用であり、
植物状態となった被控訴人Aの推定的余命年数については少なくとも現時点から
20年ないし30年と推認することは困難であるものの、この推定余命年数は
少ない統計データを基礎にするものであり、現実の余命と異なり得るもので
あることはもちろん、被控訴人Aの身体状態、看護状況、医療態勢や医療技術の
向上の一方で、思わぬ事態の急変もあり得ることなどを考慮すると、
概ねの推定年数としても確率の高いものともいい難い。

そうすると、推定的余命年数を前提として一時金に還元して介護費用を
賠償させた場合には、賠償額は過多あるいは過少となってかえって当事者間の
公平を著しく欠く結果を招く危険がある。

このような危険を回避するためには、余命期間にわたり継続して必要となる
介護費用という現実損害の性格に即して、現実の生存期間にわたり定期的に
支弁して賠償する定期金賠償方式を採用することは、それによることが
明らかに不相当であるという事情のない限り、合理的といえる。

これに対し、被控訴人Aは、損害賠償請求権利者が訴訟上一時金による
賠償の支払を求める旨の申立てをしている場合に、定期金による支払を
命ずる判決をすることができないとし、その理由として、これを命ずることに
ついての問題点とされていた、

①貨幣価値の変動等の事情変更があった場合の対処方法がないこと、

②賠償義務者の資力悪化の危険を被害者に負わせることになること

の内、①の点は平成8年法律第109号として制定された民事訴訟法
117条において、定期金による賠償を命じた確定判決についての変更を
求める訴えの制度が設けられて解決したといえても、②の点は、
未だ問題として残されたままではあることを指摘する。

しかし、一時金による将来介護費用の損害賠償を命じても、賠償義務者に
その支払能力がない危険性も大きいし、賠償義務者が任意に損害保険会社と
保険契約を締結している場合には、保険会社が保険者として賠償義務を
履行することになるから、不履行の危険性は少なくなるものといい得る。

(証拠略)によれば、控訴人は、自動車事故による損害を填補するため、
富士火災と任意に損害保険契約を締結していたことが認められるから、
控訴人の損害賠償義務は保険者である富士火災が履行することになると
推認される。

もっとも、(証拠略)を併せると、富士火災は平成13年9月中間決算期に
経常損益が赤字であるなど経営状況が安定しているとはいい難く、近年は
保険自由化が進み、保険会社間の競争も激化し、下位の損害保険会社の
中には倒産したものがあったことが認められるが、富士火災が将来破産など
倒産するとまで予測することはできない。

そうであれば、被控訴人Aの将来介護費用の損害賠償債権は、その履行の
確保という面では一時金方式であっても定期金賠償方式であっても合理性を
欠く事情があるとはいえないし、民事訴訟法27条の活用による不合理な
事態の回避も可能であるから、将来の介護費用損害に定期金賠償方式を
否定すべき理由はない(なお、被控訴人Aは、介護費用についても定期金に
よる賠償について反対しているものの、第1審における2002年5月17日
付け準備書面においては、その試算を前提に定期金による賠償も魅力的なもの
との意見を示していた。)。以上によれば、被控訴人Aの将来の介護費用損害に
ついては、被控訴人Aの請求する将来の介護費用損害を超えない限度で、
控訴人に対し、定期金による賠償を命ずるのが相当である。

そして、その期間については、被控訴人Aの推定余命期間が確定したものでは
ないから、平成15年6月25日から被控訴人Aが主張(原文ママ)通常の
平均余命までの期間を超えない限度で、これが確定する死亡又は平均余命の
84歳に達するまでのいずれかの時期までとし、支払方法については、
毎月24日限り前月25日からの1か月分を支払うこととするのが
相当である。」

上記裁判例は、当事者間の公平という観点からは、一時金賠償を命じた方が
公平を害する危険がある場合もあるとした上で、当該事案では履行の確保も
図れていること、被控訴人(原告)は定期金賠償に応じる余地も全くない
とはいえないこと等を理由として、定期金賠償を命じた。




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