脾臓

胸腹部臓器に関する後遺障害の中では、脾臓喪失に関する裁判例が多い。
脾臓喪失は、平成18年の障害基準の改定以前は「脾臓又は一側の腎臓を失ったもの」として、
8級11号とされていたが、改定(平成18年4月1日以降の事故に適用)により、
「胸腹部臓器の機能に障害を残すもの」として13級11号に変更した。

近時(平成17年以降)の裁判例では、改定以前のもので、裁判例⑦のように
等級基準どおりの喪失率を認定した裁判例も存在するが、裁判例⑧、⑨、⑩、⑪のように
8級に応じた45%をそのまま認定しない裁判例も多く見受けられる。
また、改定以前の事案であっても、改定に向けられた厚生労働省の報告書記載事項に配慮して、
労働能力喪失率を14%と認定する裁判例⑤も存在する。改定後の基準により自賠責で
13級が適用されている事案(平成18年4月1日以降に生じた事故に関する事案)では、
裁判例⑥が存在するが、脾臓摘出による労働能力喪失をいかに判断したかは明らかではない。

以下、紹介する。

裁判例⑤
東京地裁平成19年3月26日判決(自保ジャーナル4936号)
性別・年齢 女性 症状固定時30歳
事故当時の職業 システムエンジニア
後遺症の内容(胸腹部臓器部分の後遺障害等級)
脾臓の損傷(脾臓の喪失に相当するとして8級11号)
比較基準喪失率 45%
喪失率・期間 30年間(67歳まで)14%
同等級の一般的な後遺障害慰謝料 830万円
後遺症慰謝料 290万円

特徴
脾臓喪失に関する後遺障害等級の改定以前に生じた事故であり自賠責では
8級の後遺障害等級が認定されていたが、改定に向けた厚生労働省の報告書で
13級に評価することが相当とされていることにも鑑み、上記喪失率の認定に
止めている点が特徴的である。

原告が事故後転職により基本給が半分以下に減少していることや、
脾臓亡失が免疫機能低下により感染症にり患する危険性を増加させることが
あり得ることを考慮しつつ、医師から脾臓損傷と風邪を頻繁に引くこととの関連が
不明であるとの回答を得ていることや、特に上記報告を重視したものと考えられる。

裁判例⑥
東京地裁平成23年6月8日判決(判例秘書)
性別・年齢 男性 症状固定時32歳
事故当時の職業 自営の塗装業
後遺症の内容(胸腹部臓器部分の後遺障害等級) 脾臓摘出(13級11号)
他の後遺症・これを含めた後遺障害等級 腎損傷(9級11号)、左肩関節可動域制限(10級10号)との併合7級
比較基準喪失率 56%
喪失率・期間 35年間(67歳まで)35%
同等級の一般的な後遺障害慰謝料 1000万円
後遺症慰謝料 1000万円

特徴
脾臓喪失に関する後遺障害等級の改定以後の事案に関する裁判例である。
労働能力喪失率について、「後遺障害の内容・程度(筆者注:後遺障害等級の記載にとどまる)
のほか、本件事故後の収入の推移(筆者注:事故前の実収入が315万円余り、
仕事に復帰した後は売上464万円余りで収入が事故前より増えている。)等に照ら」
して35%と認定するにとどまり、他の後遺障害も含め、脾臓摘出による労働への
具体的支障をいかに評価したかは判決文のみからは定かではない。

裁判例⑦
横浜地裁平成17年9月22日判決(自保ジャーナル1616号)
性別・年齢 女性 症状固定時61歳
事故当時の職業 会社役員
後遺症の内容(胸腹部臓器部分の後遺障害等級) 脾臓摘出8号11号
他の後遺症・これを含めた後遺障害等級
びまん性脳挫傷による高次脳機能障害7級4号との併合5級
比較基準喪失率 79%
喪失率・期間 6年間(67歳まで)79%
同等級の一般的な後遺障害慰謝料 1000万円
後遺症慰謝料 1400万円

特徴
併合対象の高次機能障害(7級)については計算間違い等の具体的な労務への支障を
認定しているのに対し、脾臓喪失については「脾臓破裂による摘出が身体に影響が
ないと断ずることはできない」との判示にとどまり、具体的な労務への支障は
不明確であるが、併合5級とおりの79%を認定していることが特徴的である。

裁判例⑧
名古屋地裁平成18年10月20日判決(自保ジャーナル1687号)
性別・年齢 女性 症状固定時36歳
事故当時の職業 パート(事故後婚姻して主婦)
後遺症の内容(胸腹部臓器部分の後遺障害等級) 脾臓摘出(8級11号)
他の後遺症・これを含めた後遺障害等級 脊柱変形(11級)、
右肘可動域制限(12級)等との併合7級
比較基準喪失率 56%
喪失率・期間 31年間(67歳まで)45%
同等級の一般的な後遺障害慰謝料 1000万円
後遺症慰謝料 880万円

特徴
脾臓を失ったことのみで45%の労働能力の喪失を認めることは難しいが、
「身体機能の低下が生じる可能性があり、一概に逸失利益を否定することも相当でな」いとし、
上記他の後遺障害とも総合して45%を認定している。

裁判例⑨
大阪地裁平成18年7月27日判決(自保ジャーナル1679号)
性別・年齢 男性 症状固定時25歳
事故当時の職業 警備員
後遺症の内容(胸腹部臓器部分の後遺障害等級) 血液循環障害による右下肢の跛行、
脾臓及び胆のうの摘出と併せて7級5号
他の後遺症・これを含めた後遺障害等級 鎖骨変形(12級5号)、
左下肢疼痛(12級12号)との併合6級
比較基準喪失率 67%
喪失率・期間 42年間(67歳まで)38%
同等級の一般的な後遺障害慰謝料 1180万円
後遺症慰謝料 1220万円

特徴
事故後警備会社を退職して事務職として稼働しているところ、①40%の減収、
②1km以上を連続して歩行することが難しい、③風邪をひきやすく治りにくい、
④疲れが取れないという支障を考慮しつつ、「脾臓と胆のうの全摘の影響は余り
大きく評価できず、原告は現在の職業に適応して将来ある程度昇給することもあり得る」
として、38%の喪失率を認定している。

裁判例⑩
横浜地裁平成19年3月29日判決(自保ジャーナル1704号)
性別・年齢 男性 18歳
事故当時の職業 大学生
後遺症の内容(胸腹部臓器部分の後遺障害等級) 脾臓摘出(8級11号)
比較基準喪失率 45%
喪失率・期間 49年間(67歳まで)30%
同等級の一般的な後遺障害慰謝料 830万円
後遺症慰謝料 830万円

特徴
①免疫力低下、②疲労しやすい、③風邪をひく頻度が増え回復しにくいほか、
④脾臓摘出手術に起因する腸閉塞が生じており再発の可能性があるという支障を
考慮しつつ、⑤それでも大きな支障なく台湾において留学生活をしていることに鑑み、
30%の喪失率を認定している。

裁判例⑪
名古屋地裁平成19年1月17日判決(自保ジャーナル1704号)
性別・年齢 男性 症状固定時27歳
事故当時の職業 自動車整備士
後遺症の内容(胸腹部臓器部分の後遺障害等級) 脾臓摘出(8級)
他の後遺症・これを含めた後遺障害等級 10級8号の下肢短縮との併合7級
比較基準喪失率 56%
喪失率・期間 40年間(67歳まで)40%
同等級の一般的な後遺障害慰謝料 1000万円
後遺症慰謝料 940万円

特徴
脾臓摘出部分を25%と明示し、それ以外の上記併合対象後遺症と総合して
40%であると認定している点が特徴的である。

この25%の内容としては、①脾臓摘出の一般的見解(摘出しても他の臓器等により
代償されるものであるが、感染防御能力等の免疫力が低下し、倦怠感、抵抗力の
低下等を招きやすいこと)、②原告の症状(事故前は健康であったが、事故後は
目に見える様な日常生活への影響はないものの、下痢しやすくなったり疲れやすく
なったり風邪をひきやすくなっている)、③事故により自動車整備士を辞め無職で
あることが挙げられる。




  • LINEで送る
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

ページトップへ

0120-949-753

このページの先頭へ