裁判例

(ア)労働能力喪失を肯定した裁判例
裁判例? 京都地判平成13年9月28日(自保ジャーナル1440号)
年齢 事故時64歳
性別 男性
職業 会社員
原告の主張する傷害の内容 頭部外傷Ⅱ型、肺挫傷、右胸水(血胸)、
右肩甲骨骨折、右第3ないし第9肋骨骨折
自賠責等級 併合11級(①肩甲骨変形12級5号,②右肩関節機能障害12級6号)
喪失率20%
裁判所認定等級等 併合11級
喪失率20%、喪失期間8年間(平均余命の2分の1)

被告の主張 原告の後遺障害のうち、肩甲骨に著しい奇形を残すものとされた変形障害
(12級5号)は労働能力に影響を与えないのであるから、労働能力喪失率の関係では
12級相当、すなわち、喪失率を14%として逸失利益が算定されるべき。

【本裁判例の分析】
(1)裁判所は,上記被告の主張に対し,原告の場合、肩甲骨骨折については保存療法が
とられたが、変形障害は肩甲骨骨折だけではなく、肋骨の多発骨折のため右胸郭の変形
(狭小化)が関係し、多少の肺活量の低下を伴ない、坂道を登ったり、
急ぎ足のときに一瞬呼吸が詰まるようになっていることが認められ、単なる変形に
とどまらない労働能力への影響が推測されるとし、症状固定時から8年間にわたり
労働能力の20%を喪失したと認めるのが相当であるとした。

(2)本裁判例では,肩甲骨の変形のみならず胸郭の変形も含めて具体的な支障を認定し,
併合等級どおりの喪失率を認めている。

裁判例? 横浜地判平成17年2月3日(自保ジャーナル1637号)
年齢 事故時30歳
性別 男性
職業 アルバイト
原告の主張する傷害の内容 左鎖骨骨折、左肩甲骨骨折、左肋骨骨折
自賠責等級 併合11級(①肩甲骨変形12級5号,②鎖骨変形12級5号)
喪失率20%
裁判所認定等級等 併合11級
喪失率14%,喪失期間10年

被告の主張 原告の後遺障害は、鎖骨、肩甲骨の変形で、機能障害はないから、
20%の得べかりし利益の喪失が生じることはない

【本裁判例の分析】
 裁判所は,原告の後遺障害の内容・程度(左腕を肩から上に上げる際に痛みが生じている)、
現在の仕事内容・収入(工場での部品組み立て作業に従事し,月額30万円の収入がある。
事故前のアルバイトよりも高収入)、原告の年齢や,原告が本件事故による後遺障害により
俳優になるのを断念したことを総合すると、原告の後遺障害は併合11級であるが、
後遺障害による減収の割合は14%で、減収の期間は10年と認めるのが相当であるとした。

裁判例? 大阪地判平成21年2月24日(自保ジャーナル1813号)
年齢 事故時44歳
性別 男性
職業 会社員
原告の主張する傷害の内容 左鎖骨骨折、左肩甲骨骨折、左下肢打撲、
左第2、3肋骨骨折、外傷性左肺挫傷
自賠責等級 肩甲骨変形12級5号
喪失率14%
裁判所認定等級等 12級5号
喪失率10%、喪失期間22年間(67歳まで)

被告の主張 肩甲骨の変形自体は、労働能力に影響を及ぼすものではなく、
疼痛についても、それほど強いものではない。また、原告には減収は生じていないと
みられるから、自賠責保険の後遺障害等級に対応する労働能力喪失率を適用するのは
相当ではなく、喪失期間についても制限すべき

【本裁判例の分析】
(1)裁判所は, 原告には、本件事故により、左肩甲骨の変形障害とこれに伴う
同部位周辺の疼痛、左肩関節の可動域制限及び左腕のしびれ等の後遺障害が
残存していると認定した。

そして,原告には、本件事故の前後で、現実の減収は生じてはいないものの,
原告は、工業高校を卒業後、ほぼ一貫して肉体労働を中心とした業務に従事しており、
本件事故当時も、比較的重量のある製品の運搬等を伴う業務に従事していたことが
認められるのであり、以上のような原告の後遺障害の内容及び程度並びに原告の
就労状況等に照らせば、本件事故後に原告の収入が減少していないのは、原告が
労働能力の低下による収入の減少を回復すべく特別の努力をしていることなどに
よるものであるとみられる上、原告は、上記後遺障害が残存したことにより、
行うことが可能な仕事の範囲が限定されること等によって、今後の昇進等に際して
不利益な取扱をうける可能性があることも否定できないということができるとした。

以上より,原告は症状固定時から22年間にわたり労働能力の10%を喪失したと
認めるのが相当であるとした

(2)本裁判例は、肩甲骨の変形による喪失率及び喪失期間が正面から争われた事案である。

裁判所は,減収がないとしつつも,特別の努力及び将来の昇進等の不利益を考慮し10%,
67歳までの22年で認めた。変形事案であっても,他の後遺障害と同様に,
就労にどのような影響が出るのかを詳細に主張することが重要であることを
示した裁判例である。
 
他にも,労働能力喪失を肯定したものとして,広島地判平成10年10月29日
(左鎖骨変形、左肩甲骨変形、左肩関節機能障害、複視の後遺障害を受け、
併合10級相当の後遺障害を受けた事案で「各後遺障害はそれぞれ労働能力喪失を
惹起するに足りるものというべき」として,併合等級どおりの喪失率を認めた),
大阪地判平成14年1月24日(肩甲骨変形を含む併合事案で,自賠責で
認定されていない障害を加味し,併合等級以上の喪失率を認めた)等が挙げられる。

(イ)労働能力喪失を否定した裁判例

裁判例? 京都地判平成15年1月24日(自保ジャーナル1489号)
年齢 固定時43歳
性別 男性
職業 スーパー店長
原告の主張する傷害の内容 頭部・頸部・胸部打撲、
右上腕骨大結節部骨折、右肩鎖関節脱臼
自賠責等級 肩甲骨変形12級5号
喪失率14%
裁判所認定等級等 12級5号

原告の主張 後遺障害により、労働能力の14%を喪失した。

被告の主張 原告主張の後遺障害は、いわゆる神経症状にすぎない上、
本件事故後の減収が発生していないから、後遺障害逸失利益は生じない。

【本裁判例の分析】
(1)裁判所は,原告に右肩痛の症状も残存していることは優に推察されるが、
証拠によると、原告には、休業損害のほか、特に減収はないことが認められ、加えて、
上記後遺障害による症状、殊に、右肩痛の症状による労働能力の喪失は、将来の馴化により、
比較的短期間に解消されるものと推認されるから、原告が本件事故により
後遺障害逸失利益の損害を被ったものとはにわかに認め難いとして,逸失利益を否定した。

そして,原告が上記後遺障害により就労上一定の支障を被っているとの点は、
後遺障害慰謝料を算定するに当たっての一事情として考慮するにとどめることとするとして,
後遺傷害慰謝料を270万円(原告主張どおり)と認定した。

(2)本裁判例は、肩甲骨変形による労働能力喪失の有無が正面から争われた事案である。
裁判所は,原告に減収がない点を重視し,痛みについても短期間に解消されるとして,
労働能力の喪失を認めなかった。
なお,12級相当の慰謝料基準は290万円とされているため(赤本基準),
後遺傷害慰謝料にどのように反映されたのかは不明である。




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