裁判例

裁判例
(ア)労働能力喪失を肯定した裁判例

①自賠責等級認定どおりの喪失率を認定した裁判例

裁判例? 広島地判平成2年8月31日
(自保ジャーナル・判例レポート第91号-No.17)
年齢 固定時大学1年生
性別 男性
職業 高校生
原告の主張する傷害の内容 頭部外傷、右鎖骨々折、外傷性頸椎症,腰部打撲
自賠責等級 右鎖骨変形12級5号
喪失率14%
裁判所認定等級等 12級5号
喪失率14%、喪失期間10年間

【本裁判例の分析】
(1)裁判所は,原告の症状について,日常生活に支障があるほどのものではないが
肩から首にかけて時々痛むことがあり、また、肘を上に挙げづらい状態であることが
認められるとした上で、その労働能力の14パーセントを喪失したと
認めるのが相当であるとした。

もっとも,喪失期間については,右鎖骨の変形といってもその程度は必ずし
も明らかではなく、これに起因すると考えられる現在の症状とは前述のとおりであり、
かつ、現在の主たる病状は、腰部打撲に起因すると考えられる腰痛が特に冬季にある
というものであって、神経症状が主訴であると認められ、その他原告の年齢等も
考慮すると、労働能力の一部喪失期間は大学を卒業し就職する平成4年から
10年間に限って認めるのが相当であるとした。

(2)本裁判例は、まず喪失率について,具体的に痛みの症状を認定した上で,
喪失率表どおりの喪失率を認めた。しかし,喪失期間については,支障の原因を
詳細に検討した上で痛みという神経症状が主な支障であることを理由に,
10年間に制限しており,鎖骨変形であっても支障が生じていれば喪失率が
認められる一方で,その支障の内容によっては喪失期間が制限されるという考えに
立っているものと思われる。

裁判例? 東京地判平成12年7月28日(交民集33巻4号1270頁)
年齢 固定時50歳
性別 女性
職業 専業主婦
原告の主張する傷害の内容 右鎖骨骨折、左腓骨骨折、頭部打撲、頸椎捻挫等
自賠責等級 右鎖骨変形12級5号
喪失率14%
裁判所認定等級等 12級5号
喪失率14%、喪失期間17年間(67歳まで)

【本裁判例の分析】
(1)裁判所は,後遺障害12級の認定を受けていること、現在もなお右肩の運動障害を
有していることからすると、労働能力喪失率を14%として算定するのが合理的であるとし,
喪失期間を67歳までの17年間で認めた。

(2)本裁判例は、鎖骨変形につき,運動障害が生じており,それが口頭弁論終結時点でも
まだ残存していることを重視して(事故日は平成7年),喪失率表どおりの喪失率を認定した。
前記裁判例?と異なり,支障が痛みではなく運動障害であることから,経年による緩和が
困難であるため別段喪失期間の制限を設けなかったものと思われる。

裁判例? 東京地判平成13年10月26日(交民集34巻5号1424頁)
年齢 固定時57歳
性別 女性
職業 教職員
原告の主張する傷害の内容 左鎖骨骨折、頸椎捻挫
自賠責等級 鎖骨変形12級5号
喪失率14%
裁判所認定等級等 12級5号
喪失率14%,喪失期間12年間(平均余命の2分の1)

被告の主張 原告の後遺障害は左肩鎖骨の変形にすぎず、一般に労働能力喪失を
もたらすものではない。

原告は区立小学校に勤務して給食調理を担当する者であり、本件事故前と同じ給与を
受けている以上、逸失利益は存しない。

【本裁判例の分析】
(1)裁判所は,左鎖骨変形の後遺障害のため、左肩の痛みや動きの制約、
それを補うことによる右腕、右肩の負担、原告の仕事が給食調理作業であり重い物を
持つ等少なからぬ負担を強いられること、を考慮すると、健全な身体状態で稼働する場合に
比べて相当程度稼働を制約する状態を生じさせていることが認められるのであって、
原告はこれを克服し従前通りの仕事をこなしていくために早朝出勤したり、運搬作業の
回数を増やしたりするなどの努力をして職務を遂行していることを考慮すると、
その制約状態を労働能力の喪失状態ととらえるのが相当であり、労働能力喪失率については、
後遺障害が12級相当であることに照らし、14%とするのが相当とした。

(2)本裁判例は,減収がなくとも,制約状態が生じていること自体を労働能力の
喪失状態であるとして,喪失率表どおりの喪失率を認めており,いわゆる労働能力喪失説に
近い考えを採っているものと思われる。

ここで,逸失利益の損害の捉え方には,差額説と労働能力喪失説という2つの考え方が
あるとされている。

まず,差額説とは,後遺障害がなければ得られたはずの収入(将来の収入)から,
後遺障害が残った状態での収入(現実の収入)を差し引いた差額を損害と考える説であり,
本件のように減収がない場合には損害が生じていないという結論に結びつきやすい。

他方,労働能力喪失説とは,文字どおり労働能力の喪失自体を損害と考える説であり,
減収が生じていなくとも,本裁判例が指摘したように労働に制約状態が生じていること
自体が損害であるという結論に結びつきやすい。

この点,判例は差額説の立場に立っていると言われている(最判昭和42年11月10日は,
「損害賠償制度は、被害者に生じた現実の損害を填補することを目的とするものであるから、
労働能力の喪失・減退にもかかわらず損害が発生しなかつた場合には、それを理由とする
賠償請求ができないことはいうまでもない。原判決の確定した事実によれば、
Aは本件交通事故により左太腿複雑骨折の傷害をうけたが、その後従来どおり会社に勤務し、
従来の作業に従事し、本件事故による労働能力の減少によつて格別の収入減を
生じていないというのであるから、労働能力減少による損害賠償を認めなかつた
原判決の判断は正当」と述べているため)。

しかし,実際の裁判実務においては,本裁判例をはじめ厳密な差額説を採用しているとは
思われないものも多く(減収が生じていなくとも損害を認めている裁判例は多数存在する。
前掲裁判例●),判例の理解としても,現実に生じた具体的な収入額の差異を離れて
ある程度抽象的に逸失利益の発生を捉えることを認め,後遺障害による労働能力の
喪失による損害を,被害者の後遺障害の部位,程度,被害者の年齢,性別,
現に従事している職種等との関連で,差額説的な考慮をしながら評価していると
理解することが可能であるとされている(佐久間邦夫ほか編『交通損害関係訴訟』151頁)。
したがって,減収が生じていなくとも,上記事情を考慮して喪失率の主張立証を行うことが
重要であるといえる。

なお,喪失期間については,本件では痛みのみならず動きの制約も生じていることから,
特に制限を設けなかったものと思われる。

裁判例? 大阪地判平成20年11月25日(自保ジャーナル1796号)
年齢 事故時59歳
性別 女性
職業 生保外交員
原告の主張する傷害の内容 左鎖骨骨折、腰部打撲、恥骨骨折等
自賠責等級 左鎖骨変形12級5号
喪失率14%
裁判所認定等級等 12級5号
喪失率14%、喪失期間7年間(67歳まで)

原告の主張 原告は、本件事故によって、65歳から11年間
(平均余命の2分の1の期間)にわたって、その労働能力を14%喪失した

被告の主張 原告の左鎖骨はほとんど変形しておらず、自賠責保険の
後遺障害等級認定は誤りというほかない上、肩の屈曲・外転とも、日常生活に影響を
及ぼすほどの制限もない

【本裁判例の分析】
(1)裁判所は,原告には、左鎖骨に変形癒合がみられ、かつ、これに由来すると
考えられる左鎖骨部痛及び左上肢を使用した際の左肩部痛等が残存し、自賠責保険で
12級5号と認定された。この点について、被告は、左鎖骨の変形癒合は、労働能力に
影響を及ぼさない旨主張するが、原告に残存した左鎖骨部痛等の症状は、左鎖骨の
変形癒合によって生じた他覚的所見を伴う神経症状であるということができるので、
上記症状は、原告の労働能力に影響を与えるものであるとみるのが相当である。

そして、本件事故前の原告の稼働状況及び稼働実績等に照らせば、原告は、
本件事故に遭わなければ、症状固定後から就労可能な67歳に至るまでの間は、
稼働を継続する蓋然性が高かったということができるので、原告は、本件事故による
後遺障害によって、その労働能力を、7年間にわたって14%喪失したものとみるのが
相当であるとした。

(2)本裁判例は,痛みを理由に喪失率を14%認めているものの
(可動域制限も生じているが),その喪失期間を平均余命年数の2分の1より
制限していることから,痛みが軽減されることを前提に判断しているものと思われる。

以上の他にも,自賠責認定どおりの喪失率を認めた裁判例としては,
大阪地判平成9年7月29日,旭川地判平成11年11月18日,
大阪地判平成18年12月6日(骨盤骨変形の裁判例●を参照),
名古屋地判平成21年11月25日(鎖骨変形は、鎖骨骨折によるものであり、
更衣時あるいは寒冷時に鎖骨に疼痛が残り、家事労働への影響を
否定することはできない)等がある。

②自賠責等級認定よりも高い喪失率を認定した裁判例

裁判例? 大阪地判平成10年3月27日(交民集31巻2号520頁)
年齢 固定時52歳
性別 女性
職業 看護師
原告の主張する傷害の内容 左肩鎖関節脱臼、左胸鎖骨関節脱臼、
左第2、3、4、10肋骨骨折、左第4、5中足骨骨折
自賠責等級 神経症状14級10号
喪失率5%
裁判所認定等級等 鎖骨変形12級5号
喪失率14%,喪失期間15年(67歳まで)

被告の主張 肩関節の屈曲障害は鎖骨の脱臼によって生じるものではなく
原告のリハビリの不足によるものであるからその逸失利益は限られたものとなる

【本裁判例の分析】
(1)裁判所は,まず,原告の後遺障害について,12級5号「鎖骨の著しい変形」
の後遺障害に該当するためには、鎖骨の変形が外部から想見できる程度であることが
必要であると解されるところ、原告の鎖骨の変形は外観から素人目にも視認可能であって、
その障害は14級にとどまらず12級5号に該当するものと認められるとし,
自賠責の判断よりも高い等級を認定した。

そして,原告の鎖骨の障害は、単なる奇形にとどまらず、肩関節の屈曲障害、
神経症状を伴っていること、原告の職業、性別、年齢等を総合し、自賠及び
労災実務上等級表12級の労働能力喪失率が14%と取り扱われていることは
当裁判所に顕著であることからみて、原告は本件事故による後遺障害によって
その労働能力の14%を喪失し、障害の性質から見て、これは生涯継続する
ものと認められるとした。

また,被告の上記主張に対しては,リハビリの不足からくる廃用性による障害を
等級表上の独立した後遺障害となしうるかについては異論があろうが、
今ここで問題となるのは等級表12級5号にあたる鎖骨の変型障害のもたらす
労働能力喪失割合を考慮するに当たって、左肩の屈曲制限を考慮の他におくべきか
という点である。原告の左肩の屈曲障害は、リハビリの不足という要因があった
としても鎖骨の障害に伴って生じたものであることは疑いを入れる余地がなく、
当然、喪失率を判断するに当たって考慮されなければならない要素であるとして排斥した。

(2)本裁判例は,自賠責では否定された著しい変形を認定するとともに,
その喪失率の判断において,変形だけではなく,神経症状が生じていることや
職業等具体的な支障に照らして喪失率を認定しており,特に屈曲制限については,
当然喪失率を考慮するに当たって考慮されなければならない要素としており,
参考になろう。

③自賠責等級認定よりも低い喪失率を認定した裁判例

裁判例? 神戸地判平成6年8月26日(交民集27巻4号1118頁)
年齢 固定時23歳
性別 女性
職業 キーボードオペレーター
原告の主張する傷害の内容 左鎖骨骨折、左上腕骨骨折、左橈骨神経麻痺、顔面挫創等
自賠責等級 左鎖骨変形12級5号
喪失率14%
裁判所認定等級等 12級5号
喪失率10%、喪失期間12年間

【本裁判例の分析】
(1)裁判所は,以下のように,鎖骨変形が就労に及ぼす影響等を詳細に認定した。
まず,原告は、事故後復職したが、左上肢と鎖骨、頚部付近に関する痛み等の症状は
いずれも改善されないため、長時間キーボードを打つことができず、また、
疲れ易いことから、仕事の能率が悪くなっていること、原告は、会社の指示により、
復職当初は従前のワープロ等のキーボードを打つ仕事をせず、
簡単な事務仕事だけに従事し、その後、徐々にキーボードを打つ仕事を増やし、
現在では、事務仕事とキーボードを打つ仕事が半分ずつの割合になっていること、
そして、原告自身、右のように仕事の能率が悪いときは、夜間残業をしてこれを補う
努力をしていることが認められるとし,後遺障害によってキーボードを打つ仕事の
遂行上具体的な支障が生じていることが認められ、労働能力の低下を来して
いることは否定できない。

一方、原告は、復職した後、平成4年及び平成5年には昇給しており、
年収も増加しているのであるから、少なくとも2年間の範囲では、後遺障害による
労働能力低下に伴う現実的な収入の減少は未だ表れていないといわざるを得ない。

もっとも、原告の復職後の努力や会社が原告に対し復職後の仕事内容について原告の
症状に合わせながら仕事を割り当てていること、また、原告は、休職期間のうち本件事故
(事故日は平成2年11月22日)から平成3年1月までの期間については、
不就労にもかかわらず、同社から基本給の支給を受け続けていたこと、同社は、
本件事故が原告の通勤途中の事故であったことを配慮し、原告に対し仕事上色々な
便宜を図っていることが認められ、右事実に基づいて考えると、原告に収入減少が
みられないことについては、原告自身の努力のほか、勤務先の格別の厚意が
1つの要因になっていると考え得ないではない。

また、原告の年齢や職種内容等を考え併せると、前記後遺障害の存在が原告の将来の
転職等の職業選択に関して影響を及ぼす可能性があるというべきである。

そこで、以上にみたような原告の後遺障害の部位と内容、程度(特に自賠責保険に
おいて事前認定を受けた後遺障害が左鎖骨変形の点にとどまること)、
原告の職種及び就労状況、現実の収入の変遷、原告と勤務先の関係、原告の年齢、
今後の職業選択の際の不利益性等の諸事情に加え、いわゆる労働能力喪失率表において
後遺障害等級12級の同喪失割合が14%とされていること等をも総合して考えると、
原告は、右後遺障害によって、前記症状固定時の満23歳から満35歳までの間の
12年間にわたってその労働能力喪失を1割喪失したものと認めるのが相当とした。

(2)本裁判例は、後遺障害が就労に及ぼす影響や,減収の有無,会社の配慮,
本人の特段の努力の内容等を詳細に認定し,喪失率及び喪失期間を判断した。

本裁判例で挙げられた「後遺障害の部位と内容、程度、原告の職種及び就労状況、
現実の収入の変遷、原告と勤務先の関係、原告の年齢、今後の職業選択の際の不利益性等」
という判断基準は,鎖骨変形のみならず後遺障害一般の逸失利益の判断においても
大変参考になるものと思われる。

裁判例? 大阪地判平成15年7月16日(交民集36巻4号930頁)
年齢 固定時47歳
性別 男性
職業 会社員
原告の主張する傷害の内容 右鎖骨骨折,右膝挫傷,頭部外傷
自賠責等級 なし(時効により等級認定を受けられなかった)
裁判所認定等級等 鎖骨変形12級5号
喪失率3%,喪失期間10年間

被告の主張 仮に原告の「鎖骨変形」が後遺障害と認められるものであっても、
その部位、程度、本件事故前後の就労及び収入の状況等を総合勘案すれば、
その労働能力喪失の程度は3%程度で、喪失期間としては5年程度と認められるべき

【本裁判例の分析】
(1)裁判所は,原告の後遺障害の内容・程度によれば、労働能力喪失率は14%程度と
認められるものの、原告の降格は、その後遺障害によるものか否かは明らかではないから、
手当の減少は、本件事故によるものと即断できず、その他の給与面での不利益な取扱いは
受けていないことから、原告は、現状においては、後遺障害による財産上の不利益を
被っているものとは認められない。しかしながら、明らかな減収がないことは、
原告自身の特段の努力によるものであり、かつ、将来の昇任等に際して不利益な扱いを
受ける恐れは否定しきれないと認められ、これは後遺障害がもたらす経済的不利益を
是認するに足りる特段の事情(最高裁昭和56年12月22日第3小法廷判決・
民集35巻9号1350頁)に該当すると言うべきであって、不利益の可能性の程度、
原告の収入額、症状固定時の年齢等に照らし、その不利益を金銭評価すると、
10年間にわたって3%の労働能力を喪失したものと同程度と評価するのが
相当であるとした。

(2)本裁判例は,鎖骨変形障害の喪失率を14%としながらも,
現実に減収等後遺障害による不利益が生じていないことを理由として,喪失率を
大幅に下げており,前述の差額説を重視した考えを採用したものと思われる。

なお,自賠責の等級認定自体は受けていないが,12級相当の喪失率よりも低く
認定したことから,ここで取り上げている。

上記裁判例以外にも,減収が生じていないことを主な理由として喪失率を下げた
裁判例には,大阪地判平成10年3月26日,横浜地判平成13年4月13日等がある。

裁判例? 京都地判平成15年10月28日(自保ジャーナル1534号)
年齢 固定時32歳
性別 男性
職業 大学生
原告の主張する傷害の内容 右肩鎖関節脱臼、頚椎捻挫、右腋窩神経損傷等
自賠責等級 鎖骨変形12級5号
喪失率14%
裁判所認定等級等 同上
喪失率10%,喪失期間35年間(67歳まで)

被告の主張 原告は大学卒業後知的労働に従事することが予測されるから、
変形障害が原告の労働能力に及ぼす影響は極めて軽微であり、労働能力の低下程度
及び喪失期間は限定される

【本裁判例の分析】
裁判所は,原告の後遺障害は右肩鎖関節脱臼による右鎖骨遠位部端の上方への転位
(突出)による変形、右上肢筋などの筋萎縮、右腋窩神経損傷に起因する筋力減弱
(3ないし3.5該当)で、これに伴う疼痛はあるが機能障害は特にみられないことに
照らせば、原告は、前記後遺障害により症状固定時以後稼働可能期間中10%の割合で
労働能力を喪失したと認めるのが相当であるとした。

(2)本裁判例は,変形障害に伴い痛みが生じているものの機能障害は生じて
いないとして,10%の限度で喪失率を認めており,変形障害において運動制限が
生じているかどうかを重視しているといえる。

また,期間については,痛みと認定しつつ特に制限は設けていないものの,
痛みの原因が変形という器質的なものであることから,痛みが継続するものとして
制限しなかったものと思われる(後掲裁判例?)。

裁判例? 静岡地判平成18年1月18日(自保ジャーナル1632号)
年齢 固定時63歳
性別 女性
職業 無職(就職活動中)
原告の主張する傷害の内容 左鎖骨骨折、頸椎捻挫、左大腿打撲、胸部打撲、
左慢性硬膜下血腫等
自賠責等級 併合12級(①鎖骨変形12級5号,②神経症状14級10号)
喪失率14%
裁判所認定等級等 併合12級
喪失率9%,喪失期間12年間(平均余命の2分の1)

被告の主張 左鎖骨骨折に伴う変形は、他覚症状として左鎖骨の圧痛も左肩関節の
可動域制限も伴わないものであり、労働能力に影響を及ぼさない。したがって、
原告の労働能力に影響があるのは神経症状の残存を理由とするものであり、
労働能力喪失率は5%、労働能力喪失期間は3年程度が相当

【本裁判例の分析】
(1)裁判所は,労働能力の喪失率は、後遺症の部位、内容、被害者の年齢、
職業等の個別の事情によって異なるものというべきところ、原告の後遺障害である
左鎖骨の変形は、他覚症状として左鎖骨の圧痛も左肩関節の可動域制限も
伴わないものであること、症状固定時63才という原告の年齢とこれまでの職歴に鑑みて、
今後の就職先についても、肉体的に負担の重い重労働を伴う職種への就職は
考えにくいことを総合考慮すると、原告の労働能力喪失率は、14%から5%を
差し引いた9%と認めるのが相当であるとした。

また、労働能力喪失の期間を2年又は3年程度に限定すべき旨の被告の主張に対しては、
原告の後遺障害は左鎖骨の変形という将来的な改善が見込めないものであるから、
後遺障害の存続期間を限定する理由はなく、被告らのこの点に関する主張は
採用できないとした。

(2)本裁判例は,喪失率の判断に対する基準を挙げた上で,変形障害の支障として,
自覚症状の痛みしかないことや高齢であること,重労働を伴う職種への就職可能性が
少ないといった具体的な事情を考慮し,喪失率を下げて判断している。

なお,基礎収入は,賃金センサスによって判断されている。
  
(イ)労働能力喪失を否定した裁判例
裁判例? 大阪地判平成11年12月21日(自保ジャーナル1353号)
年齢 事故時55歳
性別 男性
職業 麻雀店経営
原告の主張する傷害の内容 右鎖骨骨折、右第5、第6肋骨骨折、
頭部外傷Ⅱ型、続発性肩関節拘縮等
自賠責等級 併合11級(①右鎖骨変形12級5号,②右肩関節機能障害12級6号)
喪失率20%
裁判所認定等級等 併合11級
喪失率14%、喪失期間12年間(67歳まで)

被告の主張 右鎖骨中央部の突出は、労働能力の喪失に関係しないので、
裁判所が仮に同様の後遺障害を認定するとしても、原告の後遺障害による逸失利益は、
12級を前提として算出すべき

【本裁判例の分析】
(1)裁判所は,右鎖骨中央部の突出は、労働能力の喪失に関係しないので、
原告の後遺障害による逸失利益は、関節機能障害の12級(労働能力喪失率14%)
のみを前提として算出するのが相当であるとした。

(2)本裁判例は、鎖骨変形につき特に理由を述べることなく労働能力に
影響しないとして,鎖骨変形の労働能力喪失を認めなかったが,疼痛等の症状の
有無は不明であるため,影響がないと判断した理由は不明である。

裁判例? 大阪地判平成17年12月9日(自保ジャーナル1631号)
年齢 固定時21歳
性別 男性
職業 大学生
原告の主張する傷害の内容 右肩鎖関節脱臼、腕神経叢麻痺
(全型引き抜き損傷)等
自賠責等級 併合4級(①鎖骨変形12級5号,②右上肢機能障害5級6号)
喪失率92%
裁判所認定等級等 同上
喪失率79%(5級相当),喪失期間45年間(大学卒業後67歳まで)

【本裁判例の分析】
(1)裁判所は,原告の右鎖骨について、鎖骨の変形治癒自体は直ちに機能障害に
結びつくものではないとされており、鎖骨変形の後遺障害を負ったことで一般的な
右上肢用廃の場合と比べて労働能力がより大きく減少していると認めるに
足りる証拠はなく、労働能力喪失率には影響しないものと認めるのが相当とし,
喪失率を79%(併合4級ならば92%)と判断した。

(2)本裁判例は,鎖骨変形の労働能力喪失を否定しているものの,上肢用廃を
認定していることとの均衡や,「鎖骨の変形治癒自体は直ちに」という表現を
用いていることから,鎖骨変形によって具体的な支障が生じている場合には
労働能力喪失を認める趣旨であるといえる。

以上の他にも,労働能力の喪失を否定した裁判例は存在するが,その中でも
大阪地判平成9年8月29日(「本件事故により原告に生じたと解される後遺障害のうち、
鎖骨変形障害は、それ自体で原告の労働能力に影響を与えるものとは解することができず」),
東京地判平成9年12月24日(「右鎖骨の著しい変形が存在すること
のみによっては労働能力の喪失が生じるとはいえない」),岡山地判平成10年3月19日
(「原告の後遺障害のうち、労働能力に直接影響があるのは右手5指用廃であって、
その他の後遺障害については原告の労働能力を左右することを認めるに足りる証拠はない」)
というように,無条件で否定したわけではない裁判例が多い。




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