逸失利益

(ア)労働能力の喪失を肯定した裁判例

①喪失率表どおりの喪失率を認定した裁判例
裁判例⑭ 大阪地判平成6年5月27日(交民集27巻3号712頁)
年齢 事故時18歳
性別 男性
職業 学生
原告の主張する傷害の内容 第1腰椎骨折
自賠責等級 併合10級(①脊柱変形11級7号,②骨盤骨変形12級5号)
喪失率27%
裁判所認定等級等 併合10級
喪失率27%,喪失期間48年間(67歳まで)

【本裁判例の分析】
(1)裁判所は,自賠責で等級認定されている障害は脊柱変形障害及び
骨盤骨変形障害であり,その等級は併合10級であること,他に,現実に原告の
稼働能力ひいては就労を制限しているものとして,胸腰椎部の可動域制限
(通常のほぼ2分の1までの制限にはいたらないものの,本件事故と因果関係が
あると推定される部分のみでも,相当程度の制限はあると認められる。)
及び相当程度の腰痛の神経症状があり,それらによって,原告は,本件事故当時
目指していて,そのための専門学校への入学も決まっていた自動車整備工を
断念せざるをえなかったこと,デスクワークも腰痛のためある程度制限されざるを
えないこと,肉体労働についても己から制限があると思慮されることからすると,
症状固定時である19歳から稼働可能年齢である67歳まで平均して27%の就労の
制限があると解するのが相当と判断した。

(2)本裁判例は,痛みが生じていることに加え,可動域制限も生じていること,
現実に生じている支障を具体的に検討し,喪失率表どおりの喪失率を認定している。

なお,本裁判例では,骨折部位の判断において,一般的に胸腰椎の運動に関してより
強く影響するのはより下部の第3、第4、第5腰椎である旨述べているものの、
第1腰椎の骨折であっても相当程度の可動域制限が生じると判断している点が参考になろう。

裁判例⑮ 大阪高判平成12年10月24日(自保ジャーナル1411号)
年齢 固定時40歳
性別 女性
職業 会社員
原告の主張する傷害の内容 頭部外傷I型、顔面挫創、中心性脊髄損傷、
外傷性脊髄空洞症、背部・腰部打撲、外傷性頸部症候群、ストレス性潰瘍、薬剤性肝障害
自賠責等級 併合6級(①脊柱変形11級7号,②外貌醜状7級12号,
③外貌醜状12級14号)
喪失率67%
裁判所認定等級等 併合6級
喪失期間を67歳までの27年間としたうえで,当初10年間は喪失率40%,
その後17年間は喪失率20%

原告の主張 喪失率67%,喪失期間27年間(67歳まで)

被告の主張 脊柱に変形を残すため、逸失利益を生じることは考えられるが、
その程度から、労働能力喪失期間は10年程度と見るべきである。

【本裁判例の分析】
(1)裁判所は,まず,醜状障害について,症状固定時から10年間の限度で、
労働能力を一部喪失したものと認めるのが相当であるとした。

次に,脊柱変形については,下肢のしびれ感・知覚鈍麻や、両上肢の温痛覚低下、
頭痛、頸部痛は、中心性脊髄損傷及び外傷性脊髄空洞症に起因するものと推認され、
これらの外傷に関連した後遺障害である脊柱の変形に含めて考慮するのが相当であるところ、
脊柱の変形という器質的異常による労働能力喪失期間を10年間に限定すべき理由はないとした。

そして,後遺障害による逸失利益については、原告の労働能力喪失率を、
就労可能な27年のうち、当初の10年間については40%と認め、その後の17年間
については20%と認めて算出するのが相当であるとし,喪失率を逓減的に認定した。

(2)本裁判例は,結論として喪失率を逓減的に判断しているものの,外貌醜状の喪失期間を
10年と制限した上で,それ以降の喪失率を脊柱変形11級相当の喪失率の20%で
判断しているため,10年目以降の喪失率が逓減したのは外貌醜状分の喪失率が
考慮されなくなったからであると考えられ,脊柱変形自体の喪失率は逓減させずに,
喪失率表どおりの喪失率を認めたものといえる。

なお,脊柱の変形が器質的異常によるものであり,労働能力喪失期間を10年間に
限定すべき理由はないと判断している点が喪失期間の判断において参考になろう。
もっとも,変形による痛みのみならず,脊髄損傷によるであろう障害も脊柱変形に
含めて判断している点は注意が必要であると思われる。

裁判例⑯ 東京高判平成14年12月25日(自保ジャーナル1498号)
年齢 44歳
性別 女性
職業 会社員
原告の主張する傷害の内容 第12胸椎圧迫骨折、腰臀部打撲、両膝打撲
自賠責等級 併合10級(①脊柱変形11級7号,②胸椎圧迫骨折に伴う神経症状12級12号)
喪失率27%
裁判所認定等級等 併合10級
喪失率27%,喪失期間21年間(67歳まで)

原告の主張 喪失率は50%を下回らない

被告の主張 原告には、脊柱の変形障害以外に、他覚的所見によって証明される
神経症状は存在しない。上記①の変形障害については、画像上脊椎圧迫骨折が
明らかであるというのみであり、骨癒合さえ完成すれば、就労に対する実質的な影響はない。

確かに、第12胸椎圧迫骨折に伴って神経症状が現れることも十分に予想されるが、
これについては、上記②の後遺障害において評価され尽くしている。
原告の後遺障害の中で就労に対して実質的な影響を与えるのは、②のみであり、
その喪失率は14%とみるべきであり、最大でも20%どまりである。そして、
他覚的に証明できない症状である以上、いずれは回復するものであり、
喪失期間はせいぜい5年程度である。

【本裁判例の分析】
(1)裁判所は,まず,脊椎圧迫後の変形では労働能力の実質的喪失はほとんどないに
等しいとの見解もあるが、腰椎後弯による慢性腰痛では、思いのほか日常生活が
不自由となり、とくに就労に関しては長時間の立位や歩行が困難となるので実際上は
かなり影響があることが知られているとの見解もあるとして,脊柱変形に関して一般的に
見解が分かれていることを述べた。

その上で,原告が多彩な症状に悩まされていること、正常可動範囲の2分の1程度では
ないものの胸腰椎の運動障害の存在がうかがわれることを考慮し、症状固定時46歳から
就労可能な67歳までの21年間、労働能力の27%を喪失したものと判断した。

(2)本裁判例は,脊柱変形による労働能力喪失率について見解が分かれていることを
踏まえた上で,実際に脊柱変形により原告に具体的な支障が生じているとして,
喪失率表どおりの喪失率を認定している。

脊柱変形だから労働能力は喪失する,しないという抽象論ではなく,実態に即して
判断していこうとするもので参考になろう。

裁判例⑰(前掲裁判例⑫)
大阪地判平成19年2月21日(自保ジャーナル1697号)
年齢 固定時36歳
性別 男性
職業 会社員
原告の主張する傷害の内容 左下腿開放骨折、左多発肋骨骨折、左鎖骨骨折、
左血気胸,第3・第5胸椎圧迫骨折(事故から3ヶ月後に判明)
自賠責等級 併合5級(①脊柱変形6級5号、②腸骨採取による骨盤骨の変形と
左鎖骨の変形及び肋骨の変形について併合11級、③長管骨変形12級8号、
④左足関節機能障害10級11号)
喪失率79%
裁判所認定等級等 併合5級
喪失率79%,喪失期間31年間(67歳まで)

被告の主張 脊柱の変形は労働能力喪失率に影響しない。

【本裁判例の分析】
(1)裁判所は,第3、第5胸椎圧迫骨折によって後弯変形が生じていること、
神経症状は生じていないものの、変形の程度は著しく、荷重機能障害が生じており、
常時コルセットが必要な状態であることから、第3、第5胸椎の変形によって、
6級に相当する労働能力の喪失があると認めるとし,自賠責の後遺障害等級認定で
認定された後遺障害の程度をふまえれば、原告の後遺障害の程度は併合5級に
該当するから、79%の労働能力を喪失したと認められると判断した。

(2)本裁判例は,変形の程度や被害者の状態を検討し,喪失率表どおりの
喪失率を認めている。

裁判例⑱ 名古屋地判平成19年6月22日(交民40巻3号782頁)
年齢 固定時32歳
性別 男性
職業 消防員(救急救命士の資格有り)
原告の主張する傷害の内容 第1腰椎圧迫骨折,尾骨骨折
自賠責等級 脊柱変形11級7号
喪失率20%
裁判所認定等級等 11級7号
喪失率20%,喪失期間35年間(67歳まで)

被告の主張 平成17年7月以降、原告においては消防士としての就労制限は
なくなっている。原告の脊柱変形は軽微なものであり、これによる労働能力の制約はない。

【本裁判例の分析】
(1)裁判所は,上記被告の主張に対し,救急救命士が救急出動をして救助活動を
する際には腰背部への相当の負担が生じること、原告においては、上記疼痛及び
運動時痛のために、救急出動の際に救急救命士として救助活動をすることが困難に
なっていること、そのため、本件事故後の復職後、原告自身は救急救命士として
救助活動を行う仕事に就くことを希望しているものの、原告の上司の判断により、
原告は、救急出動の係から他の係に配置換えをされており、消防車を運転しての
出動等はあるものの、救急救命士としての救助活動は行わない状況となっていることが
認められるのであって、原告においては、上記後遺障害によって、実際に就労が
制限されている状況にあるものというべきとした。そして、医師の7月より勤務可能との
意見書や出勤させてよいとする原告の勤務先における判断も、原告が実際に救急救命士としての
救助活動をすることが可能であると認定すべき根拠となるものとまでは解されないとした。

その上で、原告には、上記のとおり、脊柱変形による疼痛及び運動時痛が生じているのであるから、
これによる労働能力の制約が生じているものというべきであるとした。

そして,その逸失利益の算定にあたっては、上記後遺障害の内容、程度に加え、
症状固定時に未だ32歳である原告においては、上記後遺障害の影響によって、
将来の配置換えの際あるいは転職の際における種々の不利益が生じることも予想され、
また、原告が上記後遺障害を持ちつつ就労する上では今後とも相当の努力や忍耐を
要するものと解されることを総合考慮すると、20%の割合で労働能力を喪失したものとして、
逸失利益を算定するのが相当であると判断した。また,上記後遺障害による疼痛は
馴化などによって今後改善することも期待できるので喪失期間は限定すべきとの
主張に対しても,原告の上記疼痛等が今後改善すると認めるに足りる証拠は
ないとして,67歳までの喪失を認めた。

(2)本裁判例は,仕事の内容及び後遺障害が職務に与える影響を具体的に
認定するとともに,さらに現実に生じている支障のみならず,将来予想される不利益をも
考慮した上で,喪失率を判断しており,喪失率の主張立証の参考になろう。

他にも,岡山地判平成6年11月21日判決,大津地判平成4年9月2日判決,
名古屋地判平成19年10月26日,さいたま地判平成21年6月24日,
名古屋地判平成22年7月30日等が喪失率表どおりの喪失率を認定している。

また,東京高判平成19年12月12日においては,後遺障害による労働能力喪失を
原因とした逸失利益が生じていることは否定できず、かつ、第12胸椎の骨折による
変形は将来もとに戻ることはないとしても、逸失利益の程度を明らかにするのは困難な
事情があるとして,248条に基づき標準的算定の額を逸失利益と考えるとして,
喪失率表どおりの喪失率(11級20%)を認定している。
  
②喪失率表よりも高い喪失率を認定した裁判例

裁判例⑲ 東京地判平成21年5月26日(自保ジャーナル1796号)
年齢 固定時32歳
性別 男性
職業 会社員兼二輪車プロレーサー
原告の主張する傷害の内容 第11胸椎圧迫骨折、背部痛、頸椎捻挫、
胸椎捻挫、腰椎捻挫、右下肢打撲等
自賠責等級 併合11級(①脊椎変形11級7号,②神経症状14級9号)
喪失率20%
裁判所認定等級等 併合11級

①会社員としての基礎年収を基準として,
喪失率10%,喪失期間35年間(67歳まで)

②レーサーとしての基礎年収を基準として,
喪失率100%,喪失期間8年間(40歳まで)

原告の主張 会社員としての逸失利益は,喪失率20%で35年間,
レーサーとしての逸失利益は,喪失率100%で33年間(65歳まで)であり,
両者が合算されるべき。

被告の主張 当初の後遺障害等級認定で非該当であったことや、症状固定後も原告が
二輪車のレーサーとしての仕事もしていること、コピー機の出張修理を主な業務とする
会社員としての仕事に支障が生じ、減収が生じているとは考えられない。
二輪車のレーサー分も同様に争う。

【本裁判例の分析】
(1)裁判所は,まず会社員分の逸失利益について,現時点において、原告にはそれほどの
減収は見られないが,これは、会社の配慮や本人の努力もあると考えられる一方で、
原告は、事故後しばらくは、本調子ではないとはいえ、時速200㌔㍍以上で走行する
可能性のあるドラッグレースに出場していたことを考えると、身体的影響がそれほど
大きなものであったとは考え難いから、その労働能力喪失率は10%と考えるのが
相当であるとした。

なお、原告は、会社員としては、通常の勤務を続けられる蓋然性は極めて高いから、
症状固定(32歳)後、労働可能年齢である67歳までの35年間(中間利息控除を
したライプニッツ係数16.3742)につき、これを認めるのが相当とした。

次に,レーサー分として,原告の症状や、事故後の身体状況、レース内容等を考えると、
原告が、事故前と同様のパフォーマンスを示すことができず、一つ間違えば命にも
関わりかねないレース態様を考えると、本件事故により、原告はドラッグレースを行う
プロのレーサーとして活動することはできなくなったというべきであるから、
その労働能力喪失は100%である。

また、労働可能年数について、原告は、65歳まで可能であると主張し、証拠(略)によれば、
現実に、日本においても40歳を超えたレーサー(最年長で46歳)や、アメリカにおいては、
40歳はおろか60歳を超えても現役のレーサーとして活動している者がいることが認められる。
しかしながら、上記証拠上も60歳以上の者ばかりが出場しているわけではなく、
誰でもが60歳以上になってもプロレーサーとして活躍できるとはいえず、
原告が高齢になってもレースに出場できる特別のレーサーであると認めるに足りる証拠はなく、
その蓋然性があるとはいい難いから、原告の主張する年齢まで稼働できると
認めることはできない。ただし、ドラッグレース自体はある程度の年齢まで
できることは認められるから、上記証拠などを参考に少なくとも40歳までの
活動が可能であったものと認めるとした。

そして,両者を合算し,逸失利益とした。

(2)本裁判例は,脊柱変形が具体的な職務に及ぼす影響という観点から,
喪失率及び喪失期間を分けて判断しており,特殊な事案ではあるものの,
全く仕事ができなくなった場合には喪失率100%が認められる可能性もあるという点で,
喪失率等の主張・立証について参考になると思われる。

他に喪失率表よりも高い喪失率を認定した裁判例としては,神戸地判平成8年1月18日が
挙げられる。内容としては,麻雀店を経営する73歳男性が第9胸椎圧迫骨折の傷害で
11級7号に認定された事案で,喪失期間は4年であるものの,喪失率は35%と
判断している。しかし,その理由については触れられておらず,なぜ喪失率表よりも
高い喪失率を認定したのかは不明である。

③喪失率表よりも低い喪失率を認定した裁判例

裁判例⑳(前掲裁判例⑨)
大阪地判平成11年4月20日(交民32巻2号643頁)
年齢 事故時51歳
性別 男性
職業 タクシー運転手
原告の主張する傷害の内容 第1腰椎椎体圧迫骨折等
自賠責等級 脊柱変形11級7号
喪失率20%
裁判所認定等級等 11級7号
喪失率14%,喪失期間5年間

被告の主張 原告に第1腰椎椎体圧迫骨折は存しない

【本裁判例の分析】
裁判所は,第1腰椎椎体骨折が画像上必ずしも明瞭な程度のものではないことを考慮し、
喪失率を14%と低く認定し,喪失期間も5年間と制限した。
圧迫骨折の存在について医師の見解が分かれるほど軽微な骨折であるとして,変形の程度も
少ないと考え現実に生じる支障も少ないと判断したものと思われる。

裁判例? 
東京地八王子支判平成13年9月27日(自保ジャーナル号1432)
年齢 事故時28歳
性別 男性
職業 美大卒業後,美術予備校の油絵科の講師
原告の主張する傷害の内容 腰椎脱臼骨折、腰椎横突起骨折、脊髄(馬尾)損傷、
右肋骨骨折、腹腔内出血、腎損傷、肺挫傷、頸部裂創
自賠責等級 併合6級(①脊椎固定術(第2、第3腰椎)後の脊柱の
変形障害11級7号)、②腰部以下の知覚障害及び両足部以下の筋力低下による
運動障害9級10号、③左腎萎縮、逆行性射精及び勃起力の低下7級5号、
④脊椎固定術に伴う移植骨採骨によって生じた骨盤骨変形障害12級5号)
裁判所認定等級等 併合8級
喪失率45%,喪失期間36年間(67歳まで)

原告の主張 併合6級,喪失率67%

被告の主張 脊柱変形は腰椎固定術に伴う後遺障害であるにすぎず、
原告の職業が美術講師であり、肉体労働ではなく事務的な仕事内容であることからすれば、
この後遺障害が原告の就労に具体的な影響を及ぼすとは考えられない。ただ、
脊柱の変形に伴う腰背部痛や易疲労性を考慮すれば、多少の労働能力の低下を
評価するべきであろう。その程度は、局所の神経障害として第12級12号とみるべきである。

【本裁判例の分析】
(1)裁判所は,まず上記後遺障害のうち,③左腎萎縮、逆行性射精及び
勃起力の低下7級5号及び④骨盤骨変形12級5号については労働能力喪失を否定した。

次に,①脊柱変形については,脊椎固定術(第2,第3腰椎)後の脊柱の変形のみでは,
脊椎の運動制限が生じるわけではないので,労働能力の実質的喪失はほとんどないに
等しいこと,ただし,脊柱の変形に伴って残存する腰背部痛や易疲労性(疲れ安さ)
等を考慮すれば,多少の労働能力の低下を評価するべきであり,その程度は,
局所の神経障害として第12級12号を準用することができることが認められると判断した。

そして,②腰部以下の知覚障害及び両足部以下の筋力低下による運動障害9級10号との
併合により,併合8級と認定した上で,喪失率を併合8級相当の45%,喪失期間を
67歳まで36年間とした。

(2)本裁判例は,脊柱変形自体では運動制限も生じず労働能力の喪失はほとんど
ないとしながらも,変形に伴い痛みが生じた場合には,神経障害として
12級12号(現在は12級13号)を準用するとしている点が参考になろう。

なお,12級12号を準用するとしているものの,喪失期間を10年に
制限していないことから,変形が器質的障害であることを考慮している
ものと思われる(後述の裁判例● 大阪高判平成12年10月24日を参照)。

裁判例? 東京地判平成16年8月25日(自保ジャーナル1603号)
年齢 事故時44歳
性別 男性
職業 会社員
原告の主張する傷害の内容 全身打撲、左上腕骨顆上骨折、第5腰椎圧迫骨折、
右第5肋骨骨折、顔面挫創,眼窩骨折
自賠責等級 併合10級(①脊柱変形11級7号,②神経症状14級10号,
③神経症状14級10号,④歯牙障害11級4号)
喪失率27%
裁判所認定等級等 不明
喪失率5%,喪失期間5年間

被告の主張 原告は技術者として設計業務に従事していたものであり、今後も同業務に
従事していくものと考えられ、肉体労働に従事する可能性は極めて低い。
かかる原告の職種にかんがみると、脊柱変形が就労の支障になることは考えられない。
脊柱変形に伴う腰痛も、ときおり出現するというものである。原告の業務はデスクワークが
主であり、立ち仕事があるとしても長時間立ったままというのは稀なはずである。
脊柱変形及び腰痛が仕事に与える影響は軽微である。歯科補綴、脊柱変形そのものの
就労に与える影響はほとんどないから、労働能力喪失率は最大でも10%をもって計算されるべき。

【本裁判例の分析】

(1)裁判所は,第5腰椎椎体圧迫骨折後の変形については、原告の体幹に大きな
屈曲外力が加わった結果、第5腰椎椎体に圧迫骨折を来し、同椎体に軽度の楔状変形を残し、
骨癒合に至ったものであり、この変形は等級表11級に該当するが、診療録においては
平成13年6月9日以後に腰痛の記載が一切みられず、症状固定時においても、
腰痛はときおり出現するとされているにすぎないから、局所の神経症状としても
常時痛を要件とする第14級に該当しないことは明らかであるとした。そして、
この程度の椎体変形が、腰痛の原因となったり、体幹のバランスを崩す原因となったり
することはあり得ず、原告については、幸いにも隣接する第4、第5腰椎椎間板も
ほとんど損傷を受けておらず、将来的にも外傷性の椎間板変性が進行し、
それによる椎間板症性の腰痛及び不適合関節や不安定椎による椎間関節症性の腰痛が
起こる可能性もほとんどないといえるから、この椎体変形が現時点及び将来的にも
労働能力に支障を来すものとは考えられないという医師の意見書や,腰部MRI検査の画像に
よっても、第4・第5腰椎椎間板及び第5腰椎・仙椎椎間板が他の椎間板と比べて
明らかに黒く変色しているとか、第5腰椎・仙椎椎間板ヘルニアが発症していることを
明確に認めることはできないし、仮に何らかの変性があるとしても、現在の状態が
本件事故によるものと断定できないと医師から述べられたことを考慮し,一般に、
脊柱変形が認められるとしても、骨折による変形が軽微である場合において、
喪失率表に定められた喪失率をそのまま認めることができないことは当然であるとの
前提のもと,原告は5年間5%の労働能力を喪失したにとどまる旨判断した。

もっとも,本件事故の態様、原告の後遺障害の内容・程度等諸般の事情
(歯牙障害等、逸失利益を認め難い後遺障害があることを含む。)を考慮すると、
後遺障害慰謝料としては700万円(9級相当)が相当であるとした。

(2)本裁判例は,障害の程度や治療経過,医師の意見,本人の現状等を詳細に
検討した上で,喪失率を判断しており,喪失率判断の際の参考になると思われる。

なお,逸失利益が認められなかった部分については,後遺障害慰謝料を
増額してある程度フォローしている。
 
裁判例? 名古屋地判平成16年9月10日(自保ジャーナル1578号)
年齢 事故時36歳
性別 女性
職業 会社員
原告の主張する傷害の内容 第12胸椎圧迫骨折、頚部挫傷等
自賠責等級 脊柱変形11級7号
喪失率20%
裁判所認定等級等 11級7号
喪失率14%,喪失期間15年

被告の主張 骨折部鈍痛の訴えは、傷害の派生関係で生じるものであり、
仮に労働能力に影響を及ぼすものとしても、14級10号に相当する程度であるから、
労働能力喪失率は5%程度である。また、原告の年齢や第12胸椎骨折による変形が
軽度であることを考えれば、今後軽減する可能性は高く、労働能力喪失期間としては、
長くても3年程度

【本裁判例の分析】
(1)裁判所は,脊椎が人間にとって極めて重要であり、その変形が労働に種々の影響を
及ぼすものと考えられること、原告の場合は、疼痛と複雑に絡んでおり個々に分離して
判断することは適当でないこと、ただし、原告の第12胸椎の骨折による脊柱の変形の
程度は軽度と認められること、「鎖骨、胸骨、ろく骨、けんこう骨又は骨盤骨に著しい
奇形を残すもの」が後遺障害等級表第12級5号に該当するものであり、
労働能力喪失率14%となっていること等の諸般の事情を併せ考慮すると、
本件後遺障害の労働能力喪失率は14%と認めるのが相当と判断した。

(2)本裁判例は、脊椎の重要性に考慮しつつも,実際の変形の程度から
12級相当の喪失率を認めている。

裁判例? 横浜地判平成20年4月17日(自保ジャーナル1747号)
年齢 固定時36歳
性別 男性
職業 会社員
原告の主張する傷害の内容 第5頸椎破裂骨折(その後頸椎前方固定術の
手術を受けた)、第2胸椎圧迫骨折
自賠責等級 併合10級(①脊柱変形11級7号,②神経症状12級12号)
喪失率27%
裁判所認定等級等 併合10級
喪失率20%,喪失期間31年間

被告の主張 原告の主治医の診断によると、原告の日常生活活動能力及び労働能力は、
「日常生活には全く支障なし。長時間の就労後にて頸部痛はある」状態とのことである。
そうすると、原告の労働能力を喪失させる要素は、「軽い痛覚鈍麻」「軽いしびれ」
「長時間就労後の頸部痛」ということになり、これらは、いずれも神経症状12級12号として
評価されているものであり、原告の脊柱障害が原告の労働能力を喪失させるものではない
ことは明らかである。したがって、原告の症状は、12級相当であり、12級12号を
前提とした14%の喪失率が相当。

【本裁判例の分析】
(1)裁判所は,被告が指摘するように日常生活に支障はないかもしれないが,
長時間の労働,就労ということになると,現在の原告の就労状況からしても,
デスクワークであっても,首に痛みが発生し,普通の労働時間(たとえば,
朝9時に出勤し,午後6時まで働くこと)を維持することが難しい様子が認められ,
さらに,職種としても,力を必要とする労働,肉体を使用する労働は困難であろうし,
特に,固定隣接椎間の変性による症状の悪化のおそれがあるため,体を動かすことの
多い職種には就けないことが認められる。このような状況からすると,後遺障害に
よる労働能力喪失は,首の痛みだけであり,局部に頑固な神経症状を残すことによる
喪失のみであるということはできず,脊柱変形障害による就労の難しさも出ていると
認められる。このようなことから,原告の症状,就労状況を総合すると,
原告の労働能力喪失率は,20%と認めることが相当と判断した。

(2)本裁判例は,脊柱障害が日常生活に支障はないとはしながらも,当該後遺障害が
就労に及ぼす支障について,現実の就労のみならず将来の転職まで考慮した上で喪失率を
判断しており,参考になろう。

裁判例? 横浜地判平成21年11月12日(自保ジャーナル1822号)
年齢 固定時38歳
性別 女性
職業 専業主婦
原告の主張する傷害の内容 第12胸椎圧迫骨折,右膝打撲、頸椎挫傷
自賠責等級 脊柱変形11級7号
喪失率20%
裁判所認定等級等 11級7号
喪失率14%,喪失期間29年間(67歳まで)

被告の主張 原告の後遺障害は、脊柱の変形であり、それ自体では労働能力の
喪失をきたさないから、逸失利益は認められない。

また、医療記録を見ても、原告の症状は順調に回復し、ほぼ痛みが出ない状態にまで
至っており、労働に与える影響はほとんど認められず、仮に認められるとしても、
局部に神経症状が残存する14級程度のものにすぎない。

【本裁判例の分析】
(1)裁判所は,脊椎圧迫骨折後の変形(第11級)については、労働能力の実質的喪失を
否定する見解や、第12級に引き下げるのが妥当であるとの見解もあり、障害等級の
位置づけについての専門家による検討もされているところであるが、現時点においても
その変更はされていないことからすれば、原則としては、労働能力喪失率表の
定める喪失率を認めるのが相当であるとした上で,骨折による変形が軽微であり、
労働能力への制約がそれほどないという場合もあるので、一律に労働能力喪失率表の
喪失率を適用することも相当ではなく、変形の部位・程度、現在の症状の原因、
被害者の年齢・職業等から、具体的事案に即して労働能力喪失の程度を
判断すべきものとした。

そして,原告の圧迫骨折の程度は軽微であり、実際上ほとんど後弯変形はないとみてよく、
受傷当初は強い痛みがあったことは否定しないが、骨癒合さえすれば普通は痛みが
残らない程度の変形であるとの医師の意見書やその他の症状に関する見解をもとに,
原告の腰背部の疼痛の訴えについては、圧迫骨折による脊柱の変形を原因とする
ものとは認められないから、脊柱の変形により第11級7号に該当することを
理由に直ちに労働能力喪失率を20%と認定することは相当ではないとした。

他方、原告の腰痛が脊柱の変形を原因とするものではないとはいっても、
本件事故との相当因果関係がそのことによって否定されるわけではなく、
事故から4年が経過してもその症状がなお継続し、家事労働や日常生活に支障が
生じていることからすれば、労働能力喪失率を第14級程度の5%とし、
労働能力喪失期間を数年間とみることも相当とは言い難いとした。

そして,以上の事情を総合すると、労働能力喪失率を第12級13号と同等の14%とし、
労働能力喪失期間を症状固定時の38歳から67歳までの29年間とみて、逸失利益を
算定するのが相当であると判断した。

(2)本裁判例は,変形の程度や痛みの原因,現在の被害者の状態を詳細に
検討して喪失率を判断しており,「変形の部位・程度、現在の症状の原因、
被害者の年齢・職業等から、具体的事案に即して労働能力喪失の程度を判断する」
という考え方は主張立証の参考になると思われる。

④喪失率を喪失期間ごとに逓減的に認定した裁判例

脊柱変形においては,痛みが主な愁訴となることが多く,痛みは年月の経過によって
軽減されるものという考えを前提に,裁判例においても,運動障害と異なり逓減的に
判断するものがある。

以下,検討する。

裁判例? 東京高判平成15年7月17日(自保ジャーナル1521号)
年齢 事故時28歳
性別 男性
職業 バイク便
原告の主張する傷害の内容 外傷性くも膜下出血、第6、第9胸椎圧迫骨折、
頸椎棘突起骨折等
自賠責等級 併合10級(①脊柱変形11級7号、②右肩関節痛12級12号、
③右下腿のしびれ、知覚鈍麻14級10号、④右下腿の醜状14級5号、⑤左下腿の醜状14級5号)
喪失率27%
裁判所認定等級等 併合10級
喪失期間を20年間と制限したうえで,当初10年間は喪失率20%,
その後10年間は喪失率14%

原告の主張 喪失期間を34年間(67歳まで)のうち当初20年間は
喪失率74%,その後14年間は喪失率63%

被告の主張 原告の後遺障害のうち、労働能力に影響を及ぼすのは、神経症状に限られ、
喪失率は、多くとも12級12号に基づく14%であり、また、労働能力喪失期間は
5年間とみるのが相当である

【本裁判例の分析】
(1)裁判所は,自賠責保険の実務においては、10級に該当する者の労働能力喪失率が
27%と取り扱われ、また、12級のそれは14%と取り扱われていることは当裁判所に
顕著な事実であると述べた上で,しかし原告の後遺障害による逸失利益を認定する上での
前提となる労働能力喪失率は、同取扱いに拘束されるものではなく、後遺障害の内容と
程度、被害者の年齢、性別、職種等を考慮し、個々の後遺障害により労働能力が
どの程度喪失されるのかを具体的に検討してなされるべきものであるとした。

そして,喪失期間については,原告の後遺障害のうち、労働能力に直接影響があると
考えられるのは、右肩関節痛、背部痛及び右下腿のしびれであると認定した上で、
いずれも神経症状が中心であるが、背部痛は、胸椎骨折により生じているものであり、
胸椎の損傷が変形した胸椎のみではなく、その周囲の組織にも及んでいるため、
向後持続する可能性が認められるところであり、証拠からもかなりの期間持続すると
思われるとの所見が示されていると述べた。これに対し、右肩関節痛は、治療経過が
良好であり、骨傷もなく関節可動域制限もないことからすると、疼痛が永続するものとは
いえないとし、上記後遺障害の部位、程度によれば、原告の症状は将来確実に
軽減されるものとは予測し難い面はあるものの、原告がまだ若く日常の社会生活を
通じて症状の回復、軽減も期待できることを考慮すると、今後、20年間にわたって、
労働能力を喪失するものと認められるとした。

また,上記後遺障害の部位と程度及び疼痛の残存期間を考慮すると、症状固定時の
32歳から少なくとも10年間はその労働能力を20%、その後10年間は
その労働能力を14%をそれぞれ喪失するものと認められると判断した。

なお,醜状痕については労働能力喪失を否定している。

(2)本裁判例において,裁判所は,後遺障害による支障及びその原因を詳細に認定の上,
神経症状が中心であること及び原告が若いことから症状の回復軽減を期待できるとして
喪失期間を制限し,喪失率を逓減的に認定した。

ここで,労働能力に影響があるとされた①脊柱変形11級7号及び②右肩関節痛
12級12号の併合等級である10級相当の喪失率が27%であることや
①脊柱変形11級7号自体の喪失率は喪失率表に従えば20%であることから,
裁判所は神経症状が中心であること等を理由に①脊柱変形11級7号の喪失率を低く
認定したと思われる。

裁判例? 広島地判平成18年5月29日(自保ジャーナル1656号)
年齢 事故時26歳
性別 女性
職業 無職(将来医師として稼働予定)
原告の主張する傷害の内容 腰部捻挫、頭部外傷、第10・11・12胸椎圧迫骨折
自賠責等級 脊柱変形11級7号
喪失率20%
裁判所認定等級等 11級7号
喪失率20%,10%,5%
喪失期期間は順に10年,10年,残り67歳まで

被告の主張 原告には後遺障害による逸失利益はないというべきである。
仮に、逸失利益を認めるとしても、喪失率は、最初の5年間は14%(12級)、
次の5~10年間は5%(14級)とし、全体的な期間は10~15年間とするのが相当

【本裁判例の分析】
裁判所は,原告が背中の痛み等の障害にもかかわらず,数々の研究成果を残して、
大学院の博士課程を修了し、母国ではない米国の財団の研究員として渡米したというのであって、
この間相応の努力をしてきたことは明らかであり,今後も、医師としての労働能力低下による
収入の減少を回避すべく、そうした努力を続けていくであろうことに、相当程度の蓋然性が
認められるとした。

もっとも、脊椎圧迫後の変形(11級)では、労働能力の実質的喪失はほとんど
無いに等しいなどとも言われていることや、本件においても、変形の程度は軽微に過ぎない、
当初の痛みが強いとしても数年では軽微なものとなり、最終的にはほとんど
感じなくなることが期待されることから,当初は慣れるまでに著しい神経障害を残すもの
(第12級12号)相当程度と考えられるが、それも体幹筋力は骨折部周囲軟部組織の
柔軟性の回復などの要素により症状固定後5年間程度で徐々に軽減し、
その後は局所に神経障害を残すもの(14級10号)相当程度になるものと考える旨の
医師の意見が提出されていること,原告が比較的若年であること、米国で医師となる者で、
今後、同国での適切な治療を受け得ることも期待されること、昨今の裁判実務における
研究等をも考慮すれば、原告の労働能力の喪失率は、11級を前提として、
10年間は20%,次の10年間は10%,それ以降は5%というように逓減的に認定した。

なお,本件では,医師志望ということで基礎収入も争われたが,本稿では割愛する。
他にも,逓減的に認定した裁判例が散見された。

(イ)労働能力の喪失をを否定した裁判例

裁判例?  大阪地判平成3年1月17日(交民集24巻1号20頁)
年齢 事故時43歳
性別 男性
職業 会社員
原告の主張する傷害の内容 外傷性頸部頭部症候群、第2腰椎圧迫骨折、
頭部外傷I型
自賠責等級 脊柱変形11級7号
喪失率20%
裁判所認定等級等 11級7号
喪失率0%

【本裁判例の分析】
(1)裁判所は,原告の症状の内容,程度からすれば,原告の車を使用しての外回りの
仕事等に若干の支障が生じていることも窺われるが,原告の給与は症状固定の診断が
なされた前後で変わっておらず,しかも,本件受傷によって原告の給与が
減額されたことは認めがたいのであって,これらの事実に,本件後遺障害の内容,
程度,原告の仕事の内容等を併せ考慮すると,原告が,本件後遺障害により労働能力を
一部喪失し,現実具体的に財産上の損害を被っているとは未だ認めがたく,
将来の減収を認めるに足りる十分な事情も存しないとして,逸失利益を認めなかった。

(2)本裁判例は,減収がないという事情を重視して労働能力喪失を否定しており,
脊柱変形障害の性質からの検討は特になされていない。
  
裁判例?水戸地土浦支判平成16年2月20日(自保ジャーナル1537号)
年齢 事故時49歳
性別 男性
職業 警備員
原告の主張する傷害の内容 外傷性脊髄症,頸椎捻挫,頸椎脊柱管狭窄症
自賠責等級 併合4級(①脊柱変形11級7号,②神経障害5級2号)
喪失率92%
裁判所認定等級等 併合4級
喪失率79%,喪失期間

被告の主張 原告に本件事故による後遺障害が残っていたとしても,
椎弓形成術によって形成された脊柱の変形障害は,治療の一環としてなされたものであって,
その存在故に労働能力の喪失が認められるものではない。

【本裁判例の分析】
(1)裁判所は,脊柱の奇形については,治療のための拡大手術の結果によるものであり,
それ自体,直接労働能力に影響を与えるものとは認められないとして,
5級相当の喪失率79%を認定した。

(2)本裁判例では,脊柱運動障害に関する前述の裁判例●と同様に,
脊柱の変形が治療のために生じたものであることを重視して,
変形による労働能力喪失を認めなかった。

裁判例? 横浜地判平成21年6月10日(自保ジャーナル1811号)
年齢 固定時20歳
性別 男性
職業 大学生
原告の主張する傷害の内容 頭蓋骨骨折、脳挫傷、右大腿骨骨折、腰椎圧迫骨折、
右栂趾開放骨折等
自賠責等級 併合10級(①脊柱変形11級7号,②右栂趾機能障害12級12号,
③左顔面神経麻痺及び頭痛14級9号,④右膝屈折時疼痛等14級9号)
喪失率27%
裁判所認定等級等 併合10級
喪失率14%,喪失期間45年間(67歳まで)

原告の主張 喪失率45%,喪失期間45年間

被告の主張 脊柱変形は労働能力に影響を及ぼすものではなく、それ以外の後遺症のうち、
最も重度の右栂趾の機能障害に関する喪失率を基礎として、原告の労働能力喪失率は14%、
その喪失期間は10年程度とみるのが相当である。

【本裁判例の分析】
(1)裁判所は, 脊柱の変形障害を設ける基本的な意義は、脊椎の支持機能・
保持機能に影響を与え、又は与えるおそれがあることに対するものと理解することができ、
「脊柱に変形を残すもの」を別表第二第11級(旧5号、現7号)とすることの
位置づけに関しては、同第12級の「長管骨端に奇形を残すもの」又は
「鎖骨…に著しい変形を残すもの」と比較し、脊柱の重要性から、脊柱変形を第11級に
位置づけることは明らかに不合理性を有するものではないとされているが、その中でも、
骨折の態様、損傷の安定型、不安定型、変形の程度等に様々な態様があることから、
①当人の年齢、職業、②骨折の部位程度、骨折自体の安定性の有無、③神経症状の有無、
④脊髄障害の有無、⑤治療法の適否、固定術の方法などの諸事情を総合的に検討して、
当該患者の事情に応じ、個別具体的に判断すべきであると述べた。

次に,上記基準を本件原告に以下のようにあてはめた。
原告は、症状固定当時20歳の若年男性であり、職業は学生であること(①),
腰椎圧迫骨折は、一般的にも予後良好とされており、本件圧迫骨折は、腰椎を構成する
5つの骨のうち最上部に位置するほか、骨折の程度も軽度の楔状骨折で、
固定術でなく保存的療法が選択されていること(②),医療記録上、腰痛ないしこれに
基づく疼痛の訴えは、他の傷害の疼痛に隠れていた可能性があるが、記載としては多くないし、
コルセットを自ら外しても、翌日に疼痛がない等の記載があり、診療録でも、
平成16年8月31日以降、腰椎圧崩進行は(-)とされていること(③)。さらに、
後遺障害診断書における腰椎の疼痛に関しては、「急に起きあがると痛い」と
記載されているのみであり、診療録、看護記録、後遺障害診断書のいずれに照らしても、
これによる馬尾神経その他の脊髄刺激症状は一切訴えられていないこと(④)。
また、原告の腰椎圧迫骨折の治療としては、安静と、コルセットによる支持…固定という
保存的療法がとられていたこと(⑤)。また、レントゲン画像によると、原告の脊椎の
配列は正常で、脊椎圧迫を想定される後方への突出は認められず、椎体後縁高21㍉㍍、
前縁高14㍉㍍と測定され、約33%の圧潰が認められるものの、粉砕や第3骨片などの
骨折病変は認められない。現在の原告の訴えも、体位の長期保持や寒冷環境における腰痛が
主たるもので、航空機整備の労働という比較的重度の労働も疼痛をこらえれば、
一応普通にこなしていることが認められる。

以上の各事実からすれば、原告の脊柱の変形が直ちにその支持機能、保持機能に
影響をもたらすものではなく、主として、時に現れる疼痛という神経症状が残存
しているものと認められる。

そして、上記事実からすると,原告の脊柱変形は、労働能力の明らかな低下を
肯定させるものではないというべきであるとし,将来、加齢による変形の可能性や
荷重機能障害が発生する可能性を皆無とすることはできないが、その可能性をも考慮すると、
それ以外の原告の後遺症のうち、最も重度の右栂趾の機能障害に関する喪失率を基礎として、
原告の労働能力喪失率は14%、その喪失期間は就労可能年限までとみるのが
相当であると判断した。

(2)本裁判例は,脊柱変形の意義及び喪失率判断の基準を示した上で(なお,
裁判所の用いた基準は,後述のいわゆる片岡裁判官の講演録を引用したものと思われる),
原告の年齢,具体的な原告の治療経過,現実の支障等を詳細に認定し,
結論として脊柱の有する支持機能・保持機能に影響をもたらすものではないとして,
脊柱変形による労働能力の喪失を否定している。

本裁判例も,脊柱に変形が残ったことだけから労働能力喪失の有無を判断するのではなく,
個別具体的に判断している点で,参考になろう。
上記裁判例以外にも,労働能力喪失を否定した裁判例はあったものの,
被害者が事故前に就労しておらず,将来も就労の可能性がないことを理由とするものや
(東京地判平成7年9月12日),会社役員であり、休業期間中も役員報酬として
本件事故以前と変わらない収入を得ていた事実に照らすと、原告に労務提供の対価としての
収入があるとは認められないとしたもの(名古屋地判平成10年6月10日)が挙げられ,
いずれも脊柱変形という後遺障害から離れた事情を理由として否定しており,
脊柱変形の後遺障害であることに着目して否定したものは見当たらなかった。

(ウ)まとめ
以上のように,脊柱変形の場合には,運動障害と異なり,その喪失率が争われる傾向が
強いと言える。
特に11級の変形障害の場合に,激しく争われる傾向にある。
これは,11級では変形の程度を問わず,圧迫骨折等が残存すれば等級認定がされるため,
具体的な労働に対する支障の程度を掘り下げていく必要があるからであると思われる
(裁判例●)。

もっとも,脊柱変形のみを理由として労働能力の喪失を否定したと思われる裁判例は,
変形が医療行為によって生じたもの(裁判例?)を除いて見当たらなかった
(なお,当該裁判例では医療行為後の変形自体の労働能力喪失は否定しているものの,
医療行為後に生じた神経症状については労働能力喪失を認めている)。
したがって,裁判では,喪失率表どおりの喪失率を認定したものが多いといえよう。
もっとも,肯定した裁判例も無条件で肯定しているのではなく,労働に対する具体的な
支障を認定していることから(裁判例⑭~),他の後遺障害と同様に労働に対する具体的な
支障を主張立証することが重要であることには変わりはない。

実際に,労働能力の喪失を否定もしくは喪失率を低く認定した裁判例は,減収が生じて
いないことを理由とするものが多く(裁判例?),他にも変形の程度・支障が軽微であることを
理由とするものが散見された(裁判例?)。特に,そもそも存在について医師の意見が
分かれるほどの軽微な骨折の場合には,変形の程度も少ないという理由で,喪失率が
低く認定される可能性があるといえよう(裁判例⑳)。

この点,片岡裁判官は,その講演録において,「高度の脊柱変形は,脊椎の骨折という
器質異常により脊椎の支持性と運動性を減少させ,局所等に疼痛を生じさせ得るもので
あるという点を重視すると,原則として喪失率表の定める喪失率を認めるのが相当」
としており,喪失率表どおりの喪失率を認定したものが多いという裁判例の傾向は
理にかなっているといえる。

そして,具体的な事情に応じて,若年など回復可能性がある場合(裁判例??)には,
逓減的な考えをとっているものと思われる。

この具体的な判断基準としては,裁判例?が脊柱変形の喪失率の判断においては,
被害者の年齢,性別,職業,骨折の部位・程度,骨折自体の安定性の有無,神経症状の有無,
脊髄症状の有無,治療法の適否,固定術の方法などの諸事情を総合的に判断することが
必要であると述べており,参考になろう。

裁判例も抽象論ではなく具体的な支障の有無・程度によって労働能力喪失の有無及び
喪失率を判断しているものが多いことから(裁判例?),労働能力喪失の有無及び
喪失率の判断において上記基準は非常に参考になるものと思われる。




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