器質的変化の存在

(ア)肯定した裁判例

裁判例⑨ 大阪地判平成11年4月20日(交民集32巻2号643頁)
年齢 事故時51歳
性別 男性
職業 タクシー運転手
原告の主張する傷害の内容 第1腰椎椎体圧迫骨折等
自賠責等級 脊柱変形11級7号
裁判所認定等級等 11級7号
喪失率14%,喪失期間5年間

被告の主張 原告に第1腰椎椎体圧迫骨折は存しない

【本裁判例の分析】
本裁判例は,第1腰椎椎体圧迫骨折が事故後初診時には判明せず,その後に圧迫骨折を
示唆する所見が認められたというもので,第1腰椎椎体圧迫骨折の存否が
問題となった事案である。

この点,裁判所は,被告側医師の第1腰椎椎体圧迫骨折は存在しないという
意見書に対して,同じ画像を見て入院先の病院の医師は第1腰椎椎体部の腹側面に
圧迫骨折を示唆する所見が認められると判断しているし、自賠責の顧問医も受傷日の
X線写真上第1腰椎に楔状圧迫骨折が認められ、約3か月後のX線写真上楔状変化が
認められたと判断していることに照らすと、腰椎部の画像は少なくとも
第1腰椎椎体圧迫骨折があると判断してもおかしくはないものであるとした。

加えて、本件事故態様(歩行中の原告の背中に,後進していた被告車両が衝突した)
によれば、原告は後頭部や腰臀部に後ろからの衝撃を受けて前のめりに倒れたのであるから、
腰付近を急激に前方向に折り曲げる力を受けたこと、本件事故直後、第1腰椎の
棘状突起痛が非常に強かったことを考え併せると、右に述べたとおり、
第1腰椎椎体圧迫骨折があると認定することができるとした。

もっとも,第1腰椎椎体骨折が画像上必ずしも明瞭な程度のものではないことを考慮し、
喪失率を14%,喪失期間も5年間と制限した。

裁判例⑩ 大阪地判平成12年6月28日(交民集33巻3号1075頁)
年齢 固定時55歳
性別 男性
職業 タクシー運転手
原告の主張する傷害の内容 頸椎捻挫、頭部、腰部、左肩打撲,
ヘルニア(その後固定術を受けた)
自賠責等級 併合10級(①脊柱変形11級7号,②神経症状12級12号)
裁判所認定等級等 11級7号
喪失率20%,喪失期間12年間(67歳まで)

被告の主張 ①11級7号については、骨性の突出と診断すべきところを担当医が
頸椎椎間板へルニアと誤診し、前方固定術を施行したことによるものである。
したがって、たとえ前方固定術の結果、脊柱の変形が残ったとしても本件事故との
間に相当因果関係はない。

②原告の症状は、本件事故前からあった頸椎症または後縦靱帯骨化症によるものだから、
本件事故との間に相当因果関係がない。

【本裁判例の分析】
(1)本裁判例は,医師がヘルニアと診断して固定術を行い,その結果生じた
変形障害に対して,被告がヘルニアは存在せず,固定術によって脊柱が変形しても
因果関係がないとして争った事案である。

裁判所は,まず被告の主張①について,担当医は、画像所見などの検査の結果、
頸椎椎間板へルニアと診断し、前方除圧固定術を施行したと証言しており、証拠上、
この診断が誤りであるとまでは認めがたい,原告には自覚症状が続き、その程度も重く、
担当医は相談のうえ、前方除圧固定術を施行したと認められるから、手術の必要性及び
相当性があると認めることが相当であると認定した。

次に,被告の主張②について,本件事故前にこれらの所見があったとしても、
本件事故前のかなりの間、痛みやしびれなどがなく、普通に仕事をしており、
本件事故後に痛みやしびれが現われたというのであるから、原告の症状と本件事故との
間には相当因果関係があると認めることが相当であるとして,11級7号の障害を認めた
(なお,12級の障害については既存障害として控除され,さらに既往症の存在から
2割を素因減額した)。

(2)本裁判例は,固定術の必要性を治療経過から認定するとともに,既存障害についても,
本件事故前に現実に支障が生じていなかったことから,本件事故と器質的変化との
因果関係を認めた。

裁判例⑪ 大阪地判平成17年3月22日(自保ジャーナル1617号)
年齢 事故時53歳
性別 女性
職業 会社員
原告の主張する傷害の内容 第1腰椎圧迫骨折等
労災等級 併合10級(①腰椎変形11級の5,②神経症状12級の12)
裁判所認定等級等 併合10級
喪失率8%、喪失期間13年間(67歳まで)

原告の主張 喪失率27%、喪失期間13年間

被告の主張 本件事故と原告が主張する後遺障害との間には相当因果関係がない。
原告の第1腰椎圧追骨折は、本件事故11日後に判明したものであり、本件事故との
相当因果関係があるか疑問

【本裁判例の分析】
(1)裁判所は,原告に対する平成13年8月10日のMRI検査により第1腰椎圧迫骨折が
判明したものであるところ、本件事故前である同年7月25日のMRI検査においては
第1腰椎圧迫骨折は認められていないこと、原告が本件事故以外に第1腰椎圧迫骨折が
生じたことを窺わせる証拠はないことからすると、原告は本件事故により第1腰椎圧迫骨折
になったものと認めることができるとした。そして,本件事故当日のレントゲン検査では
明らかな骨折は認められていないが、レントゲン検査では判明しないものがMRI検査で
判明することは、あり得ることであって、上記認定を左右するものではないとした。

そして,原告の給与額が減少していないものの,減少しなかったのは原告の努力に
よるものであるとし,喪失率を8%と判断した。

(2)本裁判例は,第1腰椎圧迫骨折が本件事故によって生じたものかどうかが
争われた事案である。

裁判所は,レントゲン検査で判明しないものがMRI検査で判明することは
あり得るとして,MRI検査を重視していることから,器質的変化の存在を
検討するにあたり,MRIが重要であることを示しているといえる。

裁判例⑫ 大阪地判平成19年2月21日(自保ジャーナル1697号)
年齢 固定時36歳
性別 男性
職業 会社員

原告の主張する傷害の内容 左下腿開放骨折、左多発肋骨骨折、左鎖骨骨折、
左血気胸,第3・第5胸椎圧迫骨折(事故から3ヶ月後に判明)
自賠責等級 併合5級(①脊柱変形6級5号、②腸骨採取による骨盤骨の変形と
左鎖骨の変形及び肋骨の変形について併合11級、③長管骨変形12級8号、
④左足関節機能障害10級11号)
裁判所認定等級等 併合5級
喪失率79%,喪失期間31年間(67歳まで)

被告の主張 胸椎圧迫骨折は本件事故の約3か月後に発覚したものであり、
本件事故と相当因果関係にあるとは認められない。

【本裁判例の分析】
(1)裁判所は,被告の上記主張に対して,胸椎圧迫骨折が確認されたのは、
本件事故から約3か月経過した時点であるが、入院中に胸椎圧迫骨折の原因と
なるような事態が発生した事実を認めるに足りる証拠はないこと、担当医師も
本件事故によるものであるとの前提で診断や治療を行っていることから、
本件事故によって圧迫骨折が生じたと認められると判断した。

(2)本裁判例は,圧迫骨折が事故直後に発見されなくとも,その後の治療経過や
当該事故以外に生じた原因がないという事情から,圧迫骨折を認定しており,
たとえ圧迫骨折の発見が遅れても認定される場合として参考になろう。 

(イ)否定した裁判例

裁判例⑬ 大阪高判平成14年6月13日(自保ジャーナル1462号)
年齢 固定時64歳
性別 女性
職業 成型工
原告の主張する傷害の内容 外傷性頸椎ヘルニア(その後頸椎前方固定術施行),
外傷性腰椎ヘルニア等
自賠責等級 神経症状12級12号
裁判所認定等級等 12級12号
喪失率14%,喪失期間9年間

原告の主張 原告は、本件事故により下記の後遺障害を負った。
①腰部の頑固な神経症状 12級12号
②頸部の頑固な神経症状 12級12号
③脊柱の変形(頸椎前方固定術) 11級7号
④脊柱の著しい運動障害 6級5号

被告の主張 原告の頸椎椎間板ヘルニアが外傷性のものであれば、
受傷後2、3日内に症状が発現してしかるべきであるところ、原告の場合、
本件事故後約6か月を経過してその症状が発現していることや、原告の頸椎には
元々加齢による変性が存在し、これが日常生活の負荷により発症した可能性が
あることからして、原告の頸椎椎間板ヘルニアと本件事故との因果関係は
否定されるべきである。

【本裁判例の分析】
(1)裁判所は,原告の頸部椎間板ヘルニアに関して、本件事故が自転車からの
転倒事故で、必ずしもむち打ち運動を伴うものとはいえず、事故後少なくとも約3か月の間、
原告が本件事故で頸部に何らかの衝撃を受けたと主張したり、頸部の痛みや手指の
しびれ感などを訴えた形跡は全くないこと、頸部に由来する症状が明確に医師によって
確認されたのは、原告の共和病院退院後のことであり、MRIによりヘルニアの存在が
確認されたのは事故から約7か月を経過した後であること、原告の頸椎には経年性の
変性が顕著に見られ、かかる場合、頸椎椎間板ヘルニアは外傷によらず通常の
日常生活の中で発症することがままあり、逆に外傷を契機とするヘルニアが数か月の
時間的経過を経た後に発症する可能性は全くないとはいえないまでも、そのメカニズムが
医学上十分に解明されているとは必ずしもいえないことなどからして、
原告の頸部椎間板ヘルニアが本件事故と無関係に発症した可能性を
否定することができず、また、頸部椎間板ヘルニアの発症に本件事故が明確に
寄与したものと認めるに足りる証拠もないから、原告の頸部椎間板ヘルニアと
本件事故との間に因果関係を認めることは困難であるといわざるを得ないとした。

そして,原告の頸部椎間板ヘルニアの症状は本件事故との因果関係が認められず、
その治療のための前方固定術によって脊柱の変形もしくは運動障害が残存したとしても、
やはり本件事故による後遺障害と認めることはできないと判断した。

(2)本裁判例は,固定術の原因となったヘルニアと事故との因果関係を否定している。
本裁判例と前述の肯定した裁判例⑪⑫とでは,骨折またはヘルニアが確認されるまで
時間が経過している点では類似しているが,本裁判例では原告の頸椎に経年性の
変性が顕著に見られたため,本件事故以外の原因でヘルニアが生じたと考えることが
できたことが,肯定した裁判例と結論を異にした大きな理由ではないかと思われる。

(ウ)まとめ
以上のように,脊柱の変形障害においては,圧迫骨折等の器質的変化が存在すれば
等級が認定されるため,その存在の有無,事故との因果関係の有無をめぐり,
特に軽微な骨折で初診時に見落とされ,後に圧迫骨折等があると診断された場合
(裁判例⑨⑫⑬)や,既往症が存在する場合(裁判例⑩)に争いが生じる。

骨折の早期発見により,争点を少しでも減らすという観点からも,緻密な画像検査は
非常に重要であるといえる。この点,レントゲンでは確認が困難な骨折も,MRIを用い
れば確認することができる場合がある(画像解説の●頁参照)。
そのため,レントゲンだけでなくMRIも利用することが望ましい(裁判例⑪)。




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