逸失利益

(ア)労働能力の喪失を肯定した裁判例
①自賠責等級認定どおりの喪失率を認定した裁判例

裁判例⑦ 仙台地判平成21年7月21日(自保ジャーナル1833号)
年齢 固定時64歳
性別 男性
職業 郵便職員
原告の主張する傷害の内容 脳挫傷、外傷性くも膜下出血、頭部打撲傷、
左第1趾末節骨骨折及び頸椎骨折(その後固定術を行った)
自賠責等級 併合7級(①脊柱運動障害8級2号,②神経症状12級13号)
裁判所認定等級等 併合7級
喪失率56%,喪失期間9年間(平均余命の2分の1)

被告の主張 原告の頸椎部の後遺障害を8級2号とした自賠責の認定は認定基準に
反するもので誤りであり、また、その労働能力喪失率を45%とするのは実態にそぐわない。
労働能力喪失率は20%(11級相当)とするのが妥当であり、全体としての
労働能力喪失率も27%(10級相当)が相当。

【本裁判例の分析】
(1)裁判所は,医療記録や鑑定等から,自賠責保険の認定どおり、原告の後遺障害は、
頸椎部の運動障害が8級2号に該当し、頭部外傷による障害12級13号との併合により
併合7級が適用されるのであって、原告の後遺障害による労働能力喪失率は56%と
するのが相当であるとした。

この点,被告は,環軸椎固定術によって第1頸椎(環椎)と第2頸椎(軸椎)が固定された後も、
脊柱の屈曲・進展は、他の脊柱等により代償されるケースが多く、頸部の回旋運動についても、
胸腰部の回旋運動によりある程度代償されると主張したが,裁判所は,頸椎の可動域は
椎間板及び椎間関節の動きにより決まるところ、一般に中高年以上では椎間板及び椎間関節は
柔軟性を失い、運動によって動きが以前より増大することはほとんど望めないなどの理由から、
第2頸椎と第3頸椎以下の部分に代償性可動域の増大は生じないと考えられる,として排斥した。

上記裁判例の他にも,特に理由を述べずに等級どおりの喪失率を認定した裁判例としては,
神戸地判平成6年11月24日(同等級所定(8級)の労働能力喪失割合を参酌して考えると、
原告は右後遺障害のためその労働能力を45パーセント喪失したと認めるのが相当である)
をはじめ多数見受けられた。

なお,東京高判平成19年2月22日(自保ジャーナル1729号)では,併合5級の認定に
対して喪失率を70%と判断したが(5級相当の喪失率は79%),併合5級は、
6級のせき柱変形障害(6級相当の喪失率は67%)に他の後遺障害(腸骨採取による
骨盤骨変形12級及び神経症状12級)を併合した結果によるものであり,他の後遺障害による
影響は少ないと判断していることから,脊柱の運動障害については自賠責等級認定どおりの
喪失率を認定したものと思われる。

②自賠責等級認定よりも高い喪失率を認定した裁判例

自賠責等級認定よりも高い喪失率を認定した裁判例としては,前述裁判例③が挙げられるが,
当該裁判例は,自賠責で否定された運動障害を裁判所が肯定し8級相当の喪失率を認めた
ものであり,自賠責と同等級の判断を前提に喪失率を高く認定した裁判例は見当たらなかった。

③自賠責等級認定よりも低い喪失率を認定した裁判例

裁判例⑧ 東京地判平成10年1月20日(自保ジャーナル1257号)
年齢 固定時22歳
性別 男性
職業 会社員
原告の主張する傷害の内容 第1・第2頸椎骨折,頸髄損傷等
自賠責等級 併合5級(①脊柱運動障害6級5号,②神経症状12級12号)
裁判所認定等級等 9級10号相当
喪失率35%,喪失期間45年間(67歳まで)

被告の主張 頸椎の運動制限はあるものの、頸椎後方固定術による器質的病変が
原告の労働能力喪失の中心となるものではない。

【本裁判例の分析】
(1)裁判所は,原告は、本件事故による頸椎後方固定術の結果、頸部の運動障害を
残すに至り、これは後遺障害等級表6級5号に該当するが、同手術が必然的に頸部の
固定を目的とすることからすると、これによる労働力喪失率について、直ちに上記等級の
数値を適用するのは相当でないとした。もっとも,原告には、現在も間欠的ながら左側の
上下肢の麻痺ないし、しびれが残存しているほか、頸部の運動制限のため、自動車の運転が
できない等の不便を来しているのであるから、これに後遺障害等級表12級12号が
存在することをも総合考慮すれば、原告の後遺障害として、9級10号に相当する
35%の後遺障害があると認めるのが相当であると判断した。

(2)本裁判例は,脊柱の運動障害が,固定術という治療のために必要な処置によって
生じたものであることを重視して,喪失率を低く認定した(裁判例●参照)。 

(イ)労働能力喪失を否定した裁判例
見当たらなかった。

(ウ)まとめ
脊柱の運動障害においては,基本的には喪失率表どおりの喪失率が認定される
傾向にあるといえる。

ただし,運動障害が固定術によって生じた場合(裁判例⑧)には,喪失率表よりも低く
認定されることがあるといえる。もっとも,前掲の裁判例②では,固定術によって
運動障害が生じたとしても喪失率表どおりの喪失率を認めており,固定術の場合に常に
喪失率が低くなるとは限らない。

いずれにせよ,器質的変化の存在と同様に,なぜ運動障害が生じたのかという原因に遡って,
具体的な治療経過や状態を確認する必要がある。




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