器質的変化の存在等について

(ア)肯定した裁判例
裁判例① 名古屋地判平成15年1月17日(交民集36巻1号49頁)

年齢 固定時74歳
性別 男性
職業 会社役員
原告の主張する傷害の内容 頸椎捻挫
(その後脊柱管の狭窄部分を拡張する頸椎椎弓形成の手術を受けた)
自賠責等級 併合3級(①脊柱運動障害6級5号,②頸髄損傷5級2号)
裁判所認定等級等 併合3級
喪失率79%,喪失期間5.52年間(平均余命の2分の1)

被告の主張 著しい運動障害とは、脊柱の運動可動域が正常可動範囲の2分の1以下に
制限されたものをいうが(旧基準)、原告には、本件事故前から変形性頸椎症、
脊柱管狭窄症が存在しており、もともと頸椎の可動域は悪かったと考えられる。
そして、術前の頸椎機能撮影画像でも頸椎可動域には制限が認められ、
術後の画像と比較しても大きな差は認められない。

したがって、原告の脊柱障害は、3個以上の椎弓切除術を受けたものとして
第11級7号が相当である。

【本裁判例の分析】
(1)裁判所は,原告には本件事故以前に脊椎狭窄症に伴う障害は出現していなかったと
認められることからすれば、本件事故以前の原告の関節等の可動域には制限がなかったと
推認され、そうだとすれば、原告の本件事故後の術前のレントゲンの画像と術後の
レントゲンの画像に大きな差がないことをもって、本件事故以前から関節の可動域が
狭かったと認めることはできないとして,被告の主張を排斥した
(もっとも,脊柱管狭窄症の既往自体は認め,3割を素因減額している)。

そして,本件自賠責の認定が誤りであるとはいえず、原告は、本件事故により
併合3級の後遺障害を被ったと認めるのが相当であると判断した。

もっとも,喪失率については,特に理由を述べずに,原告の後遺障害は3級であることから
労働能力喪失率79%と判断した(3級の喪失率は100%)。 

(2)本裁判例は,既往症があったとしても,それだけで運動障害の発生を
否定するのではなく,事故前と事故後の状態を比べて,運動障害が生じていると
判断したものであり,既往症がある場合の主張立証の参考になろう。

裁判例② 東京地判平成17年1月27日(自保ジャーナル1596号)
年齢 固定時52歳
性別 男性
職業 会社役員
原告の主張する傷害の内容 頸椎・腰椎捻挫、第5腰椎すべり症
(その後第5腰椎・第1仙椎間の固定術が行われた)
自賠責等級 脊柱変形11級7号
裁判所認定等級等 併合7級
喪失率42%(既往症を考慮した。7級56%-12級14%),
喪失期間15年間(67歳まで)

反訴原告の主張 第5腰椎・第1仙椎間固定術を受け、その結果、胸腰椎部の可動域は
参考可動領域のほぼ2分の1に制限されているから、この後遺障害は、6級5号に該当する
反訴被告の主張 反訴原告は、本件事故以前に頸椎・腰椎加齢変性疾患及び
第5腰椎分離・すべり症に罹患しており、本件事故との間に相当因果関係がない

【本裁判例の分析】
 (1)裁判所は,まず,本件事故による受傷のため、固定術を受けることになり、
同手術に基づく脊柱の強直により、腰部の可動域の制限が生じたものと認定した。
そして、反訴原告の腰部の可動域は、参考可動域の2分の1程度に制限されたものと
いえるから、8級2号に該当する後遺障害であるとした(なお,喪失率は,
併合7級相当の56%から,既往症として12級14%を引いた42%と判断しており,
既往症がなければ喪失率表どおりの喪失率を認定していたものと思われる)。

次に,反訴被告から提出された,上記反訴原告の主張と同旨の意見書に対しては,
反訴原告は本件事故前、症状が悪化すれば手術を検討するという治療方針で、通院により
保存治療中であって、手術には至っていなかったが、本件事故後に腰痛・右下肢痛等の
症状が悪化して、本件手術に至ったものであること、反訴原告の腰痛・右下肢痛が、
加齢性の変性によるものであると認めるに足りる証拠はないこと,反訴原告が本件事故に
遭わなかったとしても、早晩、本件手術適応になった蓋然性を認めるに足りる証拠は
ないことを挙げた上で,既往症については素因減額として考慮するのが相当であるとしても、
意見書は採用することができないとした(既往症によって症状が増悪したとして,
5割を素因減額している)。

(2)本裁判例も,裁判例①と同様に,事故前後の身体の状態を詳細に検討し,
本件事故と器質的変化,運動障害との因果関係を認めている。
裁判例③ 名古屋地判平成20年2月27日(自保ジャーナル1786号)
年齢 固定時59歳
性別 男性
職業 運送会社社員
原告の主張する傷害の内容 第2腰椎圧迫骨折、腰椎横突起骨折
(右第2・3、左第1~5)、左第7~10肋骨骨折、左血気胸、頸部挫傷、下顎骨骨折等
自賠責等級 併合11級(①脊柱変形11級7号,②咀嚼障害14級9号)
なお,労災では併合7級(①脊柱運動障害8級,②咀嚼障害10級)
裁判所認定等級等 不明(併合7級と思われる)
喪失率45%,喪失期間11年間(平均余命の2分の1)

原告の主張 後遺障害は併合7級に該当するため,労働能力喪失率は56%である

【本裁判例の分析】
(1)裁判所は,原告太郎の後遺障害のうち,咀嚼機能障害等については労働能力に
影響するとはにわかに認めがたいが、脊柱の運動障害等については、労働能力に
影響することが明らかであって、さらに、原告太郎においては、腰背部痛のために、
重いものを持つことや、長時間の座位、長時間の歩行等が困難となるなどの支障が
生じていること、上記後遺障害のため、本件事故後、稼働していないことも考慮すると、
原告太郎にはこれによる逸失利益が生じたものというべきであり、かかる逸失利益算定上の
労働能力喪失率は、45%(8級相当)とするのが相当であるとした。

そして,損害保険料率算出機構が、原告の胸腰椎部の運動障害については後遺障害に
該当しないと判断した点については、首肯できないとした。

(2)本裁判例は,自賠責の認定で否定された脊柱の運動障害について
(形式的には2分の1以下の可動域制限が生じているため,自賠責ではどのような理由で
否定されたのかは不明。第2腰椎の圧迫骨折なので骨折部位から高度の可動域制限が
生じるとは考えにくいと判断されたのではないかとも思われる(後述裁判例●参照)),
現実に運動障害による支障が生じていることを考慮して,本件事故と器質的変化,
運動障害との因果関係を認めている。

改めて裁判所は自賠責の認定に拘束されないことや,裁判では,自賠責では判断しきれない
詳細な医療記録や被害者の状態を詳細に主張立証していくことが重要であるといえよう。
なお,咀嚼機能障害の労働能力の喪失は否定しているものの,後遺障害慰謝料の判断において,
14級9号との損害保険料率算出機構の判断は首肯できないとし,慰謝料を1000万円
(7級相当)と認定していることからは,咀嚼機能障害と脊柱運動障害とを併合して
7級相当と判断したものと思われる。

(イ)否定した裁判例
裁判例④ 名古屋地判平成13年7月13日(自保ジャーナル1430号)
年齢 固定時24歳
性別 男性
職業 軽急便運送業
原告の主張する傷害の内容 第5、第6胸椎破裂骨折(その後骨盤骨の移植を
伴う第3ないし第7胸椎固定術を受けた)
自賠責等級 併合10級(①脊柱変形11級7号,②骨盤骨変形12級5号,
下肢神経症状14級10号)
裁判所認定等級等 併合10級
喪失率20%,43年間(67歳まで)

【本裁判例の分析】
(1)裁判所は,脊椎固定術後の運動可能域の制限が2分の1に達しているものとは
認められないことから,運動障害を否定し,脊柱の変形のみを後遺障害として
11級7号と判断した事前認定は,相当であるとした。

(2)本裁判例では,そもそも可動域制限が2分の1以下という自賠責の形式的な基準を
満たしていないことからも妥当な結論であるといえる。

なお,骨盤骨の変形については労働能力喪失を否定しているため,喪失率は脊柱変形のみで
判断されている。骨盤骨の変形については,骨盤骨変形の項で分析する。

裁判例⑤ 東京地判平成16年2月27日(自保ジャーナル1560号)
年齢 事故時31歳
性別 男性
職業 会社員
原告の主張する傷害の内容 頸椎捻挫、右膝外側側副靱帯損傷、
左膝及び右下腿挫傷の傷害
自賠責等級 併合14級
裁判所認定等級等 併合14級
喪失率5%、喪失期間12年間

原告の主張 運動制限は、8級2号の「脊柱に運動制限を残すもの」に該当し、
他の後遺障害と併合すると、7級の後遺障害に該当する。

被告の主張 本件事故の態様及びその後の原告の言動に照らすと、本件事故により
原告の主張するような重篤な傷害を負うことは措信し難く、原告主張の7級に相当する
後遺障害と本件事故との間には因果関係はない。

【本裁判例の分析】
(1)裁判所は,まず原告の頸椎の可動域が2分の1以下に制限されているという鑑定と,
制限されているか判断が困難であるという鑑定の2つに分かれた鑑定結果について,
後者の鑑定の信用性を高いと判断した。

その上で,自賠責保険の後遺障害認定実務によれば、8級2号に該当するためには、
「次の器質的変化に基づく原因により、脊柱の運動可能領域が正常可動域のほぼ
2分の1程度にまで制限された」ことが必要であり、その器質的変化として、
「①レントゲン写真上明らかな脊椎圧迫骨折又は脱臼、②脊椎固定術等に基づく脊柱の強直、
又は背部軟部組織の明らかな器質的変化」が挙げられる。そして、可動域制限の原因としての、
「背部軟部組織の明らかな器質的変化」とは、「背部の筋、腱、靱帯等の広範な欠損又は
挫滅をいうもの」とされている。しかるに、本件においては、原告には、筋肉の欠損も
挫滅も認められないから、上記基準には該当しないとして,脊柱の運動障害を否定した。 

(2)本裁判例は,医師の意見が対立し,鑑定を行った結果,脊柱の運動が制限される
器質的変化はないとしたものである。

裁判例⑥ 名古屋地判平成16年6月30日(自保ジャーナル1587号)
年齢 事故時41歳
性別 女性
職業 兼業主婦
原告の主張する傷害の内容 第1腰椎圧迫骨折
自賠責等級 不明
裁判所認定等級等 非該当

原告の主張 原告には第1腰椎圧迫骨折による脊柱の著しい運動障害があり、
運動可能領域が正常可動範囲の2分の1以上に制限されており、常時コルセットの装着を
必要とするものであるから、原告の本件受傷による後遺障害は、第6級5号に
該当するものである(旧基準)

被告の主張 原告が根拠とする後遺障害診断書で認定された運動可動域制限は、
もっぱら原告の主訴ないし自覚的所見に基づく、疼痛性の可動域制限にすぎず、
他覚的な所見に基づく器質的な可動域制限ではない。

労災保険における障害等級認定基準によれば、「運動可能領域が正常可動範囲の
2分の1以上制限されているもの」等の障害の原因としては、「せき柱強直もしくは
背部軟部組織の明らかな器質的変化のため」であると明記されており、その客観的かつ
器質的な所見が証明されない限り、「せき柱の著しい運動障害」に当たるものとは
認めていない。したがって、「せき柱強直もしくは背部軟部組織の明らかな器質的変化」
の所見が認められない原告の可動域制限の訴えは、「せき柱の著しい運動障害」に該当しない。

【本裁判例の分析】
(1)裁判所は,原告の日常生活の調査報告や医療記録等から,後遺障害診断書で
認定された運動可動域制限は、同診断書の他覚症状および検査結果欄には「神経症状は認めず」
「脊髄ならびに神経根への圧迫所見は認めず」「第1腰椎椎体中央部に骨欠損(瘢痕化)を
一部認めるがその周囲には骨硬化像あり」と記載されている程度であることからしても、
もっぱら原告の主訴ないし自覚的所見に基づく、疼痛性の可動域制限にすぎず、
他覚的な所見に基づく器質的な可動域制限とは認め難いといわざるを得ないと判断し,
原告の後遺障害を否定した。

(2)原告は腰椎のみに圧迫骨折があったことから,6級に認定されるためには,
せき柱強直もしくは背部軟部組織の明らかな器質的変化が認められる必要があるところ,
裁判所は医療記録等を詳細に検討し,器質的変化の存在を否定しており,参考になろう。

(ウ)まとめ
脊柱の運動障害が認められるためには,まず器質的変化が必要になる。
ここで,医学的に器質的変化が生じていることが証明されることは当然であるが
(裁判例⑤⑥),器質的変化があるとしても,その変化が当該事故によって生じた
ものであるかどうか,特に既往症と関連してその原因が争いになることが多い。

もっとも,既往症があったとしても,その存在を理由として器質的変化自体が否定されることは
少ないといえる(素因減額という形で考慮されることはある。裁判例②参照)。

なお,器質的変化の存在等に関する裁判例については,変形障害の裁判例と重なる部分も
多いため(後述裁判例⑬),後述の変形障害の裁判例も参照されたい。

次に,器質的変化があるとして,形式的に可動域制限の程度が基準に達していることは
当然必要である(裁判例④)。もっとも,可動域制限の程度が基準に達していても,
器質的変化と可動域制限との因果関係が問題になる(裁判例③)。例えば下位胸椎及び
上位腰椎の骨折の場合には,当該部位はもともと可動域が少ないことから,当該部位を
骨折等しても高度の可動域制限が生じることはない等の理由で因果関係が否定されることも
自賠責の認定上多々あり,裁判上でも争いになる(後述の裁判例●参照
(大阪地判平成6年5月27日)。

いずれにせよ,運動障害を主張する際には,その原因を明確にし,当該部位の傷害から
可動域制限が生じることを具体的に主張立証する必要があるといえよう。




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