京都地方裁判所平成22年5月27日判決(判例時報2093号等)

本章の最後に、冒頭で触れた同判決を紹介する。この裁判例は、
これまで常々問題視されながらも改正されなかった外貌醜状の男女間の等級の差別を
解消する契機となったものであり、外貌醜状による労働能力の喪失を考察する上で
根幹に迫るものともいえるので、以下のとおり、事案及び判断内容、その意義を述べる。

本事案は、金属加工会社に勤める当時21歳の男性が、平成7年11月1日、
金属溶解作業中に溶解物が飛散して、上半身中心に熱傷を負い、右頬から顎部、頸部、
胸部・腹部の全域、右背部、右上肢の肘関節以下、右下肢の膝関節以下等に瘢痕を
残したというものである。

労働基準監督署は、上肢及び下肢の醜状障害と露出面以外の醜状障害については
12級(改正前のもの。以下同。)とし、これと外貌の著しい醜状障害の12級13号と
併合して、障害等級11級に該当すると認定する処分(以下「本件処分」という。)をしたが、
同男性は、これを不服としてこの処分の取消しを求める訴訟を提起した。

本件では、このような処分の違法性の有無に関し、
①外貌の醜状障害について上記改正前の障害等級表が男女に差を設け差別的取扱い
(以下「本件差別的取扱い」という。)をしていることの合憲性、

②障害等級が憲法14条1項に違反する場合の男性の著しい外貌の醜状障害に
適用される等級が争われた。

判決では、①の点に関し、差別的取扱いについて、策定理由に合理的根拠があり、かつ、
その差別が策定理由との関係で著しく不合理なものではなく、厚生労働大臣に与えられた
合理的な裁量判断の限界を超えていないと認められる場合には合憲であるとうことが
できるとした。他方で、行政処分の取消訴訟において処分の適法性を立証する責任は
基本的に処分をした行政庁の側にあると解され、本件処分の適法性の前提となる
差別的取扱いの合憲性については国が立証しなければならないとした。

そして、この理論的前提を踏まえ、外貌の醜状障害が第三者に対して与える嫌悪感、
本人の精神的苦痛等について男性に比べ女性の方が大きいという事実的・実質的差異につき、
顕著ではないものの根拠になり得るといえること、外貌の醜状障害により受ける影響に
ついて男女間に事実的・実質的差異があるという社会通念があるといえなくはないことから、
差別的取扱いの策定理由に「根拠がないといはいえない」とした。

しかし、その差別的取扱いの程度については、著しい外貌醜状の場合男女間で
5級の差があり、給付について大きな差(女性であれば1年につき給付基礎日額の
131日分の障害年金が支給されるのに対し、男性では給付基礎日額の156日分の
障害補償一時金しか支給されない)があることを指摘した上で、障害等級表では、
年齢、職種、利き腕、知識、経験等の職業能力的条件は障害の程度を決する要素とは
なっていないこと、性別がこれらの職業能力的条件と質的に大きく異なるものとは
いい難いことから、外貌の著しい醜状障害についてだけ性別によって大きな差が
設けられていることの「不合理さは著しいものというほかない」とし、この大きな差を
いささかでも説明できる根拠は見当たらず、結局、本件差別的取扱いの程度はその
「策定理由との関連で著しく不合理なものであるといわざるを得ない」と判示した。

本判決は、このような検討のもと、「障害等級表の本件差別的取扱いを定める部分は、
合理的理由なく性別による差別的取扱いをするものとして、憲法14条1項に
違反するものと判断せざるを得ない」とし、本件処分は原則として違法であると
いわざるを得ないと結論づけた。

また、②の点に関し、本件差別的取扱いが憲法14条1項に違反しているとしても、
男女に差が設けられていること自体が直ちに違憲であるともいえないし、男女を同一の
等級とするにせよ、異なった等級とするにせよ、外貌の醜状という障害の性質上、
現在の障害等級法で定められている他の障害との比較から、第7級と第12級の
いずれが基準となるとも、その中間に基準を設定すべきであるとも、直ちに
判断することは困難であると判示した。そして、意見である障害等級表に基づいて
本件の原告に適用された第12級の障害等級は違法と判断せざるを得ず、
本件処分も原則どおり違法であるとして本件処分を取り消した。

本判決は、社会的にも注目された事例であるところ、障害等級表における男女の
差別的扱いに関し、憲法14条1項適合性の有無について初めて判断したものとして、
また、憲法14条1項適合性の有無の判断について新たな一事例を加えるものとして
参考になると考えられる。

裁判実務への影響について述べると、本判決の後に醜状障害に関する障害等級認定基準が
改正された(本稿の「第1」で記載)ところ、当事務所で経験した男性の醜状障害の
裁判実務において、同基準の改正前に生じた事故であっても慰謝料額の算定に当たっては
改正前の基準よりも増額した金額での和解案が提示される例が散見される。
これは、基準の改正を受け、当該後遺症に対する精神的苦痛について、裁判所が従前の
評価を変更しているからと考えられる。




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