慰謝料について

従前より、外貌醜状障害の事案においては、逸失利益の算定にあたり醜状部分が
考慮されなくても、慰謝料増額事由として斟酌されるべきとの考えが提唱されている
(前述の河邉裁判官の講演参照)。本書で取り上げたものより以前の裁判例においても、
同一等級の後遺障害の事例と比較し、慰謝料が増額されているものが多数存在する
(東京地裁平成14年4月16日判決(判例時報1783号88頁)等)。

そこで、近時の裁判例における慰謝料増額の有無について、上記①~○23を
もとに検討すると、醜状障害部分の逸失利益を完全に否定した裁判例⑥、⑨、⑪、⑮、⑳、
○21、○22、○23のうち、⑪及び⑮では増額されていないが(もっとも⑮は、
請求慰謝料額360万円が全額認容されているので、積極的に増額しなかった
事例として紹介するのは適切ではない)、⑥、⑨、○21、○23では増額されている。
増額分は、⑥は30万円、⑨は70万円程度、○21が210万円、○23が150万円と
様々である。慰謝料を増額した裁判例では、慰謝料の算定理由において、「外傷性刺青に
関しては…(略)一応の治療効果が期待できるとはいうものの、完全には異常色素を
除去することは困難であり、肥厚性瘢痕は治癒しない」(⑥)、「殊に、若い女性である
原告の顔面及び右足部に醜状痕が残存」(⑨)等、精神的苦痛の原因となる後遺障害の内容に
配慮していることが確認される。また、逸失利益否定と慰謝料算定との関係について、
上記裁判例では、「原告は、前示後遺障害により対人関係に消極的となっており、
前示後遺障害が原告の労働意欲その他労働能力に間接的に影響を及ぼしているとも
考えられるが、この点は後に判示する後遺障害慰謝料の額を算定するに当たって考慮する」
(○21)、「上記後遺障害が、将来の労働能力に影響を与えるものと認めることはできない。
上記後遺障害の存在及び影響については慰謝料の算定に当たってしんしゃくすべき
事由とするのが相当である」(○23)とし、慰謝料を増額する理由として明示するものが
確認される。特に、裁判例○21は、前記河邉裁判官の講演における考えを踏襲していると
考えられる。

また、逸失利益が肯定されている裁判例においても、③では30万円、④では250万円、
⑤では50万円、⑫では100万円、⑬では120万円、⑭では30万円、⑯では145万円を
増額している。算定理由について、各裁判例の判決理由では、「女性である原告が
22歳から27歳までの人生で最も希望に満ちた時期ともいうべき期間に顔面の傷に
ついての治療を継続して行わなければならなかったこと」(⑫)、「女性である
原告にとって、特に、顔面の線状痕、瘢痕の後遺障害及び分娩の際に障害を生じる
可能性のある産道狭窄の後遺障害は精神的苦痛の大きい後遺障害であること」(⑬)、
「それ以降(筆者注:逸失利益を否定した症状固定後6年目以降)については、妙齢の
女性であること、外貌が職業選択や就労に何らかの影響を与える可能性を
否定できないことから、後遺症慰謝料の増額事由として考慮すべきである。
…(略)後遺障害12級の後遺障害慰謝料は、290万円であるが、前記の諸事情を
考慮して、5割増とする。」(⑯)等とされており、外貌醜状がもたらす精神的苦痛を
重視していることが窺える。

以上の検討からすると、近時の裁判例においては、外貌醜状に関する逸失利益が
否定されたとしても必ずしも慰謝料が増額するわけではないが、逆に逸失利益が
肯定されている事案においても慰謝料が増額している例も複数存在し、醜状の内容や
程度如何によっては、慰謝料増額事由とされることが確認される。




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