後縦靱帯骨化症に関する裁判例

後縦靱帯骨化症で神経症状を惹起し易い状態にあったとしても、健常者として稼動
していたなど、事故前の症状が軽い場合には、既往症減額がなされない傾向にある。

もっとも、事故により神経鞘腫の痛みが発現したケースでは、神経とつながっている
神経鞘腫の手術の際、神経の切断は不可避であったとして、大幅に既往症減額を
肯定した裁判例がある(裁判例36)。

【裁判例35】東京地裁平成8年12月11日(交民29・6・1625)
結論 4割減額。
年齢 事故時57歳
性別 女性
職業 家事兼パート
自賠責等級 14級10号
裁判所認定等級等
14級10号
喪失期間不明。
喪失率60%

【理由】
被害者には、頸椎のMRI検査結果の所見上、頸椎の後縦靱帯の骨化の症状(骨化巣の
占有により脊柱管の狭窄を生じて、重篤な脊髄症を発症するもの)がみられること、
後縦靱帯骨化症は、末だ発症の原因が不明の難病とされていること、さらに、被控訴人の
第4頸椎と第5頸椎には骨棘の形成(反応性の骨増殖)や椎間板の高度の変性(狭少化)
がみられ、骨棘の形成が進行中であったことから、被害者が進行性の変形性頸椎症に
罹患していることが窺われること、変形性頸椎症は、頸椎の老化、退行変性に基づいて
生じる加齢的な現象であって、外傷性のものではないことの各事実を認めることができる。

そして、被害者は、本件事故前から頸椎の後縦靱帯骨化症や進行性の変形性頸椎症に
罹患しており、神経症状を惹起し易い状態にあったとはいえ、健常者として
稼働していたものであるところ、本件事故によって頸椎損傷、頸椎捻挫の傷害を受けた上、
これがきっかけとなって頸椎後縦靱帯骨化症や変形性頸椎症の症状が顕在化して発現して、
頸椎部運動制限、頸頭部痛、上下肢の知覚異常など、頸椎損傷、頸椎捻挫に通常伴うもの
とされる後遺障害の範囲を超えて、右上下肢を中心とする弛緩性麻痺、右上肢の用廃、
右下肢の脱力による歩行障害、右上下肢の知覚低下等の重篤な後遺障害が生じるに至り、
また、これに伴って治療の長期化を招くことになったものと推認することができる。
そのような後遺障害の程度に照らすと、後遺障害による労働能力喪失率は少なくとも
60%と考える。

このように、被害者が本件事故前から罹患していた頸椎後縦靱帯骨化症や変形性頸椎症の
疾患が後遺障害の程度や治療の長期化に大きく寄与していることが明らかなので、
素因減額4割とすべきである。

【裁判例36】大阪地裁平成15年8月27日(交民36・4・1076)
結論 75%減額。
年齢 事故時37歳、固定時41歳
性別 男性
職業 教員
自賠責等級 14級10号
裁判所認定等級等
12級12号
喪失期間10年間。
喪失率10%

【理由】
1 原告の症状と事故との因果関係
本件事故の衝撃ないしはその際の打撲の治療が原因となって、既往の「神経鞘腫」による
疼痛が出現したものと認められるところ、その治療手段として、手術が施術されたが、
当該「神経鞘腫」は神経と繋がっていたため、神経の切断が不可避であり、当該神経の
切断によって、本件手術後、原告には、知覚異常の後遺障害が残存することとなった。

2 後遺障害の程度について
原告には、右膝蓋骨の前面に知覚障害(知覚鈍麻と痺れ感)が残存し、これらは、
神経の切断という器質的変化によるものであって、症状の頑固性も認められることから、
12級12号に該当する。

3 素因減額について
被告らは、①既往症(「神経鞘腫」)の存在、②手術手法の不適正、③本件事故後に
発生した別事故の影響、④心因的要因から、少なくとも90%以上の素因減額を行う
必要があると主張する。

なるほど、原告には、本件事故以前から「神経鞘腫」が存在し、そのために本件事故が
契機となって疼痛が惹起され、その治療のために長期の通院がなされ、かつ、入院の上で
本件手術が施術され、その結果、原告の後遺障害が残存したものであるところ、そもそも
「神経鞘腫」がなければ、打撲程度の軽傷であったと認められる。したがって、原告の
「神経鞘腫」を素因として損害額を75%減額するべきである。




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