裁判例 名古屋地裁平成18年2月17日判決

裁判例 名古屋地裁平成18年2月17日判決
(自動車保険ジャーナル第1646号)
年齢 38歳
性別 男子
事故状況 駐車場において、被告車が原告の乗った自転車に衝突した
後遺障害等級
原告主張:3級3号
自賠責:併合10級
裁判所認定:5級2号
原告の主張する傷害及び後遺障害
傷害:外傷性頸椎椎間板ヘルニア
後遺障害:下肢機能全廃等
素因(既往症)の内容 心因的要因
素因減額 50%

ア 本裁判例の内容
本裁判例は、原告が「本件事故により外傷性頸椎椎間板ヘルニアの傷害を負い、
頸部痛やしびれが継続した後、下肢機能が全廃する等の後遺障害
(3級3号)が残った」と主張したのに対し、被告が「①本件事故は
軽微な衝突事故で原告の頸部に衝撃性の外力が加わった形跡はなく、
確たる神経学的な他覚所見も認められていないことから、原告に見られた
頸椎椎間板ヘルニアは、本件事故前から存在した無症候性ヘルニアであって
外傷性のものではなく、原告が本件事故により受けた外傷は、
腰部・大腿部の軽い打撲と、神経根症状に至らない程度の『頸椎捻挫』
にすぎず、後遺障害との相当因果関係はない(四肢麻痺等の症状は
心因性のものである)、②原告の後遺障害は14級10号に止まる
というべきである」として、後遺障害の内容・程度及び本件事故と
後遺障害との因果関係を争った事案である。

裁判所は、原告の訴える四肢不全麻痺、筋力低下等の症状が実際には
発現していないとは考えられず、原告が主張する後遺障害に結びつくような
本件事故前の既往症や本件事故以後の外傷が存在することも認められないため、
原告は、本件事故による傷害の治療の長期化などにより外傷性神経症を発症し、
検査や手術によるストレス等が加わり心因性の障害へと憎悪していったと
考えるのが相当であるとして、原告主張どおりの後遺障害が
発生していることを認めた。

そして、本件事故との相当因果関係につき、①原告の重大な後遺障害は、
本件事故による外傷に基づく椎間板ヘルニアの症状の増悪を契機として
生じたと考えられること、②交通事故により傷害を負い、治療によっても
症状が思うように改善せず、日常生活や仕事に支障がでたりする場合には、
通常考えられるより重い症状が出現することがあること、③原告の後遺障害の
程度が重大であること、を併せて勘案すれば、原告の重大な後遺障害が
本件事故と相当因果関係を欠くと結論づけることは本件当事者間の公平を
欠く結果となりかねないため、本件では、本件事故と原告の治療及び
後遺障害との間の相当因果関係を認めたうえで、原告の心因的な要因による
治療の長期化や重大な後遺障害については、いわゆる素因減額の問題として
扱うのが相当であるとして、相当因果関係を肯定した。

そのうえで、裁判所は、本件事故態様、原告の症状及び治療の経過等によれば、
本件は、原告の傷害の部位・程度・事故内容が重大でないにもかかわらず、
その症状の長期化や重大な後遺障害の発生に原告の気質的な要因が
大きく関与し、通常人であれば考えられない程度の損害が発生したと
考えるのが相当であり、損害の公平な負担の観点から、
民法722条2項を類推適用して、原告の過失相殺後の損害から
5割を減額するのが相当であると判示した。

イ 分析
本裁判例は、相当因果関係を否定することは当事者間の公平を欠く結果と
なりかねないと述べたうえで、本件事故と後遺障害との相当因果関係を肯定し、
被害者の心因的要因を考慮して、損害の公平な分担を根拠に、5割の
素因減額を行った。

本件は、被害者の気質的な要因が大きく関与して通常人であれば考えられない
程度の損害が発生しているため、相当因果関係が否定されてもおかしくない
事案だったと思われる。裁判所は、被害者救済的な見地から相当因果関係を
認めたうえで、公平を根拠に5割の素因減額をすることで柔軟な解決を
図っているものと思われる。本裁判例は、素因減額にかかるこのような
判断の手法が、相当因果関係の立証における証明度を軽減し、
かつ公平妥当な結論を導き出す機能を有することを如実に示すものといえる。




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