その他の身体的素因が問題となった事案

裁判例 大阪地裁平成17年10月28日
(自動車保険ジャーナル第1646号)
年齢 45歳
性別 男子
事故状況 タクシーに客として乗車中、
飲酒運転の右折乗用車に衝突された

後遺障害等級
原告主張:1級6号
自賠責:非該当
裁判所認定:2級
原告の主張する傷害及び後遺障害
傷害:不明
後遺障害:両下肢の全廃
素因(既往症)の内容 ポリオ
素因減額 40%

ア 本裁判例の内容
本裁判例は、原告が「本件事故後、徐々に下肢の状態が悪化し、
最終的には装具等を使用しても歩行することができなくなり、
常時車いすの状態となった(1級6号:歩行障害)」を主張したのに対し、
被告が「原告は、小児期にポリオに罹患しており、その後通常の社会生活を
送っていた患者が数十年後に誘引なく症状が悪化することがあるから
(ポリオ症候群)、本件事故と原告が主張する後遺障害との因果関係は
認められない」として、相当因果関係を争った事案である。

裁判所は、本件事故当日、レントゲンとCTで検査を実施したものの、
骨折の所見は認められず、脊髄を損傷した旨の診断もなされておらず、
ホフマン反射以外に顕著な神経学的な所見が現れていないことからすれば、
原告が一般的に定義されているところの脊髄損傷の傷害を負ったとは
認め難いとしながら、本件事故時、原告の乗車していた車両は衝突により
横転していることに鑑みれば、原告の脊髄に強い衝撃が加わったことが
認められ、ポリオ患者は生理的加齢変化に伴い、心身の過労や外傷、
過度の運動負荷などが誘引となって脊髄に機能障害を起こし、
弛緩性運動麻痺や発生・言語障害が生じることが認められること、
原告が本件事故後日常生活において常時車いすを使用しなければならない
状態に陥り、本件事故後に症状が増悪していることに鑑みれば、
原告の下肢の症状が増悪した原因は、ポリオに罹患し、脊髄に加齢性の
変化を伴っていたところへ、本件事故により強い衝撃が加わったことが
誘引となって、脊髄に機能障害を起こしたものと解するのが相当で
あるとして、原告の障害が重篤化したことと本件事故との間の
相当因果関係を認めた。

そのうえで、裁判所は、原告の障害の増悪は、原告がポリオに罹患し
生理的加齢変化を伴っていたところへ、本件事故による衝撃が誘引と
なって生じたものと認められるが、原告がポリオに罹患していたことが、
障害の増悪に寄与したと認められるのであるから、民法722条2項を
類推適用して、損害額の40%を減額するのが相当であると判示した。

イ 分析
本裁判例は、本件事故と後遺障害との相当因果関係を肯定したうえで、
被害者が既往症(ポリオ)を有していたことを考慮して、損害の公平な
分担を根拠に、4割の素因減額を行った。

裁判所は、画像所見がなく、ホフマン反射以外に顕著な神経学的な所見が
現れていないことから、被害者が一般的に定義されているところの
脊髄損傷の傷害を負ったとは認め難いとしながら、事故の衝撃の程度と
ポリオ患者という特殊性を考慮したうえで、原告の障害が重篤化したことと
事故との間の相当因果関係を認めている。脊髄損傷を負ったとは
認め難いにもかかわらず、両下肢の全廃という重篤な後遺障害と事故との
因果関係を認めていることは、素因減額という割合的判断の手法が、
相当因果関係の立証における証明度を軽減する機能を有することを
如実に示すものといえる。




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