脊髄空洞症が問題となった事案

大阪地方裁判所平成14年12月13日判決
(自保ジャーナル第1491号) 
年齢 59歳
性別 男性
職業 自称運送業(判決では運送業に従事していた事実は
認められなかった。)

事故状況 原告が高速道路で普通貨物車に同乗中、被告運転の
乗用車に追突され、玉突き事故となった。

後遺障害等級
原告主張:1級3号
自賠責:加重障害1級
裁判所認定:1級3号
原告の主張する後遺障害の内容
非骨傷性頸髄損傷、左手・両下肢麻痺
素因減額 75%
素因(既往症)の内容 脊髄空洞症・過去の交通事故の後遺障害

備考
原告の事故当時における身体状況からすれば、事故当時就労していた
事実は認められず、将来において就労する蓋然性があったとは
言い難いことから、休業損害と後遺症逸失利益は認められなかった。

ア 本裁判例の内容
本裁判例は、玉突き追突事故の被害を受けた原告が、非骨傷性頸髄損傷の
傷害を負い、左手、両下肢麻痺の1級3号の後遺障害を残したとして
訴えを提起し、因果関係及び素因減額が争われた事案である。

原告にはもともと血管芽細胞腫(脊髄腫瘍)に伴う脊髄損傷空洞症の
既往症が存在した。さらに原告は、昭和59年11月の交通事故により
後遺障害3級3号が残り、前件事故における損害賠償請求訴訟
(大阪高裁平成2年(ネ)第2512号においても、原告の後遺障害は
3級3号、後遺障害に対する事故の寄与割合は2割
(脊髄空洞症の寄与割合が8割)と判断されていた。

原告の損害賠償請求に対し、被告は、原告が脊髄空洞症等の既往症及び過去の
事故の後遺障害により、既に1級3号に該当する状態にあったものであり、
原告主張の損害と本件事故との間に因果関係はない、仮に因果関係が
あるとしても、本件事故の寄与割合は1割以下であると主張した。

裁判所は、原告が本件事故以前には杖を用いながらも自力で歩行できて
いたにもかかわらず、本件事故直後に両肩以下がほぼ完全麻痺となり、
治療及びリハビリの結果、右手は若干動かせるものの、左手及び両足が
完全麻痺の状態となったことからすれば、本件事故と原告の受傷及び
後遺障害の発生には因果関係があるとした。

しかし、裁判所は、①原告にはもともと血管芽細胞腫に伴う脊髄空洞症の
疾患があり、同疾患は脊髄の機能を障害するものであること、
②本件事故による衝撃は比較的軽微であること(原告と同乗していた
原告の息子は加療約13日間を要する頸椎挫傷を負ったにすぎない。)、
及び③原告の頸髄損傷も非骨傷性のものであることから、
原告の後遺障害は本件事故の衝撃のみによるものではなく、
既存の疾患である脊髄空洞症もその原因になっていると考えられると
認定した。

そのうえで、裁判所は、脊髄空洞症と前件事故とが相まって生じたとされる
後遺障害が残存していたこと、脊髄空洞症は進行性のもので、
原告は本件事故がなくても5,6年後には車椅子の使用が必須である
可能性があったことからすれば、原告に生じた損害の全部を被告に
賠償させるのは公平を失するものであるとし、損害の公平な分担の
見地から、損害額の75%を減額した。

イ 分析
本裁判例は、原告に既往症(脊髄空洞症)及び前件事故(昭和59年)
における後遺障害(3級3号)が存在したことにより、因果関係及び
素因減額が争点となった事案である。

本件において原告は、もともと脊髄空洞症の既往症があり、前件事故に
おける損害賠償請求訴訟(大阪高裁平成2年(ネ)第2512号において、
原告の後遺障害は3級3号、後遺障害に対する事故の寄与割合は2割
(脊髄空洞症の寄与割合が8割と認定されていたことから、
本件事故時において、既に原告が重い障害を有している状態であった。

裁判所は、本件において素因減額の判断をするにあたり、
①上記の事情に加え、②本件事故が軽微な接触事故であったこと
(同乗者が受けた傷害が加療約13日程度のものであったことも
判断材料にされている。)、③原告の頸髄損傷は非骨傷性のもので
あったこと、及び④原告の脊髄空洞症が進行性のもので、原告は、
本件事故がなくても、5・6年後には車椅子の使用が必要になる
可能性を有していたこと等の事情から、損害の公平な分担の観点から、
75%の素因減額を認定した。

なお、本裁判例においては、素因減額の他、休業損害及び逸失利益の
算定についても争点となっていたが、裁判所は、原告が事故当時運送業を
営んでいたと主張するも、事故当時就労していたことを認めるに足りる
証拠がないこと、事故当時の原告の身体状況からみて将来において就労する
蓋然性があったとは言い難い点から、休業損害及び逸失利益は
認められない(0円)と判断した。




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