後縦靭帯骨化症が問題となった事案

裁判例 大阪地裁平成9年1月24日判決
(交民集30巻1号108頁)
年齢 事故時53歳
性別 男子
事故状況
被告運転の加害車両に追突された被害車両が、前車に追突し、
再度加害車両に追突されて停止した。原告車は、被告車に
追突されてから3メートル移動して停止した。
後遺障害等級
原告主張:不明
自賠責:9級10号
裁判所認定:不明
原告の主張する傷害及び後遺障害
傷害:頸髄損傷
後遺障害:9級10号に該当する後遺障害
素因(既往症)の内容
事故前から頚椎の後部変形、骨棘の発生、後縦靱帯骨化症等の
変性性の疾患に罹患していた
素因減額 30%

ア 本裁判例の内容
本裁判例は、原告が「本件事故により頸髄損傷の傷害を負い、
後遺障害等級9級10号に該当する後遺障害を負った」と主張したのに対し、
被告が「本件事故により原告に生じた傷害は頚椎捻挫・腰椎捻挫にすぎない」
として、頸髄損傷の発生を争った事案である。

裁判所は、本件事故前に、原告につき、頸髄損傷に関連する既往症等は
発見されていなかったが、後縦靱帯骨化症等の変性性の疾患により
頸髄損傷が発生しやすい状態にあったところ、このような状態の下で
加わった本件事故の衝撃が疾患と共に原因となって、頸髄損傷が発生した
と解されるとして、本件事故により原告に頸髄損傷が発生したことを認めた。

そのうえで、裁判所は、原告は、本件事故前から、頸椎の後部変形、
骨棘の発生、後縦靱帯骨化症等の変性性の疾患に罹患していて、
頸髄損傷を起こしやすい状態にあったところ、そのような状態の下で
加わった本件事故の衝撃が疾患と共に原因となって損害を発生させた
のであって、原告の症状に対する原告の要因を考慮すると、
損害の公平な分担の見地からは被告の損害の全てを賠償させるのは
相当ではないから、民法722条2項の規定を類推適用して、
損害額合計から3割を減額するのが相当と判断した。

イ 分析
本裁判例は、本件事故と頸髄損傷との相当因果関係を肯定したうえで、
被害者の「疾患」を考慮して、損害の公平な分担を根拠に、
3割の素因減額を行った。

裁判所は、被害者の疾患が損害の発生または拡大に寄与していると
評価している。本裁判例からは、かかる場合に、加害者にその損害の
全てを負担させるのはかえって公平に欠けるという、裁判所の
価値判断をうかがうことができる。しかし、既往症の程度や、
事故により被害者に加わった外力の程度・外力が加わった部位に
ついて具体的な評価がなされていないため、素因の寄与度が3割と
判断された明確な理由は不明である。

裁判例 大阪地裁平成13年10月17日判決
(自動車保険ジャーナル第1459号)
年齢 57歳
性別 男子
事故状況 乗用車を運転し停車寸前に被告運転の乗用車に
追突された

後遺障害等級
原告の主張:併合4級(6級5号:頸椎部の著しい運動障害、
7級4号:脊髄損傷により軽易な労務以外の労務に服することができない)

自賠責:同上
裁判所認定:同上
原告の主張する傷害及び後遺障害
傷害:頸髄損傷
後遺障害:歩行障害(杖で歩行)、両手の巧緻障害等
素因(既往症)の内容
本件事故前から頸椎後縦靱帯骨化症(連続型)に罹患し、
手指のしびれ、頸部の稼動性低下、頸部痛等の症状が発現しつつ
あったが、外科的治療が必要であるとは判断されておらず、
現実に工事現場で作業に従事することも可能であった。脊柱管の
狭窄率は50%をこえていた。

素因減額 50%
ア 本裁判例の内容
 本裁判例は、原告が「本件事故により頸髄損傷の傷害を負い、
歩行障害(杖で歩行)、両手の巧緻障害等の後遺障害(併合4級)
が残った」と主張したのに対し、被告が「①原告は本件事故以前から
頸椎に後縦靱帯骨化症の既往症のため頸髄を高度に圧迫しており、
現にその症状が発現(頸部・左手の指・左腕の不調)しており、
何らの外力が加わらなくてもいつ何時発症するのかわからないほどに
悪化した状態であったことに加え、本件事故は軽微な物損事故であり、
原告の現症状を発症させるほどの外力を加えるものではないことから、
本件事故と原告の現症状との間には因果関係がないとし、②仮に因果関係が
あるとしても、後縦靱帯骨化症が原告の現症状に与えた影響が強いことは
明らかであり、少なくとも60%以上の素因減額がされるべきである」
として、本件事故と後遺障害との相当因果関係を争い、素因減額を
主張した事案である。

裁判所は、本件事故が原告に与えた衝撃は相当程度のものであったと
認められ、原告は、本件事故後、頸髄損傷の傷害を負い、歩行障害
(杖で歩行)、両手の巧緻運動障害等の後遺症が残存して、工事現場での
作業に従事することができなくなっているのであるから、本件交通事故と
原告の症状に相当因果関係が存在することは明らかであるとして、
相当因果関係を肯定した。

そのうえで、裁判所は、頸椎後縦靱帯骨化症は、原告の現場での
作業に大きな支障を及ぼすものではなかったとはいえ、現に症状の
発現がみられていること、脊柱管の狭窄率は50%を超えるもので、
脊髄を相当圧迫する程度であり、それほど重くない外傷によっても
大きな神経症状を引き起こす可能性が非常に高い状態にあったこと、
本件事故の態様、原告の後遺障害の程度等の諸事情によれば、原告が
罹患していた後縦靱帯骨化症が後遺障害の程度等本件の損害拡大に相当の
寄与をしているというべきであり、本件事故によって原告に生じた損害の
全部を被告に負担させることは公平を失することになるから、
民法722条2項の規定を類推適用し、損害賠償額を定めるにあたり、
原告が罹患していた頸椎後縦靱帯骨化症を斟酌し、損害額の5割を被告に
負担させるのが相当であると判示した。

イ 分析
本裁判例は、本件事故と後遺障害との相当因果関係を肯定したうえで、
被害者が既往症(頸椎後縦靱帯骨化症)を有していたことを考慮して、
損害の公平な分担を根拠に、5割の素因減額を行った。

裁判所は、被害者の既往症の程度に加え、事故の態様や後遺障害の程度を
考慮したうえで、被害者の既往症が損害の発生及び拡大に相当の寄与を
したと評価し、素因減額割合を5割としている。既往症が損害の発生・
拡大にどれだけ寄与したのかを決定するにあたり、事故態様や後遺障害の
程度を考慮することを明示している点が参考になる。

裁判例 東京高裁平成8年12月11日
(交民集29巻6号1625頁)
年齢 57歳
性別 男子
事故状況
被告運転の普通貨物自動車が前方を走行していたタクシー
(原告が後部座席に乗車)が減速したことに気付くのが遅れ、
車間距離が約10メートルに至って危険を感じブレーキをかけたが
間に合わず衝突した。衝突後、加害車両は18メートル以上、
被害車両は27メートル以上も滑走した(追突時の速度は
確定しえなかった)。

後遺障害等級
原告主張:不明
自賠責:14級10号
裁判所認定:不明
原告の主張する傷害及び後遺障害
傷害:頸髄損傷ないし中心性頸髄損傷
後遺障害:右上下肢の機能障害、知覚障害
素因(既往症)の内容
頸椎後縦靱帯骨化、
変形性頸椎症(第4頸椎と第5頸椎に骨棘の形成、椎間板の高度の
変性が見られる)

素因減額 40%
ア 本裁判例の内容
本裁判例は、原告が「本件事故により頸髄損傷ないし中心性頸髄損傷の
傷害を負い、右上下肢の機能障害、知覚障害が残った」と主張したのに対し、
被告が「①頸髄損傷ないし中心性脊髄損傷は存在しない、
②既存疾患の進行・悪化が原告の症状に寄与している」として傷害結果の
発生と素因減額を主張した事案である。

裁判所は、①脊髄に損傷を受けた場合に通常みられる症状
(腱反射の亢進、病的反射の出現等)が見られないこと、
②頸部脊髄の中心部に損傷を受けた場合には、通常、障害は主として
上肢に限定されること(原告の障害は上下肢に及んでいる)に照らすと、
原告が本件事故によって頸髄損傷ないし中心性頸髄損傷の障害を
受けたものとは断じ難いが、原告の治療経過及び症状等に照らすと、
原告が本件事故によって少なくとも頸椎損傷ないし頸椎捻挫の傷害を
受けたことは容易に推認されるところであるとして、頸椎損傷ないし
頸椎捻挫の限度で、相当因果関係を肯定した。

そのうえで、裁判所は、原告は、本件事故前から頸椎の後縦靱帯骨化症や
進行性の変形性頸椎症に罹患しており、神経症状を惹起しやすい状態に
あったとはいえ、健常者として稼動していたものであるところ、
本件事故によって、頸椎損傷、頸椎捻挫の傷害を受けた上、
これがきっかけとなって頸椎後縦靱帯骨化症や変形性頸椎症の症状が
顕在化して発現して、頸椎部運動制限、頸頭部痛、上下肢の知覚異常など、
頸椎損傷、頸椎捻挫に通常伴うものとされる後遺障害の範囲を超えて、
右上下肢を中心とする弛緩性麻痺、右上肢の用廃、右下肢の脱力による
歩行障害、右上下肢の知覚低下等の重篤な後遺障害が生じるに至り、
また、これに伴って治療の長期化を招くことになったものと推認でき、
原告が本件事故前から罹患していた頸椎後縦靱帯骨化症や変形性頸椎症の
疾患が原告の後遺障害の程度や治療の長期化に大きく寄与していることは
明らかであって、この場合において、被告らに損害の全部を賠償させる
こととするのは公平を失するから、原告の疾患を斟酌して、被告らには
原告が本件事故によって被った損害の6割を賠償させるものとするのが
相当であると判示した。

イ 分析
本裁判例は、頸椎損傷ないし頸椎捻挫の限りで本件事故と後遺障害との
相当因果関係を肯定したうえで、被害者が頸椎後縦靱帯骨化症、
変形性頸椎症に罹患していたことを考慮して、損害の公平な分担を根拠に、
4割の素因減額を行った。

裁判所は、被害者に頸椎損傷・頸椎捻挫に通常伴う後遺障害の範囲を
超えた重篤な後遺障害が生じていることから、既往症が後遺障害の程度や
治療の長期化に大きく寄与していることは明らかとして、4割の素因減額を
行っている。当該傷害から通常生じうる後遺障害との比較を要素として、
既往症の寄与度を導き出している点が参考になる。




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