定期金賠償を肯定した裁判例の検討

①東京高判平成15.7.29
「確かに,介護費用はもともと定期的に支弁しなければならない費用であり,
植物状態となった被控訴人Aの推定的余命年数については少なくとも現時点から
20年ないし30年と推認することは困難であるものの,この推定余命年数は
少ない統計データを基礎にするものであり,現実の余命と異なり得るもので
あることはもちろん,被控訴人Aの身体状態,看護状況,医療態勢や
医療技術の向上の一方で,思わぬ事態の急変もあり得ることなどを考慮すると,
概ねの推定年数としても確率の高いものともいい難い。そうすると,
推定的余命年数を前提として一時金に還元して介護費用を賠償させた場合には,
賠償額は過多あるいは過少となってかえって当事者間の公平を著しく欠く
結果を招く危険がある。このような危険を回避するためには,
余命期間にわたり継続して必要となる介護費用という現実損害の性格に即して,
現実の生存期間にわたり定期的に支弁して賠償する定期金賠償方式を
採用することは,それによることが明らかに不相当であるという事情の
ない限り,合理的といえる。」

「一時金による将来介護費用の損害賠償を命じても,賠償義務者に
その支払能力がない危険性も大きいし,賠償義務者が任意に損害保険会社と
保険契約を締結している場合には,保険会社が保険者として賠償義務を
履行することになるから,不履行の危険性は少なくなるものといい得る。
(証拠略)によれば,控訴人は,自動車事故による損害を填補するため,
富士火災と任意に損害保険契約を締結していたことが認められるから,
控訴人の損害賠償義務は保険者である富士火災が履行することになると
推認される。もっとも,(証拠略)を併せると,富士火災は
平成13年9月中間決算期に経常損益が赤字であるなど経営状況が
安定しているとはいい難く,近年は保険自由化が進み,保険会社間の競争も
激化し,下位の損害保険会社の中には倒産したものがあったことが
認められるが,富士火災が将来破産など倒産するとまで予測することは
できない。そうであれば,被控訴人Aの将来介護費用の損害賠償債権は,
その履行の確保という面では一時金方式であっても定期金賠償方式で
あっても合理性を欠く事情があるとはいえないし,民事訴訟法27条の
活用による不合理な事態の回避も可能であるから,将来の介護費用損害に
定期金賠償方式を否定すべき理由はない。」

検討
本判決では,将来介護費用についいて,より適正な損害額を反映させる
必要性を考慮し,履行の確保という点については,被告が任意保険に加入し,
かつ同社が倒産するおそれも低いことから定期金賠償によることを認めている。

②神戸地判平成16.12.20
「被告は,(ア)本件が過失相殺事案であること,
(イ)今後の賠償義務者の負担,(ウ)将来の事業変更があった場合の負担,
等の事実を挙げて,定期金賠償は認められるべきではないと主張している。
上記のうち,本件が過失相殺事案であることは被告が指摘するとおりであるが,
このことが,定期金賠償を不当とする理由になるとは解せられない。
また,今後の賠償義務者の負担というのが具体的にどのような負担をいうのかは
明らかでないが,賠償義務者が一定の時期ごとに賠償金支払いの手間を
掛けなければならないという負担をいうものとすれば,被告が任意の
自動車保険に加入し,賠償金支払の事務は事実上被告が加入する
任意保険会社が被告に代わって行うことが予想される(被告が指摘する上記
(ウ)の事実は,このことを予定していると解される。)本件においては,
賠償義務者に不相当な負担が生ずるとは認められない。また,
被告が指摘する(ウ)の事実は,賠償金支払の事務を事実上被告に代わって
行う任意保険会社の事業変更をいうと解されるが,事業変更の前後で負担の
内容が変わるわけではなく,定期金賠償を不相当とする理由になるとは
認められない。」

検討
本件では,
①被告が過失相殺事案であること(損害額が比較的低額となることから
(本件では原告の過失を6割と認定している。)定期金によるメリットは
少ない(デメリットの方が大きい)という主張と思われる。),
②賠償義務者である被告の負担が過大となること,③被告加入の保険会社が
事業変更した場合,同社の負担が過大となることを理由として,
原告が定期金賠償を求める将来付添費,将来おむつ代および将来の
室料差額について,定期金賠償の方法によるべきではないことを
主張しているが,裁判所は,過失相殺事案であることは,定期金賠償に
よることを否定する事情と捉えず,また賠償義務者の負担も,被告が
任意保険に加入していたことから,少なくとも被告の負担は増大しない
ことから,定期金賠償によることを認めた。

③福岡地判平成17.3.25
「原告花子については推定余命期間が現時点では確定しておらず,
これまでの治療経過及び今後の医療水準に照らせば,平均余命までを
前提とすべきこと,今後の公的サービス等の推移によっては原告花子の
看護体制に変更が生じ得る可能性も少なくないこと,将来の介護料について
一時金に還元して介護料を賠償させた場合には事情の変更があった場合には
(ママ)かえって当事者間の公平を著しく欠く結果を招く危険があること,
このような危険を回避するためには余命期間にわたり継続して必要となる
介護費用を定期的に支弁して賠償する定期金賠償方式が合理的であり,
介護料算定の基礎となった事情に著しい変更が生じた場合には民事訴訟法
117条の活用によって不合理な事態にも対処できること,原告らも
訴訟の経過において原告花子の今後における介護を最も考慮していたこと
等の諸事情を考慮すれば,原告花子の将来の介護料については,
定期金による賠償として原告花子の死亡または平均余命の84才に
達するまでのいずれかの時期まで毎月25日限り1か月分54万円の
支給を命じるのが相当である。」

検討
本判決は,将来介護費用の支払について,将来看護体制に変更が生じる
可能性が低くないことから,一時金賠償によった場合,現実の損害額を
反映できないおそれがあるが,定期金賠償によればこれを回避できることを
積極的な理由として定期金賠償を認めた。




  • LINEで送る
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

ページトップへ

0120-949-753

このページの先頭へ