近親者慰謝料

脊髄損傷のように、被害者が重度の傷害を負った場合には、近親者にも
固有の慰謝料が認められることがある。この近親者固有の慰謝料は、
「死亡したときにも比肩しうべき精神上の苦痛を受けた」ときに
請求しうる(最判昭和33年8月5日)。

裁判例上、脊髄損傷の被害者の近親者固有の慰謝料としては、
350万円(大阪地判平成19年7月26日)まで認定されて
いるものがある。もっとも、被害者本人の後遺症慰謝料の金額を斟酌して
(被害者本人の金額を少なくして)近親者慰謝料を認定していると
思われるものもあり(さいたま地判平成17年6月17日、
さいたま地判平成16年3月11日等)、このような裁判例については、
近親者慰謝料を認める代わりに被害者本人の慰謝料を下げてよいものか
疑問の余地があろう。

最高裁判例 最判昭和33年8月5日
(民集12巻12号1901頁、判例時報157号12頁)

判決内容 「被上告人Aは、上告人の本件不法行為により顔面に
傷害を受けた結果、判示のような外傷後後遺症の症状となり果ては
医療によって除去しえない著明な瘢痕を残すにいたり、ために同女の容貌は
著しい影響を受け、他面その母親である被上告人Bは、夫を戦争で失い、
爾来自らの内職のみによつて右A外一児を養育しているのであり、
右不法行為により精神上多大の苦痛を受けたというのである。ところで、
民法709条、710条の各規定と対比してみると、所論民法711条が
生命を害された者の近親者の慰謝料請求につき明文をもつて規定しているとの
慰藉料請求権がすべて否定されていると解しなければならないものではなく、
むしろ、前記のような原審認定の事実関係によれば、被上告人Bは
その子の死亡したときにも比肩しうべき精神上の苦痛を受けたと
認められるのであって、かかる民法711条所定の場合に類する本件に
おいては、同被上告人は、同法709条、710条に基づいて、
自己の権利として慰藉料を請求しうるものと解するのが相当である。」

a 認めた裁判例
裁判例 東京地判平成20年5月8日
(自保ジャーナル第1748号)
年齢 29歳(事故時)
性別 男子

後遺障害の内容
第3胸椎以下の完全対麻痺、自律神経障害の強い残存(体幹・下肢の疼痛著明)、
直腸・膀胱障害
自賠責等級 1級1号

被害者側の状況
被害者は本件事故により第3、4胸椎破裂骨折等の傷害を負い、
上記後遺障害が残った。上半身を利用した日常生活動作は可能であるが、
胸より下の部分は、麻痺状態にあり、上半身の動作に係る作業を独力で
行うには相当の努力と時間を要し、妻の補助を必要とする場合も多い。
食事の用意、入浴、着替えのいずれについてもその一部又はほとんどに
妻の介助を必要としている。就寝中にも3時間程度ごとに体位変換をする
必要があり、体位を変換するため、妻も起床して介助している。

認定された内容
被害者の妻の固有の慰謝料として100万円
被害者の娘の固有の慰謝料として50万円
(被害者本人に対する後遺障害慰謝料としては、2800万円)

本裁判例は、被害者の妻及び娘について固有の慰謝料を認めたものである。

被害者の妻に対しては、被害者が後遺障害等級第1級に相当する後遺障害を
負ったことのみならず、被害者の介護をしている点をも考慮して慰謝料を
認めている。また、被害者の娘(事故当時2歳)についても、
父親が本件事故により半身に麻痺を残した状態となったことについて、
近い将来心を痛めることは確実であるとして固有の慰謝料を
認めている点に特徴がある。

近親者に固有の慰謝料が認められるためには、単に被害者の傷害や
後遺障害の内容を主張するのみならず、介護の負担や幼い子供がいる
場合にはその将来の心痛等、精神的苦痛の原因となる事情を数多く
主張することが有効であることを示す裁判例である。

b 否定した裁判例
裁判例 東京高判平成13年6月13日
(自保ジャーナル第1426号)
年齢 28歳(事故時)
性別 男子
後遺障害の
内容 外傷性てんかん、上下肢の筋力低下、知覚異常等
自賠責等級 9級10号

被害者側の状況
事故により直ちに救急車で病院に入院。このときの被害者の自覚症状は、
全身の疼痛及び両上肢の遠位部の著明なしびれ感などであり、
これらについて、頭部打撲、腹部打撲、頚椎捻挫、腰椎捻挫の診断を受けた。
53日入院し、退院後から症状が悪化し、外傷後てんかん、頚椎捻挫及び
腰椎捻挫の診断などに基づき自賠責保険から後遺障害等級9級10号の
認定を受けた。その後さらに症状は悪化し、両手のしびれ感、冷感、振戦、
物をもつことができず細かい作業ができないなど症状について、
外傷に起因する中心性頸髄損傷との診断も受け、事故から4年2か月後、
てんかん重積により死亡した(死亡と事故との因果関係は否定)。

認定された内容
被害者の受傷及び後遺障害の内容及び程度に照らせば、近親者らの
供述によっても、近親者らが被害者とは別個の精神的損害を被った事実を
認めることはできないとして、近親者(被害者の妻及び父母)固有の
慰謝料を否定した。

本裁判例は、第一審で200万円を認めた近親者固有の慰謝料について、
被害者の受傷及び後遺障害の内容及び程度に照らして、控訴審で
否定されたものである。

本裁判例においては、後遺障害の程度は、自賠責認定等級の
9級10号ではなく、それより重い7級4号相当としたものの
近親者慰謝料を否定しており、当初の被害者の症状が比較的軽かった
ことなどを重視し「死亡にも比肩しうべき精神上の苦痛」を受けた
とまでは言えないと裁判所は判断したのであろう。




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