自宅改造費等

後遺障害によって生じる被害者の日常生活上の困難をできるかぎり
回避するために建物を改築あるいは新築したり、移動に便利なように
設備を設置する必要が生ずることが多い。

その場合、現実に改築、購入するのに必要な費用(支出した費用)が
そのまま損害額になることもあるが(大阪地判平成19年12月10日、
千葉地佐倉支部判平成18年11月29日、さいたま地判
平成17年6月17日等)、その改造の必要性、支出額の相当性、さらには
被害者以外の家族も改築などによって利益を得ている場合などが問題と
なることもあり、現実の費用額の一部に限定して損害賠償を認める裁判例
(被害者側がもともと現実の費用の一部を損害として主張していることもある)
が多く(名古屋地判平成20年12月2日、東京地判平成17年10月27日、
大阪地判平成17年9月21日、さいたま地判平成16年1月14日等)
また、全額について損害を否定した裁判例も少数ではあるが存在する
(岡山地判平成元年5月29日)。

なお、自宅改造に関する費用として裁判例上認められたものとしては、
玄関電動引き戸システム、センサー付照明(名古屋地判平成20年12月2日)、
玄関、ホール、洗面所、ユニットバスの拡大、幅広建具の設置、段差の解消、
昇降機取付費用(名古屋地判平成20年1月29日)、身体障害者用のトイレ、
浴室、天井走行リフト、昇降リフト、電動シャッター、換気扇等の換気設備等の
設置費用に加え、身体障害者用トイレに設置されたウレタン製台座、
電動シャッター、天井走行リフト、昇降リフト、換気扇等の換気設備の将来の
交換費用(さいたま地判平成17年6月17日)などがある。

a 支出した費用を全額損害として認めた裁判例
裁判例 大阪地判平成19年12月10日
(自保ジャーナル第1737号)
年齢 19歳(事故時)
性別 女子
後遺障害の
内容 高次脳機能障害及び四肢麻痺等
自賠責等級 1級1号
被害者側の状況
記銘力障害や四肢麻痺(両下肢は全廃、手指骨間筋萎縮)に加え、
神経性膀胱による閉尿の症状が認められ、食事以外は全介助の状態にある。

認定された内容
被害者には四肢麻痺の後遺障害が残存していることから、被害者らの
自宅につき、浴室、洗面所、便所及び勝手口を車椅子のまま移動することが
できるような改装工事の施工並びに段差昇降リフト及び浴室リフトの設置を
行う必要があるとして、上記改装工事及びリフト設置工事並びにこれらに伴う
付随工事のため要した合計430万1965円を損害として認めた。

これらの工事が被害者と同居する家族の利便性をも向上させるもので
あるとして、被害者の損害は上記費用の一部にとどまる旨の被告らの主張に
対しては、上記改装工事等はいずれも被害者の自宅における療養生活のために
必要・不可欠な範囲に止まっているということができるとして、採用しなかった。

本裁判例は、原告らが行い請求する自宅改装工事費用全額について、
損害として認めたものである。

改装工事の内容が、バリアフリーにすることやリフト設置工事等、被害者の
自宅での生活のために必要・不可欠なものにとどまることを
重視しているものでと思われる。

b 一部否定した裁判例
裁判例 名古屋地判平成14年3月25日
(自保ジャーナル第1453号)
年齢 21歳(事故時)
性別 女子
後遺障害の内容
第1腰神経以下の完全麻痺、第1腰神経支配域以下の筋萎縮、
下肢の関節の自動運動不能、膀胱、直腸機能全廃等等
自賠責等級 1級3号

被害者側の状況
被害者は、被害者らの居宅において在宅療養するために、居宅を改造し、
見積書によると住宅改造費用として551万0170円が必要であると
見積もられていた。

認定された内容
住宅改造の見積書の工事内容には、階段床カーペット撤去、敷込工事、
セラムヒート防湿壁取付等その必要性に疑問があるものもあること、また、
浴室、トイレ、洗面台等の工事は、被害者以外の家族の利便にも供することが
認められるとして、見積額のうち被告に負担させるべき金額は8割とした。
そして、原告らが公的扶助として市より身体障害者住宅改善費助成金25万円の
給付を現実に受けたとして、助成金を控除した415万8136円を認めた。

さらに、被害者が請求していた将来取得する住宅の購入費用の一部3000万円
(主位的)、あるいは現在の住居に将来改造する必要がある部分の改造費として
2085万7725円(予備的)については、本件全証拠によっても、
上記住宅購入や住宅改造の必要性を認めるに足りる証拠はないとして、
認めなかった。

本裁判例は、被害者が請求する自宅改造費について、その8割のみを被告に
負担させるべきとし、さらに現実に受けている公的扶助を控除して損害額を
算出したものである。

工事内容として、バリアフリー化等にとどまらず防湿壁取付等をしており、
その必要性が立証できなかったことに加え、被害者の家族の利便性が
上がったことを重視したものと思われる。

c 全額否定した裁判例
裁判例 岡山地判平成元年5月29日
(交民集22巻2号619頁)
年齢 37歳(症状固定時)
性別 男子
後遺障害の
内容 第5頸髄以下の完全麻痺等
自賠責等級 1級
被害者側の状況 日常生活に全介助を必要としている。

認定された内容
現在の住宅は、従来居住していた県営アパートが階段があるなど被害者の
生活上の不便のため、本件事故後に新築(代金約2000万円)したものの、
現実に居住してみたら、例えば玄関先のスロープが急であるとか、浴槽を
埋込式にしているなど、種々不便な点がでてきた点を指摘し、これらはいずれも
新築の時点で十分な配慮をすれば二重の出費を回避することができたはず
であって、その費用の全部を被告らに求めることは過大な要求といわざるを
えないとした。

また、現在の住宅の新築に要した費用のうち特に被害者の車椅子生活に
適するように配慮したための余分な出費(家族の共益部分を除く。)
などを損害の内容として検討する余地がないではないが、本件においては、
証拠上これを確定することができないとし、被害者主張の住宅改造費に
ついて全額につき失当として認めなかった。

本裁判例は、被害者が事故後に約2000万円を投じて新築した住居に対する
家屋改造費について、新築の時点で十分配慮ができた点を指摘し、さらに、
新築時に被害者の車椅子生活に適するように配慮した余分な出費については
損害として検討する余地があることを指摘しつつも、証拠上確定できないとして、
家屋改造費を一切認めなかったものである。

新築や大規模な改造の場合、事故と相当因果関係がある損害として
認められる部分が一部であることは十分に考えられるため、工事の内容や
費用を見積や工事見取図等で詳細に立証しておくことが非常に重要で
あることを示す裁判例である。

d 増額家賃について認めた裁判例
裁判例 東京地判平成7年3月7日
(交民集28巻2号380頁)
年齢 40歳(事故時)
性別 女子
後遺障害の
内容 両下肢機能全廃
自賠責等級 1級
被害者側の状況
立ち上がることも歩行も一切できず、常時車椅子の使用を余儀なくされ、
自力での排尿・排便も出来ない。

認定された内容
原告が自宅での生活するために、台所、浴室、トイレ等家屋の改造が
必要となったこと及びその他電動ベッド等の補助器具が必要となったとして、
そのための費用215万円。

上記後遺障害のため、従前居住していた家屋に居住することができなくなり、
住居を移転したため、1か月あたりの家賃が従前に比較して5万8230円
増加したことを認め、家賃の差額につき本件事故と相当因果関係を有する
損害としては5年分が相当とし、中間利息を控除して、302万5211円。

本裁判例は、自宅改造の費用のみならず、住居を移転したことによる
増額家賃についても一定の範囲内で損害として認めたものである。

被害者がもともと賃貸住宅で暮らしているような場合には、
家屋の改造自体ができない場合もあり、その場合には介護に適した住居に
転居ことも十分に考えられるため、転居に伴い増額した家賃について
主張・立証することは重要である。




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